四季折々の自然風景や風物詩は、写真撮影のテーマやモチベーションになります。「春夏秋冬」。その変化に富んだ日本の風景や風習は、多くの人の“原風景”として、心に刻み込まれているでしょう。
私自身も、四季折々の風景や風習を、生涯の撮影テーマにしています。その中でも、特に好きなのが“夏を感じる風景や被写体”です。
執筆者のプロフィール
夏風景のベース“青空”を、PLフィルターで鮮烈に!
「なぜ、夏の風景や被写体に魅力を感じるのか?」
理由は人それぞれでしょうが、私の場合は“子供時代の体験や記憶”が、強く関係しているように思います。小学生時代を思い返してみます。春、夏、冬。この3つの季節の長期休暇の中で、最も日数が多くて外出する機会も多くなる休み。それが夏休みです。多感な子供時代の夏休みの記憶は、そのままの形や少し形を変えながら、今も意識の根底に残っています。それが“心の琴線”となって、夏の被写体に魅力を感じるのでしょう。
夏の風景をイメージする際、まず最初に浮かぶのが、強い日射しや青空ではないでしょうか? それらの要素を意識して撮影する事で、観る者に“夏の共感”を呼ぶ写真になると思います。強い日射しは、その日射しで発生する濃い影を意識して写し込めば、自然と強調できます。
そして、夏風景のベースとなる青空は、高彩度かつ高コントラスになる、仕上がり設定(※)を選ぶと良いでしょう。具体的には「風景」や「ビビッド」などのモードです。その機能設定に加えて、PL(現在の主流はC-PL)フィルターも使用してみましょう。そうすれば、青空の色鮮やかさや深みはさらに増して、鮮烈な夏の青空が描写できます。
この「仕上がり設定+PLフィルター」の相乗効果によって、写真全体に深みや厚みが感じられるようになります。そして、青空以外の風景や被写体の存在感も、高める事ができるのです。
※仕上がり設定:撮影画像の色再現や階調やシャープさなどの描写を選択する機能の総称。ピクチャーモード、ピクチャーコントロール、フィルムシミュレーションなど、メーカーによって機能の名称は異なる。
C-PLフィルター使用
フィルターなし
鮮やかさと深みのある青空と海
夏を代表する花“ヒマワリ”の印象を、明るさや背景で強める
夏の風物詩として欠かせない、ヒマワリの花。太陽をイメージさせる、その大輪の花の形や色彩は、真夏の暑さや明るさを喚起させます。花の部分を大きく切り取っても良し、画面の中にさりげなく写し込んでも良し。そんな存在感のあるヒマワリの花を、いろんなアプローチで撮影してみましょう。
ご存知の通り、多くのヒマワリの花の色は「明るい黄色」です。この色が画面内に多くある場合は、少しプラス側(+0.3~0.7くらい)に露出補正した方が、見た目に近い明るさに再現できます(カメラや状況によって変わりますが)。また、この色は大胆な露出オーバーにしても、鮮やかに仕上げる事ができます。試しに、+2前後の露出補正をして撮影してみましょう。
そうすれば、夏の日射しの眩しさを連想させる、明るくて幻想的なイメージが得られます。ただし、画面内に極端に明るい部分(逆光時の空など)や、反対に黒っぽいモノが多くあると、締まりのない写真になってしまいます。ですから、そういった要素は、避けたり極力抑えるようにしたいものです。
画面内にさりげなく写し込む場合は、そのヒマワリの周囲の風景が重要です。長閑な田園風景が広がっていたり、住む人の息遣いが伝わるような路地など、多くの人が心地良さを感じる風景。その中に、開花した(または枯れた)ヒマワリをさりげなく写し込む事で、味わい深い“夏の風情”が表現できます。
露出補正:+2
露出補正なし
素朴な田園風景を広く写し込む
空に湧き立つ“入道雲”は、高彩度&高コントラストで描写
「太陽が輝いたり、入道雲が湧き立って、夏を感じる空」
ネット上で「夏空」という言葉を検索したら、そんな解説が出てきました。太陽の輝きはもちろん、空に入道雲(積乱雲)があるかどうかで、風景の“夏らしさ”は大きく変わってきます。そこで、運良く形の良い(またはボリュームのある)入道雲を見かけたら、これを生かした作品作りを心がけたいものです。
入道雲の存在感を高めるには、青空の所で述べた“仕上がり設定+PLフィルターの相乗効果”が有効です。仕上がり設定を「風景」や「ビビッド」などのモードを選択。そして、レンズ前面に装着したPLフィルターを回転させて、青空の濃度が最も高くなる状態で撮影します。
また、PLフィルターがない場合や、使用しても太陽位置(角度)の関係で効果が薄い場合には、別の方法を考えましょう。仕上がり設定のモード選択に加えて、コントラストや彩度などを個別に調整するのです。そうすれば、画面全体にメリハリがついて、入道雲の存在感や印象はより強くなります。
「Vivid+PL」で、青と白と紅の対比を強調する
仕上がり設定の調整で、発色と階調にメリハリ
“夏祭り”の建造物や小物類を撮る
夏祭りや盆踊りの会場や、花火大会の出店(夜店)。こういった夏の風情が強く感じられる場所では、行事を象徴する建造物や装飾に注目して撮影してみましょう。その際にこだわりたいのが時間です。メインイベントの最中や、人出が多くなる時間帯は避けて“準備中や人が減る終盤”を選ぶのです。そうすれば、周囲を行き交う人々をあまり気にせずに、祭りの建造物や装飾類に集中して撮影できます。
盆踊りのやぐらや、立ち並ぶ出店などは“どこまでを主役として扱うか”を意識しながら、撮影位置や構図を決めます。その上で、周囲に主役を引き立てる他の要素があれば、それも積極的に取り入れると良いでしょう。
祭りの装飾や小物(購入した飲食物や玩具など)は、周囲や背景の選択と整理が重要です。画面が煩雑になるようなモノや、被写体が目立ちづらい色(同系色など)や明るさの周囲や背景。そういった要素を避けて撮影すれば、小物の存在感を高める事ができます。
盆踊りのやぐらを安定感のある構図で
やぐらの存在感が弱く画面も散漫
目を引く装飾品に迫ってみる
見映えの良い飲食物は、背景をシンプルに
※同様の機能に、キヤノンの「オートライティングオプティマイザ」、ソニーの「Dレンジオプティマイザー」、富士フイルムの「ダイナミックレンジ」、などがある。
身の回りの“お盆の情景”に目を向ける
「お盆」の行事そのものは、先祖を含めた亡くなった親族を供養する行事なので、写真の題材として考える人は少ないかもしれません。ですが、盆飾りや祭壇のお供え物を目にすると、鮮烈な“夏の思い出”を喚起する、という人は多いでしょう(私もそうです)。ですから、この時季に目にするお盆の情景を撮影する事をオススメしたいと思います。
墓掃除や墓参りの際の景色。墓前に供えられた生花。煙が揺らめく線香。屋外では、こういったモノが被写体になります。ですが、自分とは関係のない墓や人の撮影には注意が必要です。無断で敷地内に入ったり、勝手に墓参者にカメラを向けたり、といった行為は慎みましょう。
屋内では、色鮮やかな盆提灯や行灯(あんどん)。祭壇に備えられた生花や果実。こういったモノが被写体に挙げられます。場所によっては薄暗い事もあるでしょうが、可能な限りノンフラッシュで撮影したいもの。そうすれば、その場の雰囲気が伝わりますし、盆提灯や行灯の色彩や光も、自然に再現できます。
寺院内の灯籠で、お盆の風情と地域性が伝わる
盆提灯の幽玄な雰囲気を、ノンフラッシュで捉える
まとめ
気温が高いせいで、不快かつ体力の消耗も激しい。日射しが強くて、過度の日焼けも心配…。このように、夏は身体にとって厳しい季節です。しかし、その年の夏が曇りや雨が多い冷夏だったりすると、どこか物足りなさを感じるのでは?(私自身がそうです)
最初に述べた通り、年齢を重ねても、幼い頃の夏(夏休み)の記憶は、意識の根底に残っているはずです。ですから、冷夏で“夏のあるべき姿”が見られないと、まるで夏休みがなかったような喪失感を覚えるのです。
扇風機、ブタの蚊取り器、団扇、簾(すだれ)、風鈴、朝顔、蝉、虫取りかごと網、プール、夕立…。などなど、今回取り上げた題材以外にも、心の琴線に触れそうな“夏の風物詩”はたくさんあります。みなさんも、自分の琴線に触れる“夏の被写体”を探して、撮影にチャレンジしてみてください。
撮影・文/吉森信哉