【飲食店のDX成功事例】東京・大崎「焼鳥IPPON」スマホで注文から決済まで 店内から「すみませ~ん」が消えた店

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9月1日、東京・大崎に「焼鳥IPPON(いっぽん)」という飲食店がオープンした。同店はDXが駆使されて、客が食事をする環境の設定は、スマホ一つオンラインで行うことが出来る。客が店に入るとQRコードを読み取り、スマホでモバイルオーダーを行なう。追加オーダーも同様だから、客は従業員に「すみませ~ん」と声を掛ける必要がない。そして、決済はスマホでクレジットカード情報の入力を行う。これによって、ワリカンは不要となり、混雑時にレジに並ぶ必要がない。お客にとっても従業員にとってもストレスフリーの店となっている。

「食事」以外はオンラインで完結

2021年9月1日、JR大崎駅(東京都品川区)と直結するオフィスビル群の飲食店街に「焼鳥IPPON(やきとりいっぽん)」がオープンした。経営するのは(株)DDホールディングスの連結子会社、株式会社ダイヤモンドダイニング(本社/東京都港区、代表取締役/松村厚久、以下DD)であるが、同店はフードテックを推進する株式会社トレタ(本社/東京都品川区、代表取締役/中村仁)とワンチームとなって開発された飲食店である。

最大の特徴は、これまで飲食店の接客上のオペレーションで発生する多くをデジタル化していること。これまで現場業務は、予約、来店、注文、会計という具合に分断化されていたが、同店ではこれらをデジタル化してスムーズにつないでいる。

オフィスビル群の飲食店街に店舗があり、モノトーンの外観が新鮮なイメージを醸し出している(筆者撮影)

難しい客単価3000~5000円への戦略

同店の開発の指揮を執ったDDホールディングスの取締役副社長、鹿中一志氏はこう語る。

「昨年コロナ禍となって、当社ではこれはしばらく続くだろう、と読みました。そこで、われわれのアルコールビジネスはどのように変化していくのか、トレタさんに相談したことからこの計画は動いていきました。トレタさんでは、自社の予約システムのデータから大きなトレンドをつかんでいました。それは『コロナ禍にあっても、高単価業態や専門店、超繁盛店には予約が入っている。ビジネス街の3000~5000円あたりの企業宴会は予約が戻っていない』ということでした」(鹿中一志氏)

当時、トレタでは、新型コロナウイルスワクチンの接種が進んで、飲食店に客足が戻り、反動需要が期待される中での、新しいモバイルオーダーの仕組みを開発していた。それは、まさにDDが懸案としていた「客単価3000~5000円あたり」の業態に向けた仕組みである。

これは、今年の7月26日に「トレタO/X(トレタオーエックス)」としてリリースした。これが導入されている環境の中で、客が行うことは以下のような手順となる。

⓵飲食店から提示されたQRコードをスマホで読み取り、デジタルメニューにアクセス
(2)メニューを選び、オーダーを送信(自動的にキッチンプリンタから調理指示を出力)
(3)食事終了後、クレジットカード情報を入力
(4)会計後、必要に応じて電子レシート発行。電子レシートはメールで本人に送信

つまり、食事をするという行為以外はオンラインで完結するということだ。

注文から決済までスマホ一つで完結する(写真提供:ダイヤモンドダイニング)

焼鳥店での「ストレス」を考えた

DDホールディングスにとって、このようなDXを取り入れた新業態が「焼鳥」となり、立地が「大崎」となったのはなぜか。鹿中氏はこう語る。

「業種はしばらく決まっていませんでしたが、外食するときのストレスを解消するという観点で、焼鳥店でのストレスがとても多いことに気が付きました。複数人で利用した場合、味付けはたれがいいか塩がいいか、ねぎまを食べたいが頼んでいいか、1本を複数人でシェアする、ワリカンが面倒だ…という具合。また、当社にはブラッシュアップが必要な焼鳥業態が存在して、これをリブランディングする、という発想もありました」(鹿中氏)

大崎はオフィスワーカーに加えて地元住民も多い街

「大崎に決まったのは、ここは以前、肉バルで企業宴会が主であったこと。肉バルはオーナーが店にいて、こだわりのメニューを出すのが強みなのに、チェーンとなれば弱くなる。企業宴会の場合は、店の稼働時間が短くて土日が利かない。その一方で、大崎というエリアはオフィスワーカーに加えて地元住民の方も多い街です。そこで、夕方4時ぐらいから営業して、土日は地元のお客さまが来店して、日中に草野球を楽しんで打ち上げに来ている中高年の方もいらっしゃるようなイメージです」(鹿中氏)

店内のデザインは“割烹”をイメージさせる和風モダン(筆者撮影)

「自分の好み通り」と「価格が時間帯で変動」

「焼鳥IPPON」のメニューの特徴は、客が、味付けや内容を自分の好み通りにできる「カスタマイズ」と、現状ドリンクの価格が時間帯で変動する「ダイナミックプライシング」である。また、現状はすべて、一人客向けのポーションとなっている。

メニューはすべて「お一人様」対応、焼鳥の串の長さは10cmほど(写真提供:ダイヤモンドダイニング)

「焼鳥」は、部位別のものが1本165円(税込、以下同)、つくね・巻き串は280円、5本盛り合わせは880円。単品メニューは、鶏を使用したものが中心となっていて、380円、400円、450円、480円、500円、550円、600円で構成。この「カスタマイズ」は、スマホの画面の右下に「たれ味」「塩味」のおすすめが表示されて、好みの味付けを選ぶことが出来る。「焼鳥5本セット」という商品があるが、同席している友人や仲間の好みを気にすることなく注文することが出来る。

ドリンクもカスタマイズできる

ドリンクのカスタマイズについて「私のレモンサワー」を例に挙げると、まず「お酒の濃さ」が「ノンアル」「ごく薄」「薄め」「普通」「濃いめ」を選ぶ。次に「レモンの種類」となり「フローズン」「スライス」「塩漬け込み」を選ぶ。さらに「トッピング」があり「ハチミツ」「ジンジャー」「ソルト」から選ぶ。

「私のサラダ」550円は、ベースの野菜に8種類の野菜から3種類、3種類のドレッシングからチョイス。「鶏白湯ラーメン」550円はスープ2種類、麺2種類からチョイス。追加料金でトッピングが可能となる。

16時台と22時台が20%オフ

ドリンクのダイナミックプライシングについて「私のレモンサワー」を例に挙げると、通常価格が19:00~19:59で「550円」。そこから、前後に1時間ずつ隔てるたびにディスカウント幅が大きくなっていく。具体的には、18時台と20時台が5%オフ、17時台と21時台が10%オフ、16時台と22時台が20%オフとなる。

これによって来店需要が平準化されると想定され、さらにフードメニューで行うことによってフードロス削減にもつながることなる。

客が「すみませ~ん」と言わない店

筆者は、緊急事態宣言が明ける前、テストオープンのランチタイム1回、ディナータイム2回を経験した。

ランチタイムは、「当日精米したごはんと鶏だしみそ汁御膳」1000円の1品目だが、主菜は3種類から1品、副菜は5種類から2品選ぶ。これにすべて玉子焼きと漬物がつく。スマホでオーダーして、すぐに決済を済ませた。オーダーしたメニューは10秒経たずに運ばれてきた。店に入って食事をすぐに終えることが出来て、食事が済んでからレジに並ぶ必要がない。

ディナータイムの場合、注文は一品ずつデジタルメニューにタッチすることになるので、従業員に「すみませ~ん」と声を張り上げる必要がない。

ランチは1種類だが主菜、副菜とも複数から選ぶようになっていて日替わりをカスタマイズする感覚(筆者撮影)

まとめ

従業員はみな穏やかで丁寧に対応してくれる(筆者撮影)

オープン前に、ニュースリリースにまとめられた同店の利用の仕方を読んでいて、ITに疎い自分が付いていけるのかどうかを心配していたが、従業員がみな穏やかで、丁寧にメニューの選び方などを教えてくれることから、訪店2回目にして、従業員に尋ねることなくすいすいと使いこなすことが出来た。このような店の仕組みは、著しく速く広がっていくものと感じた。

執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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