プジョーと言えば、自動車からスクーター、自転車に至るまで幅広い乗り物を展開するフランスのモビリティプロバイダー。そのプジョーが参画していたグループPSAがフィアットやクライスラーが加わるFCAと合併し、世界第4位の自動車グループ「ステランティス」の一翼を担うようになったのが今年の1月のことだ。その成長戦略として据えているのが“パワー・オブ・チョイス”である。これは電気自動車(EV)やハイブリッド車(PHEV)を各ラインナップに設定する一方で、これらはすべてガソリンやディーゼルエンジン搭載車もラインナップする戦略を指す。今回はそのラインナップの試乗レポートをお届けする。
SUV 2008
軽快なガソリン車と重厚さのEV、クラスを超える上質な内装
プジョー「SUV 2008」は、Bセグメントのコンパクトカー「208」のクロスオーバーSUV。デザインコンセプトなどを「208」とは同じにするものの、SUVらしさを演出する樹脂製のホイールアーチを採用し、ホイールベースを70mm延長して実用性を高めた。ガソリン車の「SUV 2008」とEVの「SUV e-2008」を揃え、ベーシックな「Allure」と、レザーシートやフルLEDライトなど上質な装備を標準化した「GT Line」を用意している。
インパネは、各部に配されたカーボン柄のパネルやソフトパッドで仕上げており、Bセグとは思えないほどの質感を伝えてくる。GT Line専用のアルカンタラとチップレザーを組み合わせたシートのホールド感も心地良かった。コックピットに目をやると重要度に応じて情報を複数レイヤーで表示する「3D i-Cockpit」が先進的で楽しい。この基本仕様のまま、「2008」ではガソリン車とEVが選べるわけだ。
ガソリン車は1.2L 直3ターボを積む。走り出すと組み合わせた8速ATが低回転域をうまくカバーして軽々と常用域の中間速度に達する。足まわりの仕上がりは引き締まった感じが好印象で、継ぎ目などの衝撃に遭遇しても不快な印象はほぼ感じさせない。凸凹が連続するとは若干跳ねる一面も見せるが、高い収束性のおかげで快適さは維持されていた。
一方のEVである「e-2008」。ガソリン車との外観の違いはフロントグリルをボディと同色で仕上げたことと専用バッジが与えられ、当然ながら排気口がないことぐらい。充電口がガソリン給油口と同じ位置にあるため、外観だけで違いを見分けるのは難しいだろう。
そのe-2008の電動パワートレインは最高出力100kW、最大トルク260Nmのモーターに50kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせた。0-100km/h加速は8.5秒と驚くほどのパフォーマンスではないが、走り出せばアクセルに素早く反応する十分な速さを感じさせる。バッテリーの重さも加わり、段差の乗り越えでもクラスを超えた重厚感がある。この辺りが軽快さを身上とするガソリン車との大きな違いと言える。
e-2008の航続距離はWLTPモードで331km、JC08モードで385kmとなっているが、満充電して表示されるのはそれを下回る290kmほど。この辺りが実用走行距離と考えたい。それでもバッテリーを積んでも車内や荷室への影響を与えず、走りではむしろ重厚さを加えているあたりは大きな魅力となるだろう。
SUV3008
ガソリン+ディーゼルに加え、PHEVも登場。痛快かつ上質な走り
同社のSUV戦略を支えてきたCセグメントのコンパクトクロスオーバーSUVがプジョー「SUV 3008」だ。ラインナップはガソリン車とディーゼル車に加え、マイナーチェンジを機にプラグインハイブリッド車(PHEV)を新たに追加。プジョー唯一の4WDともなる。グレードは内燃機関モデルとしてベーシックな「Allure」とハイパフォーマンスモデルの「GT」をラインナップし、それぞれにガソリンの1.6L直4ターボ、ディーゼルの2L直4ディーゼルターボを揃えた。PHEVは「GTハイブリッド4」は、1.6L直4ターボ+2モータ(前後)を搭載した最上位グレードとして位置付けられる。
デザインのポイントはフェイスリフトを受けたフロントマスクだ。新型3008では新世代のデザインが採用され、ボディ同色のストライプ模様が徐々にフロントグリルに溶け込むグラデーションの美しさは思わず心を奪われるほど。インテリアも落ち着き感と先進性をバランスよくまとめた上品さがあり、建て付けの精度が高いために満足度は極めて高い。
最初に試乗したのはディーゼルの「GT 」ブルーHDiだ。2L 直4ディーゼルターボエンジンはトランスミッションに8速ATを組み合わせる。中低速域のトルク感が高くレスポンスも俊敏で、このエンジンのおかげでワインディングロードの走りも痛快そのもの。プジョーならではの“猫足”ぶりを発揮しつつ、全高が高いSUVとは思えないしっかりとした足で峠道を走り抜ける。安定したハンドリングと高いスタビリティは格別ものだ。
注目のPHEV「GT ハイブリッド4」は、前輪を1.6L直4ガソリンエンジンと110psの電気モーターでの組み合わせで、後輪には独立した112psのモーターが備わる。これによって、プジョーとしては最強のシステム出力300psを発揮することとなった。また、13.2kWhのバッテリーでの航続距離は最長64km(WLTCモード)のEV走行を可能としている。
試乗ではしなやかさの中に重厚さが加わった印象だ。粗めの路面でも細かな振動を十分に吸収されており、とにかく乗り心地がいい。ハンドリングも素晴らしく、思った通りに素直にトレースしていく。ほどよく駆動配分してくれる4WDの効果であることは明らかだが、ハイブリッド4だけがリアサスペンションにマルチリンクを採用していることも大きいという。特にコーナーが連続する峠道では走るほどに楽しくなる。そんな思いにさせてくれるクルマとなっていることは間違いない。
リフター
使い勝手の良さで群を抜く、フランス生まれのミニバン
プジョーのSUVラインナップで異なるタイプが「リフター」だ。元々はフランス本国で商用車として使われているだけにスペースユーティリティに優れるが、それをベースによりカジュアルなアクティブなミニバンと仕上げているのだ。都会的なクロスオーバー感を前面に押し立て、使い勝手が良さを合わせ持つ。それこそが人気を支える大きなポイントになっていると言っていい。
しかも、使い勝手の良さは、使うほどに楽しくなる遊び心にあふれている。実際のところ、広大な荷室を中心として生み出される高い実用性は、日常生活でも圧倒的な便利さをもたらす。テールゲートの開口部は幅120cm、高さ100cmと巨大で、自転車だろうとちょっとした家具だろうとワケなく収納できる。ルーフ付近に用意したポケットもたっぷりとした容量があり、小物以上のモノをきちんと収納できる造りとなっている。この辺りの徹底ぶりは日本車にはお目にかかれない発想だ。
走りは1.5L 直4ディーゼルターボエンジンによって、トルクフルな力強い加速感を発揮する。300Nmという最大トルクを1750rpmで発生し、8速ATとの相性も良好であるため、常用域でも楽に走らせることができ、高速や峠道に行っても何ら力不足を感じることはない。しかもディーゼルとは思えない静粛性で快適にドライブできることだろう。
リフターで難を言えば、リア左右ドアが完全な手動式であることだ。しかも、閉める時の力が結構必要で、慣れないと女性にはツライかもしれない。それと、ACC機能も備わっているのだが、全車速追従はしてくれるものの、レジューム機能は備えていないためもう一度設定する必要がある。渋滞時は少し煩わしいかも知れない。とはいえ、ユーティリティとしっかりとした走りを期待したい人にとっては最適な一台となるだろう。
文◆会田 肇(あいだ・はじめ)
1956年茨城県生まれ。大学卒業後、自動車系出版社の勤務を経てフリージャーナリストとして独立。カーAVやカーナビなど、カーエレクトロニクスの分野を中心にレポート活動を展開しつつ、カメラ系の評論も行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
▼日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ会員)
▼走りも楽しいエコカーの実力(イミダス)