「はなびらたけ」と言うキノコをご存知ですか? 1000m以上の山に自生するキノコですが、自生条件が厳しく、どこにでも生えるキノコではありません。そんな希少なキノコですが、コレが「見た目よし」「食感よし」「美味」と三拍子揃ったパーフェクトキノコなのです。ついに栽培するメーカーが出てきました! 驚くなかれ、自動車用電球をつくる「大井川電機製作所」です。今回は、この秋に超おすすめ食材、静岡産はなびらたけ「ホホホタケ」をレポートします。
幻のキノコ「はなびらたけ」とは
秋にはキノコが出回ります。秋の味覚の王様と言われる「マツタケ」から始まり、「ナメコ」「シメジ」「シイタケ」。海外では「マッシュルーム」「エリンギ」なども幅を利かせています。
真っ白で美しい外見
その中に名を連ね始めたのが「はなびらたけ」です。シイタケ、マツタケのように「カサ」に「柄」をつけたタイプではなく、真っ白な花びらを幾つもくっつけたような形。サンゴのようにも見えますし、女性が髪飾りにしても全くおかしくないくらい綺麗です。
私が「一番おすすめのレシピ」を大井川電機製作所に聞くと、担当者はちょっと考えて、困った顔で言うのです。
「どのレシピでも美味しいんです…」
普通、食材というのは代表料理を持ちます。マツタケなら、「マツタケご飯」と「土瓶蒸し」が双璧でしょう。双方とも、マツタケ特有の香りを楽しめるレシピです。しかし、流通量が少ないと、そこまで行かない時があります。そういうことで、まずは、はなびらたけに塩を少々ふり、レンジで温めて試食することにしました。
「レンチン」だけでもメチャ美味しい!
商品のパッケージには「軽く水洗いしてください」とありますが、キノコの基本は「そのまま」ですから、まずは基本に忠実に。パッケージから出すと、美しい白い塊が3つ。花びら部だけでなく、どこを見てもきれい。切り口も見事に白。ここまで白いと、ある種の「怪しさ!」さえ感じられます。マツタケのような強い香りはしません。ただ、切り口がとても瑞々しい。似たものがちょっと思いつきません。
皿の上に乗せ、塩を少々。レンジでチン。熱を加えたためか、花びらの先はちょっと丸まり、若干アイボリーに。しかし、全体から見るとほとんど変わりません。
食べてみると、意外にもコリコリとした歯応え。ラーメンの具で使われるキクラゲを思わせます。一方、はなびらたけの濃い「旨味」が、噛むたびに口の中に溢れます。驚くほどの出汁の量、そして、これでもかというくらいの旨味が押し寄せてきます。味はマツタケに負けていないかもしれません。シイタケの倍くらいすごいです。もはや、これだけでおかず、酒の肴になります。栄養学的にはOKか否かは分かりませんが、舌的には大満足!
アヒージョは「笑えるほど」美味しい!
次に、アヒージョにしてみました。入れるだけで「笑えるほど」美味しい! これはすごいキノコですね。
浅草今半や椿山荘でも採用
浅草に「浅草今半」という料理屋があります。ここの「すき焼き」は有名ですから、ご存知の方も多いと思います。このはなびらたけを市場に出したところ、浅草今半から「使わせてほしい」と要請があったそうです。
はなびらたけは、和食の世界ではそれなりに知られたキノコなのですが、自生品はほとんど取れませんから、「聞いたことがある」くらいで、実際は口に入れたこともない人が大多数なのが現状です。仮に、はなびらたけの美味しさが分かっても、お店の献立に載せられませんでした。料理人としては、これほどの食材だと使いたくて仕方がないのですが、数量が足りなくてはお話になりません。「入荷がないので、本日はご提供できません」というのは、老舗の暖簾を信じて来店してくださったお客様には失礼になります。それを「メーカーが栽培するなら確実だぁ」と、「浅草今半」より連絡があったそうです。そう、はなびらたけは、すき焼きにも合うのです。
また、ホテル「椿山荘」からも「使いたい」とお話があったそうです。椿山荘では、茶碗蒸しの具の一つに、白キクラゲを使っていたそうですが、キクラゲは前処理が大変。食感が似ていて、より旨味を持つ、はなびらたけに切り替えたそうです。これらの事例以外にも、さまざまなところで採用されています。
電球メーカーがキノコ栽培を始めた理由
さて、このはなびらたけを栽培するメーカー・大井川電機製作所とは、どんな会社なのでしょう。株式会社川根坂田製作所の電球部門が、1967年に独立したのが大井川電機製作所です。クルマのライトで有名な小糸製作所、スタンレー電気などに電球を納めてきました。
しかし、青色LEDの発明で電球は大転換を迫られます。そう、LED電球の実用化です。LEDは「光る半導体」ですから、それまでの電球とは、作り方も技術もすごく違ってきます。大井川電機製作所にしてみると大黒柱がぐらつき始めたわけです。
大井川電機製作所は、まず自分たちが持っている技術でできることをリサーチしましたが、第二の柱になるようなものは見つけられなかったそうです。次はもっとリサーチ幅を拡げます。その中に「はなびらたけの栽培」があったそうです。発案者も、山をやっていて自生のはなびらたけに詳しいとかではなく、たまたまの発案だったそうです。
しかし、そこから積み上げなければなりません。なんたって幻。しいたけのように、文献が豊富にあるわけではありません。ただラッキーだったのは、完全な先駆者でなかったことです。キノコ類は、様々な有効成分がありますので、製薬会社ではキノコの栽培をしているところが多いですし、個人的に栽培しているところもあります。「情報皆無というわけではなかった」と大井川電機製作所の担当者は言います。
初出荷は、プロジェクト開始後、2年。そこから今までじわじわ販路を伸ばし、第二の柱として育ててきたそうです。
箱入り娘は「湿度99%」で30日!
しかし、このはなびらたけ、工場で作るメリットはあるのでしょうか?
実は大いにあるのです。はなびらたけの大敵はカビ。自生する山上1000mだと、カビはかなり少なくなります。大井川電気製作所では、最初の40日、無菌袋の中ではなびらたけを育てます。次は、湿度99%の環境下で30日。品質保証でよく使われる「40℃・80%」は赤道直下の環境再現ですが、湿度99%とは、どんな状況なのでしょう。わずか数m先が、けむるように見えないほどの環境です。霧のかかった摩周湖のような状態だそうです。こうして「箱入り娘」はなびらたけは、大きくなるのです。
ここで用いられる正確な環境維持は、メーカーの生産工程では良くあるパターンで、ここではプラスになっています。こうして無菌状態のはなびらたけを出荷できるというわけです。
軽く水洗いが必要な理由
ところで冒頭、「食べる前に軽く水洗い」と書きましたが、それには次のような理由があります。実は、はなびらたけは細かい「木粉」で育てます。木粉は細かいですから、どこにでも入り込みます。メーカーサイドでも注意してハンドリングしているのですが、付着の可能性はあるためです。ある種の品質保証で、この最悪を推し量る考え方は、間違いなくメーカーの技術屋が教え込まれることです。安心して勧めることができますね。
ブランド名は「ホホホタケ」
大井川電機製作所のはなびらたけですが、2021年2月に、新しいブランドを作りました。それが「ホホホタケ」です。たしかに、食べると「美味しすぎて、ウマすぎて、笑いが止まらない」のでピッタリといえばピッタリ。それまで、メインの販路は飲食店でした。ですが、これからは、より一般の人に食べて欲しくて、ユーザーに覚えてもらい易いブランド名「ホホホタケ」にしたそうです。
通販でも手に入る!
この「ホホホタケ」、今では静岡県の地元ハンバーガーに使われるようになりました。ハンバーグにも負けない旨味なのです。また、価格がリーズナブルなので、静岡県内の一部コンビニ「ファミリーマート」にも並ぶようになりました。
しかし、流通量においてはまだ「幻」の域を抜けない「ホホホタケ」。全国どのスーパーでも見かけることができるわけではありません。ここは、通販を利用するのが一つの手。1パック80g入(×4パック)で、送料込みで2600円(税込)。クール便で送られてきます。食欲の秋、あまり外に出られない昨今、お取り寄せで楽しむのがいいですね。美味しいお酒、美味しい新米、どちらに合わせても十分に楽しめます。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。