筋トレで重要視すべきは、筋線維をいかに損傷させるかではなくて、筋線維にどういう動きをさせれば一番強くなる「適応」を筋肉から引き出せるかです。最初の数回で、できるだけハイパワーな状態で出し切って、最終的に1回も挙げられない状態で終了。こうした高強度の運動が筋肉に対する適応刺激になって、はじめて筋肉・筋力が増強されます。【解説】小島央(央整形外科院長)
執筆者のプロフィール
小島央(こじま・ひさし)
央整形外科院長。整形外科医。日本体育協会公認スポーツドクター。e-クリニックスタッフ医師。2007年に、京都府ボディビル選手権にてベストルーキー賞を獲得。筋肉ドクターの愛称で親しまれている。2009年にアイアンクリニック零号店、2014年11月に央整形外科&フィットネスジム・アイアンクリニックを開業。著書に『ひざ・股関節の痛みは週1スクワットで治せる!』(マキノ出版)がある。
▼央整形外科(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
本稿は『ざんねんな筋トレ図鑑』(マキノ出版)から一部を抜粋して掲載しています。
最初から全力を出す
×力をセーブしながら始める
運動を始めた後、最大パワーが出せるのは、どのレップ(回)かといえば、最初の数回です。同じ重量を挙げ続けるなら、必要な力は変わりません。ですから、最初の最も速いスピードで挙げられるときに、最大パワーが発揮されるということです。
そこから徐々にパワーダウンしていきます。
そして、できるだけハイパワーな状態で出し切って、最終的に1回も挙げられない状態で終了。こうした、高強度の運動が筋肉に対する適応刺激になって、はじめて筋肉・筋力が増強されます。
最初に最大パワーを出し損なって、あとダラダラ続けてしまった場合、その後、追い込んでさらに最大パワーが出せるかというと、もう不可能なのです。データによると、次にまた最大パワーの運動ができるようになるのには2日以上かかります。
多いんですね。最初の1~2回めから、力をセーブしつつ、かる~くやってしまう人が。しかし、あとから追い込もうとしても最大パワーは出せません。その種目が台無しになってしまいます。
筋トレ効果を考えると、最初が肝心なんですね。
『最初から全力を出さないと筋肉は強くならない!』
うっかり、ゆっくり始めてはいけない。
筋肉に正しい適応を起こさせろ
×筋損傷で超回復を目指せ
筋肉に負荷を与えて筋肉を破壊すると、休息後に「超回復」が起こり、筋肉が増強される。これが超回復理論。みなさん、この理論を盲信し、追い込んで筋肉を壊し、超回復を起こさせようと無茶をします。
しかし、重要視すべきは、筋線維をいかに損傷させるかではなくて、筋線維にどういう動きをさせれば一番強くなる「適応」を筋肉から引き出せるかです。
私の結論は、マキシマムパワーの状態を一気に出しつつ、それをできるだけ長く続ける。この状態は30秒ほどで終わりますが、この運動こそが筋トレの根幹。すると、筋肉が正にパワーアップする適応を起こします。
適応反応から考えると、筋肉を損傷するまで追い込む必要は、いささかもないんですよ。
最大パワーじゃない、そこそこ高強度な運動を続けて筋損傷を目指すと、ケガをすることはあっても、強くなることはありません。
初心者なら、まだそれでも多少は伸びてくるでしょうが、ある程度までいったら、ケガをしたり伸びなくなったり……。ドラゴンボールのサイヤ人的な、ボロボロになるまでやられたら強くなるという危険思想は、本当に考え直したほうがいいですね。
『超回復ではなく、「超適応」を引き起こせ!』
極限まで追い込んでもいいことない!
運動後も日常生活程度の運動をするべき
×筋トレ後は安静に
トレーニングしたあとは、超回復をするために、安静にしたほうが筋肉の発達がよいと考えている人が、けっこういらっしゃる。ホメオスタシス(恒常性)をベースにした「機械論的超回復理論」を信じていると、安静にしてストレスをかけないでおけば、回復しやすいと考えてしまうのですね。
しかし、私は、日常生活で行う程度の低強度の運動をしているのが、人間にとっての定常状態であり、それ以上に安静や休養にこだわるのはよくないと考えています。
絶対安静にすると、筋力は1日0.5%ずつ低下するというデータがあります。追い込んでクタクタな体で安静にしていたら、むしろ「廃用性萎縮(使わないことで体が衰える状態)という適応」を誘発する行為になるんじゃないかと危惧しています。
筋トレで追い込んで、クタクタになるまでやって、それ以外は安静にするなんてのは、高血圧と低血圧の薬を飲んでいるみたいなもの。上げたいのか下げたいのかわからない。筋力の向上を阻害するんじゃないかとさえ、思ってしまいます。私のところへ筋トレに来られているかたには、ふだんの生活では、特に安静にはしないように勧めています。
ですから、超回復のために安静や休養を重要視するのは、ざんねんな筋トレといえますね。
『筋トレ後の安静は有害。高血圧と低血圧の薬を両方飲むようなもの。』
安静が宝をもたらすのは昔話の中だけ。
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なお、本稿は【ざんねんな筋トレ図鑑】(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(1)「【筋トレ初心者向け】筋トレの頻度は毎日?週一?負荷のポイントは?」の記事もご覧ください。