暖房器具としてエアコンや電気ストーブを使っている人が多いと思います。しかし、真冬になると、さらに暖房効果が高い機器が欲しくなりますね。そんなとき、よく選ばれるのが石油ファンヒーターです。実際、家電量販店でもよく売れています。今回は、石油ファンヒーター選びのポイントと主要2社の製品を紹介します。
石油ファンヒーターの2大メーカー
石油ファンヒーターは、石油ストーブより便利で安全。
石油ストーブは、皆さん知っていますよね。「円筒形のもの」と「四角いもの」がありますが、どちらも熱が上に行くので、「天井は暖かいけど足もとは寒い」といった状態になりがち。四角い方は反射板で前方にも熱が来ますが、室内をムラなく暖めるには不向きです。
一方、石油ファンヒーターは、内部で灯油を燃やして、その熱をファン(扇風機状の装置)で温風として噴き出します。そのため部屋全体が温まりやすく、石油ストーブより安全性が高くなっています。ただし、電気が必要なので停電のときは使えません。
一番大事なのは、「部屋の広さに合った機種を選ぶ」こと。
他の暖房器具についての記事やエアコンの記事でも書きましたが、一番大事なのは部屋の広さに合った機種を選ぶことです。できれば、実際に使う部屋よりワンサイズ大きいほうが安心とされています。
灯油は、1リットルから得られる熱量にほとんど差がありません。大きな機種でも小さな機種でも、1リットルの灯油を燃やしたとき出る熱は同じです。そして、大きな機種でも火力を絞れば(たとえば、弱に設定すれば)燃やす量は減りますが熱量も少なくなります。
逆に、大きな部屋で小さな機種を使うと、強に設定してもなかなか温まりません。部屋にあった機種なら、設定した温度まで上がると自動的に弱になったりしますが、小さな機種だとずっと強で運転している状態が続きます。
なお、今は多くの機種が「ECOモード」を備えています。これは、できるだけ灯油の使用量を減らすための工夫なのですが、残念ながら、エコカーのように劇的に燃費が良くなることはありません。
ECOモードは、設定した温度を超えたら早めに運転を弱くして、設定温度より下がったらまた少し運転するという状態を繰り返します。ECO運転中は少し寒く感じるという声もあります。
今は、「ダイニチ工業」と「コロナ」の2強の時代。
かつては、10社以上のメーカーが石油ファンヒーターを作っていました。しかし今は、4社だけといわれています。
家庭向け石油ファンヒーターのシェアNo.1はダイニチ工業株式会社で、2番手は株式会社コロナです。ただし、石油ストーブや業務用も含めた暖房器具全体でみるとコロナの方が大手です。
この2社は、どちらも新潟県の会社で(新潟市と三条市)、どちらも国内生産をウリにしています。そして、ダイニチとコロナで国内シェアの8割以上と推測されています(正確な数字は公開されていません)。
コロナは老舗で、地元では有名な優良企業とされてきました。一方、ダイニチは、石油ファンヒーターの問題だった「着火に時間がかかること」と「臭いが気になる点」に対して、いち早く対策したことで人気を得たといわれています。
今は、コロナも点火時間を短縮する工夫をしたり消臭機能を取り入れたりして実質的な差は縮まっています。しかし、販売台数はダイニチのリードが続いています。
ダイニチとコロナで、内部のしくみが違う。
石油ファンヒーターは、灯油をそのまま燃やすのではなく、灯油に熱を加えて気化させて、つまり液体の灯油を気体(ガス)にしてから燃やします。実は、この気化させる方式がダイニチとコロナで違っています。
気化の方式が違っても、そのことを知らなくても、普通に使うには何も困らないのですが、この違いが両社の製品の特徴に表れています。
ダイニチは、プンゼン方式を採用しています。これは、灯油を電気ヒーターで温めて気化させます。そのため、運転中に電気代がかかりますが、着火が速いというメリットがあります。
コロナは、ポンプ噴霧式を採用しています。こちらは、点火のときは電気で灯油を温めるのですが、燃焼が始まるとその熱で気化させるので電気代が少なくて済みます。ただし、点火に時間がかかります。
また、石油ファンヒーターは点火や消火の際に臭いが出ます。これを、完全に抑えることはできないのですが、今は両社とも工夫を重ねてかなり減らしています。ただ、ダイニチの方が構造的に臭いを抑えやすく消臭(減臭)効果が高いといわれます。
皆さん気になる「電気代の差」は?
機種や大きさによるので一概にはいえませんが、燃焼中(運転中)の消費電力は、ダイニチの方がコロナの10倍くらい多くなっています。
これだけ聞くと、「コロナがいい」と思うかもしれません。しかし、石油ファンヒーターは元々消費電力が少ないので、1ヶ月の目安で100円前後か1,000円前後かといった差です(もちろん、使用時間によって変わります)。
しかも、点火のときはコロナの方がダイニチの2倍くらい電気を使います。そのため、実際の差はもっと少なくなります。
また、コロナの上位モデルには、点火時間を短くするために、事前に気化装置を暖める機能があります。点火の時間をタイマー設定したときも、かなり電気を使います。これらの機能を使うと消費電力が大幅に増えて、電気代が逆転することもあるようです。
石油ファンヒーターの使用上の注意。
石油ファンヒーターは便利だし、電気ストーブより暖かいので人気がありますが、使用上の注意がたくさんあります。
まず、リモコン付きの機種もありますが、リモコンで点火はできません。設定の変更などはできます。また、石油ファンヒーターは安全のため3時間で止まるようになっています。それより長く使うときは「延長」ボタンを押してください。
次に、必ず換気をしてください。室内の空気を使って灯油を燃やすので二酸化炭素が増えますし、不完全燃焼がおこると一酸化炭素が発生して危険です。寒冷地などで換気が難しい場合は、FF式など地域に合った製品を使ってください。
逆にメリットとして、1リットルの灯油を燃やすと約1リットルの水分が発生します。そのため、加湿の手間は減ります。
前シーズンの余った灯油は使わないでください。保存状態が悪くて劣化した灯油を使うと、臭いが強くなったり機器が故障する原因になります。水などが混ざった灯油も同様です。
シリコン成分を含んだヘアスプレーや防水スプレー、床用ワックスなどを石油ファンヒーターの近くで使うと、誤作動を起こして点火しなかったり自動的に消えてしまうことがあります。
石油ファンヒーターの選び方
では、小型、中型、大型の3タイプで三本勝負。ダイニチとコロナ、それぞれの「おすすめ製品」を比べてみましょう。
(1)個室に便利「小型タイプ」
まず、木造9畳(コンクリート12畳)まで対応の小型タイプです。小さな機種でも、今は消臭機能などが充実しています。コスパ優先なら、もっとシンプルで安価な機種もありますが、狭い部屋ほど臭いも気になるので、なるべく多機能な方がいいと思います。
▼ダイニチ工業
FW-3320KE
コンパクトながら35秒で着火し、秒速消臭システムプレミアムを搭載した、ダイニチらしさを実感できる1台。
▼コロナ
FH-VG3320Y
プレミアム消臭「極」制御を搭載し、標準着火は75秒だがタイマー等を使えば7秒着火も可能な、コロナの弱点を抑えた1台。
(2)機能充実「中型モデル」
石油ファンヒーターは、木造10畳~15畳(コンクリート13畳~20畳)に対応した中型機が最も多機能なフラッグシップモデルになっています。便利さや使いやすさを求めるなら、このクラスが最適です。
▼ダイニチ工業
FW-4720GR
スピード着火35秒とオートターボ運転で温まるのが速く、秒速消臭システムプレミアムやWタイマーを搭載したハイブレードモデル。タンク容量が9Lと大きいのも魅力。
▼コロナ
FH-WZ4620BY
通常着火65秒と従来より10秒短縮、プレミアム消臭「極」制御やルーバースイングも搭載した最も多機能なモデル。リモコン付きなのも、うれしい。
(3)広い部屋に対応「大型タイプ」
大型の石油ファンヒーターは火力優先。そのため、中型モデルより少し機能が絞られていて、着火時間も長めです。しかし、使う部屋の広さにあった機種を選ぶのが基本なので、大きい部屋で使うなら、このクラスにしましょう。
▼ダイニチ工業
FW-7720SDX
ダイニチの大型モデルは、着火時間が40秒と少しだけ長くなるだけで、他の機能は中型のフラッグシップモデルと同じく多機能。さらに大きなLDKやオフィスには、木造26畳(コンクリート35畳)まで対応のFZ-101があるが少し機能が減る。
▼コロナ
FH-VX7320BY
コロナのVXシリーズは上級スタンダードモデル。木造10畳(コンクリート13畳)から木造19畳(コンクリート26畳)まで5機種ある。その中で最も大きな部屋に対応するのが、このFH-VX7320BY。通常着火150秒と長いが、大きな部屋でコロナ機を使うならこれ。
まとめ
三本勝負と銘打ちながら、あえて勝敗は決めませんでした。というのも、使う人によって最適な機種が変わるので。どちらの方が自分の生活に合っているか、あなたが決めてください。実際のところ、両社とも相手の製品をよく研究している感じで、操作性や付加機能では大きな差はなくなりつつあります。たとえば、給油キャップの開け方にしても、両社で方式は違いますが昔の石油ストーブに比べると格段に便利になっています。
ただ、一般論としては、一回の使用時間が短いならダイニチ、一度つけたら長時間使う人はコロナがいいといわれます。たとえば、朝1時間、夜2時間という感じで点火の回数が多くてトータルの使用時間が短い場合は、運転中の消費電力の大きさがあまり負担になりません。むしろ、着火時間の速さなどダイニチの使い勝手の良さが際立ちます。一方、長い時間つけておくことが多いなら、点火時の消費電力が多めながら運転中は消費電力が少ないコロナがいいでしょう。
解説/高山とほ(プロダクトライター)
約5年に渡って家電量販店の店頭に立ち、いろいろなお客様に対応した経験から「それぞれのお客様にとって最適な製品を選ぶポイントを的確に伝える」ことをモットーにしているモノ派のライター。学生時代に工業デザインを学び、日本製家電の黄金期に郷愁を感じる世代。アウトドアを好み、道具にはこだわるほう。