今回はY2Kについてご紹介します。2000年代に流行したいわゆる”Y2K”なファッションが、古着として現在ひそかな注目を集めています。当記事では、90年代後半~ゼロ年代初頭にかけて流行した代表的なファッションブランドをご紹介しつつ、国内外で人気を博している理由や、独特の魅力に迫ります。
「Y2K」なファッションの人気が急上昇中
ファッションの主流が変わってきた
突然ですが、最近街を行き交う人々やインターネット上に溢れるセルフィー(自撮り)に、なんとなく変化を感じることはないでしょうか?
ZARA、H&M、ユニクロに代表されるファストファッションが火付け役となった「ノームコア」なスタイルが主流だったのは既に過去の話。現在は再び、スポーティなデザインの服や「ダッドシューズ」とも称されるハイテクスニーカー、オーバーサイズなシルエットなどが一般的になりつつあります。
なかでも、近年静かな注目を集めているのが、「Y2Kファッション」という90年代~2000年代のトレンドを再評価するムーブメントです。特に、日本発の「Y2Kビンテージ」な古着にも注目が集まっており、海外からの買い付けとInstagramなどのSNSでの共有も盛んであるように見えます。
少し前だったらNGにも見えるオンリーワンで攻めたスタイルが、現在では当たり前のように受け入れられているようです。
そもそも「Y2K」とは?
ファッションの変遷に触れる前に、まずは「Y2K」の意味や定義を簡単に整理していきます。
そもそもY2Kとは「Year 2 Thousand」の略語で、当初は「2000年問題(※注1)」 というコンピュータートラブルにまつわる文脈で用いられていたスラングでした。
(※注1)1999年→2000年を迎えた際、データ処理上さまざまなエラーが発生することへの懸念から起こった問題
昨今、ファッションをはじめとするさまざまな領域で用いられる「Y2K」は、上記の意味とは異なり、「2000年を想起させるデザインを主軸とするコンテンツ全般」を総称するスラングとして用いられることが多いようです。
TwitterやTumblr、PinterestなどのSNSや、海外のフォーラムで提唱されはじめた概念で、「Y2K Aesthetic Institute(直訳:Y2K美学研究所)」という、2000年代のプロダクトデザインについての魅力を発信するアカウントが源流にあると考えられます。
ハッシュタグ #y2kaesthetic とサブカルチャーの関係
ここまで、「Y2Kファッション」の流行やスラングの意味、それらを構成する要素の一部について整理しました。ではなぜ今、「Y2K」が大きなトレンドになりつつあるのでしょうか?
やや掴みどころのない概念であるようにも見えますが、Instagramのハッシュタグ#y2kaestheticなどをチェックすれば、おおよそのイメージは付くでしょう。
そもそも、美学を意味する「aesthetic」という単語を目にしたことのない方も多いかと思います。このaestheticは、主に2010年代にWeb上で世界的な流行を見せたムーブメント「Seapunk(※注2)」や「Vaporwave(※注3)」の文脈で多用されていたものです。
(※注2)トラックメイカー/DJとして活動するUltrademon氏によって提唱された、海やリゾート地のイメージとインターネットやサイバーパンクを融合した概念。2013年に同氏がリリースしたアルバム『Seapunk』等が代表的な作品として知られる。
(※注3)2010年代初頭にSeapunkと呼応するように発生したムーブメント。80年代~90年代の文化へのノスタルジーを前面に押し出しつつ、大量消費社会へ批評的な目線を向けたことも特徴。2011年にアメリカの音楽家VektroidがMacintosh Plus名義でリリースした音楽作品『Floral Shoppe/フローラルの専門店』が同ジャンルを代表する作品として知られる。
SeapunkやVaporwaveが80年代~90年代カルチャーを参照したのに対して、Y2Kはあくまでも2000年代前後の文化をリバイバルする流れではあるものの、発案者が「aesthetic」という表現を多用していることや、インターネットとの密接な関係などを鑑みると、源流には上記のムーブメントが密接に関係していることが推察できます。
ほかにも、日本発のアニメがアメリカ全土で広く放映されていたことや、それに影響された若手アーティストの活躍なども、Y2Kカルチャーの発展と深く関わっていると考えられます。
海外で20年前に放映されていたとされる日本のアニメ作品例
Y2Kからの影響を感じさせる日本のラッパー・Tohji
人気再燃!90年代~2000年代を象徴する「Y2K」なブランド
さいごに、いわゆるY2Kファッションの中でも、特に古着市場で人気度が高まっているブランドをいくつかご紹介します。この年代のブランドだと、「UNDERCOVER」や「A BATHING APE」など、いわゆる「裏原系」が思い浮かぶ方も多いかもしれませんが、ここでは特にY2Kな雰囲気を感じさせる、知る人ぞ知るデザイナーズブランドをご紹介します。
20471120(トゥーオーフォーセブンワンワントゥーオー)
20471120は、90年代の原宿から現在のY2Kムーブメントまでを代表する、伝説的な存在です。デザイナー中川正博氏とごく少数のチームが大阪で立ち上げた後、瞬く間に当時のクラブシーンや原宿のストリートからヴィジュアル系アーティストにまで幅広く流行しました。「6ポケットデニム」や「怪獣ブーツ」「エヴァジャージ」などの名作を多数生み出しています。同ブランドのアイコンとも言える「ヒョーマ君」に懐かしさを覚える方も多いのではないでしょうか?
20471120×roarguns×ROYALFLASH トリプルコラボレーション | ROYAL FLASH | ROYALFLASH 梅田 | 上野商会公式ブログポータルサイト
こんにちはROYALFLASH梅田の青木です。今回のブログは昨日発売した【20471120×roarguns×ROYALFLASH】トリプルコラボレーションアイテムをご紹介。<br/> このキャラクターを皆様は知っていますか?ご存…
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beauty:beast(ビューティビースト)
beauty:beastは20471120と同じく、大阪発祥ながらその後東京のファッションシーンを牽引する存在として発展したブランドです。デザイナーの山下隆生氏は、テクノ系の同人音楽サークル「日本國民」のメンバーとしても知られ、アニメやゲームを「カウンターカルチャー」として咀嚼する、現代にも通ずる先進的な感覚のもと、個性的なアイテムを多数リリースしていました。
特に有名なのが「ダークナイト期」のオリジナルの兎グラフィックが配されたアイテムや、キャラグッズメーカーのCOSPAとコラボ「COSPA vs beauty:beast」など。2020年には長年の時を経て復活し、今後の新作にも注目したいところです。
FOTUS(フェトウス)
FOTUSはドイツ語で「胎児」を意味するブランドで、90年代から00年代にかけてカルト的な人気を博したいわゆる「サイバーファッション」の中核的な存在です。電子音楽やクラブ/レイヴシーンと深い関係にあり、他に類を見ない斬新なデザインのアイテムを次々と世に送り出しました。残念ながら現存しないブランドで情報もそう多くなく、中古市場に出回るアイテムも限られているようです。入手するにはプレミア化しつつある希少な古着を探すほかありませんが、現物を手に入れると確かな魅力が伝わるような、緻密で先進的なデザインがポイントです。
W<(ウォルト)
いわゆる「アントワープシックス(※注4)」の一人としても知られるデザイナー、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクが率いたブランドです。通称「パクパク君」として知られる3Dデザインのキャラクターが配されたポリエステル素材のシャツや、ブランドを象徴する稲妻ロゴがあしらわれたデニムなど、今でも主役級に活躍できるデザイン性に優れたアイテムが多いです。
(※注4)名門・アントワープ王立芸術アカデミー出身のファッションデザイナーの中でも、特に80年代にComme Des Garconsなどに影響を受けて活躍した6人を指すキーワード。W<創業者の他にはドリス・ヴァン・ノッテン、アン・ドゥムルメステール、ダーク・ヴァン・セーヌ、ダーク・ビッケンバーグ、マリナ・イーといった面々が名を連ねる。
CYBERDOG(サイバードッグ)
いわゆるサイバーファッションに該当する中でも、数少ない現存するブランドです。当時流行を席巻していたトランス・ミュージックやハードコア・テクノに影響を受け、クラブやレイヴ、音楽イベントで着ることを想定したインパクト大のアイテムが密かに人気です。筆者私物のパンツは膝の部分がプリーツ状になっていたり、裏地の蛍光色が透けて見えることで独特の色合いを演出していたりと、かなり凝った作りになっています。
まとめ
今回は注目のトレンド「Y2Kファッション」について、Y2K=00年代カルチャー全般についての背景なども踏まえつつ、当時の代表的なブランドなどをご紹介しました。まだまだ新しい価値観であるため「これだ!」という定義は明確ではないものの、
・きらびやかで大胆なデザイン
・第5~第6世代の3DCGゲームのビジュアル(プレイステーション、ドリームキャスト等)
・当時の最新テクノロジーを取り入れた素材感(=サイバー感)
・音楽や映像作品を中心としたカルチャーとの繋がり
などの要素を持つファッションアイテムが、このように総称されている、と言えるでしょう。
近年のユースにおける価値観は、だんだんと「みんなと同じ」から「それぞれが違う」にシフトしつつあるようにも思えます。S亜TOH(サトー)という日本の若手アーティストは自曲の歌詞で「誰かに見える服は用無し」とキッパリ断言しており、現代ならではの美的感覚を楽しむ流れは今後も続くと予想できます。