モノには、ポイントとなる特性、特長があります。それは多くの場合、出自、つまり何から進化したのかが大きく関わってきます。今、掃除機の主流であるスティック型掃除機の出自は「ハンディ掃除機」です。吸引力は、そんなに強くありませんが、軽量かつコンパクト。この特性を活かし、さっと掃除できる様に開発されたのがスティック型掃除機です。しかし、ユーザーニーズは尽きることなく、メーカーはできる限り答えようとします。程々に留めておくのも一つの方法なのですが、愚直に技術を追求するのです。今日は、そんな掃除機、東芝のスティック型掃除機 トルネオシリーズのフラッグシップモデル「VC-CL3000X」、そしてその真逆のポジションに位置する「VC-CLS1」をレポートします。
日本メーカーが「ヘッド」に強い理由
「吸引力」。それは、掃除機をセレクトする時、みんな気に掛ける特性です。この言葉と共に、日本市場を席巻したのが、ダイソン。英国メーカーですが、こと掃除機に関しては、日本市場でも顔役です。ダイソンが世に問うたサイクロンシステムは、「吸引力が落ちない」技術であり、「吸引力」大好き、というより唐物に弱く、カタログスペック大好きな日本人に大いにうけました。
しかし、クルマの走りが、エンジンパワーだけで語ることができない様に、ゴミを追い込むヘッドは非常に重要です。とはいうものの、絨毯主体の欧米と、フローリング、畳の日本とでは全く異なります。ヘッドには、床面(絨毯、フローリング、畳など)からゴミを掻き出す役目と、掻き出したゴミを吸引孔近くに持ってゆき、確実に吸い取らせる2つの役割があります。
絨毯の場合、ヘッドで掻き毟る様にすると繊維が傷みます。このため、どちらかというと、ヘッドはコンパクトで当てる感じ。それを強い吸引力で吸います。
一方、フローリング、畳は、それなりに強い。回転式のパワーヘッドでゴミを掻き出し吸い込みます。吸引力だけでなく、ヘッドとの合わせ技で、掃除をするというわけです。当然、畳、また足触りの良い柔らかめの床材などに、丁寧に合わせこむのは日本メーカーの得意技。パワーヘッドは、日本メーカーの十八番でもあるのです。
「オシドリヘッド」搭載のフラッグシップ機「VC-CL3000X」
オシドリヘッドは、前後に2本のローラーを持ちます。やや大きい前の方のローラーはゴミを前から後ろに送ります。
そして吸引。完全に吸引できればいいのですが、実際は吸い残しがでます。
通常この水残しはヘッドの後ろ側のブラシがホールドします。そしてヘッドを引くとき、また吸引口が近くに来ます。その時始末するというわけです。当然、途中でヘッドをあげてしまいますと、ゴミは残った状態に、取り残しになるわけです。
オシドリヘッドの後ろはバーブラシでなく、ローラー。これを前ローラーとは、逆方向へ回します。すると吸引し残しされたゴミは再度、吸い込み口へ運ばれます。日本らしい、一手先読みした様な作りです。
実際に使ってみると、確実にゴミが送られている感じがしますし、所々、ヘッドを浮かし確認しましたが、狙った感じにでき上がっています。
「VC-CL3000X」の短所
巨大バッテリーで重い
しかし、いいことだけではありません。VC-CL3000Xにも短所があります。それは重いことです。フル重量で2.9kg。1500Lのペットボトル2本分。ちょっと嫌になる重さです。
スティック型掃除機のパーツで一番重いのは、バッテリー。モーター、ヘッドがそれに続きます。
サイクロンシステム用の強力モーターについで、ヘッドのパワーローラーヘッド2本をぶん回しますので、致し方がないというとその通りなのですが、それに加えてもう一つ理由があります。
それは、標準モードで「40分」、使える使用だからです。何度聞いても疑問なのですが、ユーザーアンケートをとると、1回の掃除で、掃除機をかける時間は40分なんだそうです。掃除は、整理(落ちているものの分別)、整頓(片付け)、清掃(掃除機をかける)の順で行われます。毎日、40分も掃除機をかけるのは、いくら何でも多すぎる様に感じるのですが、もしかしたら、大掃除基準での解答かも知れません。
で、オシドリヘッドを使いながら掃除するのが、標準ですから、消費電力もバカになりません。それが40分。ユーザーの言うことを実現したら、2.9kgにもなってしまったと言うわけです。今の主流は重くても、2.0kg。そして全メーカー果敢に軽量化に挑戦しています。そんなモデルは、1.2〜1.3kgと超軽い。その2倍以上です。
VC-CL3000Xの使い心地は?
動きはやや鈍重だが、落ち着いた感触は好ましい
使ってみるとどうかと言うと、スタンドから持ち上げる瞬間は、手にズシっと来ます。ところが掃除の体勢に入るとさほどでもありません。これは持ち方に由来します。
東芝の持たせ方は、トートなど手提げバックを持って移動する感じです。手提げは、重いものを取り敢えず持って歩くのに楽なスタイルです。コントロールしやすいわけではありませんが、なんとか頑張れる感じの持ち方です。
東芝は、VC-CL3000Xに、この考え方を使いました。重さに逆らわず、掃除すると、それなりにがんばれます。動きが鈍重なのは仕方ないですね。
しかし、メリットもあります。ヘッドが浮き上がらず、床への追従性がとてもいいのです。これが軽量級だと、コントロールしやすい一方、力が入りすぎて、ヘッドが暴れたりします。これがないのは、ないで嬉しいことです。
またゴミセンサーを搭載しており、自動モードのの場合、適切なモーター回転をセレクト。節電に努めています。
消費電力(ACアダプター):本体充電時 約25W/充電完了後 約0.5W
本体電源方式:充電式(バッテリー リチウムイオンバッテリー 25.2V セル数 7)
本体サイズ(cm):スティック時 幅25.7×奥行22.0×高さ112.5/充電収納時 幅29.1×奥行28.8×高さ116.6
充電台サイズ:幅29.1×奥行28.8×高さ91.0
本体重量(kg):2.9kg(本体・延長管・床ブラシの合計質量)
集塵容量:0.2L
充電時間:3.5時間(室温や使用時間などにより異な…
スタンダードモデル「VC-CLS1」の特徴
一方、スタンダードモデル VC-CLS1 は、トルネオシリーズ史上、最軽量を誇ります。何と標準重量、1.2kg。VC-CL3000Xの半分以下。数年前では考えられなかった驚愕の軽さです。
軽さにも驚きですが、華奢で、特にヘッドが小さいのにはびっくりします。幅がないのです。外寸で20cm。成人男性の掌とほぼ同じか、小さめ。ヘッドと本体をつなぐポール(延長管)もやや細め。ただし、ポールは薄い金属で包まれているので、チャチな感じや、強度が低い感じは全くありません。
また、軽量モーターは新開発。そしてそれに合わせて、バッテリーも軽量化してあります。ちょっとすごいと思ったのは、シングルロールながら、パワーヘッドになっていること。オシドリへッドの様な力強さはありませんが、日本メーカーらしく、ヘッドへ気を使います。
VC-CL3000Xに搭載されている、ゴミセンサーなどは付いていません。このため自動とも言える「おまかせモード」はありません。代わりに、「標準」「強」に加えて、「おすすめ」モードがあります。
バッテリーの持ちは、「標準」で約32分、「おすすめ」で約20分、「強」で約8分。吸い込みっぷりは、それでもかなりよく、VC-CL3000Xの「標準」と VC-CLS1「おすすめ」でほぼ同じ感じがしました。吸い込みが良いのは、ヘッドが小さいため、吸引に有利なこともあります。
何にせよ、使用時間が短い、ヘッドが小さいので、何度もかけなければならないことを除けば、軽量は全ての面でプラスに出ます。VC-CL3000Xがブルドーザーの様に安定した感じなのに対し、VC-CLS1は、軽自動車かスクーターの様な感じ。軽快さとテキパキさが売りです。特に大きな差が出てくるのは、ハンディにした時、VC-CL3000Xは重いので、気を入れる大掃除以外はちょっと遠慮したい感じですが、VC-CLS1は任せなさいと言う感じです。
ゴミが捨てやすく洗えて衛生的
吸引力が99%以上持続
まとめ
自分の掃除スタイルで選ぼう!
VC-CL3000Xは、掃除機に必要な要素を全部詰め込んだ感じです。しかしその分、スティック型掃除機特有の手軽さがかなり薄れた感じです。それでもキャニスター型のサイクロン掃除機をえっちらおっちら出す感じよりは全然手軽です。
逆に、VC-CLS1は、そぎ落とせるものは、全部落とした感じです。独り身の軽快さと言う感じす。その分、スタンドすら付いていません。手持ち式スティック型掃除機の場合、重心は手元、つまり上に来るので、スタンドで支えようとすると、土台を大きく重くする必要があります。このため、不要とする人もいるのですが、あると便利です。
それはさておき、掃除をどう考えているのかで、セレクトがすごく変わってきます。どかっと掃除したい人は、重くても確実なVC-CL3000Xがいいでしょうし、空き時間にさっさと済ませますと言うなら、VC-CLS1がいいでしょう。そうすると、結婚前と後で分けてもいいかも知れませんね。
また、今回はテストしませんでしたが、この間のVC-CL1700というモデルもあります。こちらは、ローラー1つのパワーヘッドで、標準:約30分。代わりに1.8kgと、今ドキのスティック型掃除機らしいスペックです。
東芝もなかなか上手いラインナップで魅せてくれます。あなたの掃除に合いそうな掃除機はありましたでしょうか。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京散歩とラーメンの食べ歩き。