コロナ禍で帰省もままならず、お墓参りができないという人は多いでしょう。これを機に「墓じまい」をする人も増えているようです。また、「散骨」や「手元供養」など、最初からお墓を持たないという選択も関心を集めています。自然葬の一つとされる散骨ですが、いくつかルールがあるようです。葬儀や供養に詳しい葬儀相談員の市川愛さんに伺いました。【解説】市川愛(葬儀相談員・市川愛事務所代表)

解説者のプロフィール

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葬儀相談員。市川愛事務所代表。一般社団法人終活普及協会理事。2004年より、日本初の葬儀相談員として、4000件を超える相談・質問に対応するほか、各地での講演や執筆、企業コンサルティングを行う。テレビ、ラジオなどメディアの出演も多く、わかりやすい語り口に定評がある。著書に『お葬式で知っておきたい58のこと』(PHP研究所)、監修書に『遺族のための葬儀・法要・相続・供養がわかる本』(学研)、『ぜんぶわかる葬儀・法要・相続の手続きとマナー』(成美堂出版)などがある。
▼市川愛事務所(公式サイト)

コロナ禍で増えている「お墓問題」

お墓の管理ができない

私は、葬儀や法要についての相談を受けたり、葬儀準備のサポートをしたり、つまりは「人が亡くなる際に発生する諸々のこと」のお手伝いをしています。コロナ以前は、「故人と遺族、双方が納得のいく葬儀をしたい」という相談が多く寄せられていました。ところが最近は、「実家のお墓をどうにかしたい」「お墓を建てずに供養したい」など、お墓に関する相談が増えてきています。

昔に比べ、情報網や交通機関が発達した今、先祖代々の土地に住み続ける人は減ってきています。昭和のころまでは、「実家に残ってお墓を守る」「墓を守るために故郷に引っ越す」といったことが、普通に行われていました。しかし、少子化が進み、都市に人口や産業が集中している状況では、お墓のそばに住み続けるのは難しいでしょう。実家から離れた場所に住み、「お墓参りは年に一回の帰省時だけ」という人も多いでしょう。昨年来のコロナ禍で、お盆や年末年始に帰省できなかった人が、お墓参りの代行や「オンライン墓参り」を利用したという話も、よく耳にしました。

画像: コロナ禍で話題になった「オンライン墓参り」。

コロナ禍で話題になった「オンライン墓参り」。

「自分たちができないお墓の管理を、子どもや孫に引き継いでいいのか?」

そう考える人が増えても、不思議ではありません。お墓を引っ越したり閉じたりする「墓じまい」や、お墓に納骨せずに海や土に還す「自然葬」、遺骨を自宅に置く「手元供養」などへの関心の高まってきたのは、そうした背景があると考えられます。

海や土に埋葬する「自然葬」が人気

「墓を残したくない」「子どもに負担をかけたくない」という理由のほかに、「自然回帰」の考えのもと、自然葬を希望する人もいます。

一般に、「遺骨は骨壺に入れられて、お墓に納められるもの」と考える人が多いでしょう。しかし、日本ではかつて土葬が普通でしたし、「亡くなったあとは土(自然)に還る」という考え方も、特殊なものではありません。ですから、遺骨を海にまく「散骨」や、遺骨を直接土に埋めて墓石の代わりに植樹をする「樹木葬」などへの関心が高まっているのは、不自然ではないと思います。

ここでは、自然葬のなかでも人気のある、「散骨」について説明しましょう。

散骨とは

海にまくのが一般的

火葬後、遺骨を海や山にまくことを「散骨」といいます。現在、散骨といえば海にまくことを指すのが一般的です。「海洋葬」とも言います。

お墓に関する法律である「墓地、埋葬等に関する法律」には、散骨についての記述がありません。そのため、散骨をする際には、役所への届け出など、法的な手続きは発生しません。法律で決められていない分、しっかりとマナーを守り、節度を持って散骨を行う必要があります。

「遺骨を海にまく」という行為が、刑法の遺骨遺棄罪に当たるのではないかという意見が出たこともあります。しかし、1991年に法務省が非公式ながら、「葬送のための祭祀で、節度をもって行われる限り問題ない」という見解を示しました。つまり、国として公式見解は出していないけれども、散骨葬を黙認している、というのが実状となっています。

山での散骨は、土地所有者や近隣の住民から苦情や、農産物への風評被害などのトラブルが発生しやすいため、行われていません。池や沼、湖、河川なども同じ理由で、散骨はできないと考えたほうがいいでしょう。

散骨するにはどうしたらいいか

散骨をする際には、近隣の住民に不快感を与えたり、環境破壊につながったり、水産物の生育に悪影響を及ぼしたりすることは、あってはなりません。そうしたトラブルがもとで、散骨を禁止した自治体もあります。前項でお話ししたように、散骨は海に撒くのが一般的ですが、人が集まる海岸や養殖場の近辺は避けるべきです。船で外洋に出て、漁場からも離れたところで遺骨をまくことになります。このため、海への散骨を希望する場合は、その海域の散骨に詳しい知識を持つ専門業者に依頼するのが安心です。

遺骨を粉にする必要がある

散骨をする際には、火葬した遺骨をそのままの形でまくことはできません。何らかの形(例えば、魚の網にかかるとか、海岸に流れ着くなど)で人目に付く可能性があるからです。そのため、第三者から見て人骨だと認識されない程度に、原形を留めない形まで細かく粉砕してから、まくことになっています。遺骨を細かく粉砕することを、「粉骨」といいます。

粉骨の大きさについて、法律上の規定はありませんが、欧米諸国の散骨ルールに従って「一片2ミリ以下」というのが定着しています。「砂と同じくらいの大きさ」と思えばいいでしょう。

自分で粉骨するのはお勧めしない

散骨専門業者や、散骨を手掛ける葬儀社なら、粉骨加工も行ってくれるところがほとんどです。「大切な人の遺骨を他人に触られたくない」という理由から、ご自身で粉骨されるかたがいます。粉骨加工は、遺族が行ってもかまいません。ただ、時間がかかるばかりでなく、心理的な負担が大きいため、お勧めはしません。実際に自分の手で、大事な遺骨をたたいたり、すりつぶしたりする行為は、心に大きなダメージを与えます。粉骨の費用はそれほど高くなく、散骨の料金に含まれているケースも多いので、業者に頼むことをお勧めします。

散骨のメリットとデメリット

散骨では、墓地や墓石を購入する必要がなく、お墓の管理費も不要となるため、費用の負担が少なくなります。また、お墓のように継承者についての心配もありません。これらは散骨のメリットといえます。

一方で、海に散骨すると、「手を合わせる対象」がなくなるため、人によっては心もとなく感じ、気持ちの整理がつかない場合もあります。お墓に代わる「故人の偲び方」を考える必要があります。また、散骨は船で外洋に出るため、気象状況に左右されます。お天気が良くても海が荒れていると船が出せず、当日キャンセルということも少なくありません。埋葬の日時が確定できないのは、大きなデメリットになるでしょう。

散骨の方法・費用

散骨に同行するか、業者に任せるか

一般的な海での散骨は、チャーターした船で外洋に出て、花などと一緒に骨をまきます。その際、遺族が立ち会うか、委託散骨にする(立ち会わずに業者に任せる)かを選びます。

委託散骨の場合は特に、「散骨証明書」を発行してもらいましょう。公式な証明書ではないので、役所に提出する必要はありませんが、散骨の日付と故人の名前、散骨した海域の緯度・経度などが記載されています。散骨の様子を撮影した写真や動画を送ってくれる業者もあります。委託散骨の料金は、5~7万円前後が相場です。

散骨に立ち合う場合は、船に複数の遺族が乗り合わせるケースと、船を貸し切るケースで料金が変わります。乗り合いだと10~15万円、貸し切りは船の大きさによって20~30万円前後になるでしょう。あまりにも安過ぎたり高過ぎたりする業者は、避けたほうが無難です。また、散骨証明書を出さない業者も選ばないほうがいいでしょう。

全部散骨するか、一部手元に残すか

散骨は、遺骨のすべてをまく必要はありません。私は、ご遺族から相談を受けたら、「遺骨の一部を手元に置く」ことをお勧めしています。「手を合わせる対象」を作っておくことが、心の安定につながるケースが少なくないのです。また、遺骨を一部でも残しておけば、あとから「やはりお墓に入れよう」となった際にも対応できます。散骨する場合には、一部を手元に残すことをお勧めします。

「手元供養」も併用する

コロナ禍では、通常の葬儀ができず、気持ちのうえで、きちんと故人とお別れができないケースが増えています。悲しみや寂しさを受け止めてくれる「何か」が、今は特に必要です。前項で、散骨の際に、一部を手元に残すことをお勧めしました。ほんの少し遺骨が身近にあるだけで、故人と対話ができ、心が落ち着くようです。

最近は、手元供養に適した小さな容器や、ペンダントにもなるカプセルなどが市販されているので、生活スタイルに合ったものを選ぶといいでしょう。遺骨を人工宝石やセラミックに加工し、アクセサリーやインテリアの一部として身近に置く人もいます。加工には、ある程度の量の遺骨が必要なので、散骨する前に加工業者に問い合わせておきましょう。

まとめ

これからの時代、葬儀の形式やお墓の有無、供養の仕方などは、どんどん変わっていくと思います。でも、残された人たちが故人を偲び、大切に思う気持ちに変わりはないでしょう。故人にも遺族にも負担がなく、心安らかに供養できるような方法を、できれば元気なうちに考え、調べておくことをお勧めします。健康なときなら、家族で明るく話し合うことができます。お茶を飲みながらの雑談でもいいので、ぜひ機会を作ってください。

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