【老化は足から】中年・高齢者の筋力低下 衰えやすい筋肉は太もも・おなか・お尻・背中

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私たちの足腰には、もともと余力があり、たとえ足腰が衰えてきていても、なかなか気づけません。足腰が弱っているなと感じたら、かなり衰えが進んでしまっていることを意味します。特に太ももの筋肉は、40~50代になると減っていく速度が加速します。何もしないと30歳から80歳までの50年で、ほぼ半分になってしまいます。「筋肉が衰える要因」と「衰えやすい筋肉」について、書籍『いのちのスクワット』著者で東京大学名誉教授の石井直方さんに解説していただきました。

解説者のプロフィール

石井直方(いしい・なおかた)

1955年、東京都出身。東京大学理学部生物学科卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。東京大学教授、同スポーツ先端科学研究拠点長を歴任し現在、東京大学名誉教授。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。筋肉研究の第一人者。学生時代からボディビルダー、パワーリフティングの選手としても活躍し、日本ボディビル選手権大会優勝・世界選手権大会第3位など輝かしい実績を誇る。少ない運動量で大きな効果を得る「スロトレ」の開発者。エクササイズと筋肉の関係から老化や健康についての明確な解説には定評があり、現在の筋トレブームの火付け役的な存在。
▼石井直方(Wikipedia)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

本稿は『いのちのスクワット』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

イラスト/細川夏子

筋肉は30代がピークで40代から急激に減少!

特定の病気と無関係に筋肉が衰える要因には、主に次の2つがあります。

筋肉が衰える2大要因
(1)加齢
(2)活動量の低下

加齢による筋肉の衰え

まずは、加齢。普通に生活していても、歳とともに自然に筋肉は落ちていきます。筋肉の量や強さのピークが何歳ぐらいになるかは、体質や置かれている環境などによって違いがありますが、おおまかにいえば、30歳くらいのところになだらかなピークがあります。

このピークをすぎると、下肢、特に太ももの筋肉は1年ごとに0.5~1%ずつ減っていきます。

30歳くらいといえば、普通の感覚ではまだ老化など遠い先のことと感じるでしょうが、この辺りから、早くも筋肉の老化が始まると考えておくべきでしょう。30歳頃から緩やかに筋肉は減り始め、40~50歳あたりで、落ちるスピードが速くなります。この段階での落ち方のペースは、1年で1%です。

何もしないと30歳から80歳までの50年で、太ももの筋力はほぼ半分になってしまうのです。

私自身の筋肉のピークは28歳頃だと思います。ボディビルダーとして、大学時代、そして研究生活に入ったのちも、かなり追い込んだトレーニングを続けていました。その結果として、20代後半のこの年齢のとき、筋力の記録上のベストの数値を出しています。ちなみに、私が1981年と1983年の日本ボディビル選手権大会で優勝したのも、1982年のIFBBミスターアジア90kg以下級で優勝したのも、26~28歳の頃のことでした。

1983年(28歳)、著者がボディビルのミスター日本で優勝したとき。筋肉研究に打ち込むかたわら、筋トレの競技者としても活躍

その後もトレーニングは続けていましたから、一般のかたよりは筋肉の衰えをかなり防止できていたと考えられますが、運動を続けていても、加齢による変化は起こってきます。私の場合も、がんが判明した61歳の時点で、やはり加齢による筋肉の衰えは多少なりとも進行していたでしょう。

しかし、もちろん最寄り駅までの数百メートルを休憩なしで歩けなかったことは、加齢によるものだけではありません。そこには、もうひとつの要因が関係しています。それが活動量の低下です。

スロースクワットを実践する著者。「いくつになっても、筋トレをすれば、努力の分だけ必ず成果が出ます」

活動量の低下による筋肉の衰え

日常生活での活動量が少ないことが積み重なると、筋肉を減らす原因になります。

非常に単純な話で、筋肉は、使わずにいると、それに応じて細く弱くなっていきます。生きものの体はムダを嫌いますので、使われないものは、どんどん切り捨ててよいと判断するのです。これを「廃用性萎縮」といいます。

最も典型的なのが、私のような長期の入院生活を送ったケースです。

極端な場合、ベッドで寝たきりになると、脚の筋肉は、1日で0.5%も減少します。1週間なら3.5%、1カ月ベッドで寝て過ごせば、15%もの筋肉が減ってしまうおそれがあります。前述の通り、40~50代以降は、年に1%の筋肉が落ちていきますので、その計算でいけば、2日寝たきりでいると1年分の筋肉が落ちてしまうのです。

高齢のかたが骨折などをして入院生活を送ると、どんどん筋力低下が進み、歩けなくなることがありますが、そこにはこうしたしくみが関係しています。しかも、筋肉を減らす2大要因である加齢と活動量の低下は、個別に起こるというより、しばしば密接に連動して起こります。

加齢によって、だんだん筋量が減り筋力が落ちてくると、日常生活における活動量が自然に減ります。それが筋力低下を助長し、ますます体を動かすのがおっくうになり、日常生活が不活発になり、さらなる筋力低下を引き起こすという悪循環が進行していきます。

つまり、病気をしなくとも、加齢と運動不足の相乗効果によって、筋力低下が進んでいくケースが多いのです。本人も自覚しないまま、気づいてみたら脚がひどく衰えていたということも十分にありうる話です。

一方、加齢と運動不足によって、体中のすべての筋肉が同じように落ちていくかというと、決してそんなことはありません。落ちやすい筋肉と、比較的落ちにくい筋肉があるのです。

本稿は『いのちのスクワット』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

「老化は脚から」を身をもって体験

私たちの体の中には、400〜600(分類によって差がある)もの筋肉があります。

これらの筋肉のすべてが調べられているわけではありませんが、いままでに蓄積されたデータから、全身の筋肉の中で、加齢によって減りやすい筋肉とそうでもない筋肉があることがわかっています。

まず、上半身の筋肉に比べて下半身の筋肉のほうが衰えやすい傾向があります。なぜこのような違いが出てくるのか、その理由は明らかではありません。実は、筋肉の老化のしくみは、まだまだよくわかっていないのです。

ともあれ、上半身と下半身とで加齢に伴う筋肉の萎縮の程度に違いがあるのは確かです。上半身のうち、腕力の衰えが顕著に現れるのは70歳以降とされています。

これに対して、下半身の筋力の衰えは、もっと早期のうちから始まります。

下半身の筋肉の代表として、太ももの前側にある大腿四頭筋は最も調べられている筋肉です。大腿四頭筋は、30歳辺りから緩やかに減り始め、40代50代になると、筋肉が減っていく速度が加速します。「筋肉が減る」のは、筋肉を構成している1本1本の筋線維(筋肉を構成する線維状の細胞)が細くなるとともに、その数が減っていくことによります。そして、先ほどもふれたように、80歳代に入る頃には、30代はじめの半分くらいの太さまで減ってしまいます。文字通り、「老化は脚から」なのです。

もう少し範囲を広げると、次のような筋肉が衰えやすいことがわかっています。

衰えやすい筋肉

太もも前面の大腿四頭筋
大殿筋、中殿筋などのお尻の筋肉
腹直筋、腹斜筋群、大腰筋などのおなかの筋肉
脊柱起立筋、広背筋などの背中の中央部の筋肉

これらはみな、足腰や体幹を構成する筋肉です。同時にまた、機能的に抗重力筋でもあります。抗重力筋とは、重量に逆らって体を支えたり、姿勢を維持したりする働きをもつ筋肉のことです。

これらの抗重力筋は、「日常的によく使われる」、言い換えると「よく使われるのが当たり前」の筋肉といえるでしょう。その分、活動量の減少には敏感に反応し、減りやすいと考えられます。加齢や不活発な日常生活によって、どんどん弱ってしまうのです。

加齢の影響を受けやすい筋肉と筋肉の減少

太もも(前)、おなか、お尻、背中の筋肉から減りやすい

出典:マキノ出版

加齢に伴う太もも前面の筋肉量の減少

80代では30代の頃の半分にまで減ってしまう

※Lexell et al. J. Neurolog. Sci. 84, 1988 より引用改変 出典:マキノ出版

最も顕著に現れるのが、寝たきりや入院生活を送るときです。ベッドで過ごす時間が長くなると、抗重力筋がほとんど使われなくなるために、下肢や体幹の急速な筋力低下が起こります。前述の通り、1カ月の寝たきりの生活を送ると、大腿四頭筋は15%も落ちますが、筋力の低下はそれ以上に起こります。例えば、筋肉が15%減った場合、筋力の低下は20%以上と考えてよいでしょう。

一方、同じ期間寝たきりになった場合でも、太ももの後ろ側の筋肉であるハムストリングスの筋量の減少は8%くらいにとどまります。大腿四頭筋の場合のほぼ半分です。これは、ハムストリングスがひざを曲げるときに働く筋肉で、抗重力筋ではないためと考えられます。寝たきりになっても、相対的に衰え方が少ないのです。私自身の1回目の入院でも、明らかに太ももの前やお尻が弱っていました。

しかも、これらの抗重力筋群は、重力に抗して姿勢を維持する以外にも、「立つ」「歩く」「座る」という、私たちの日常生活の基本動作にとっても重要です。加齢+運動不足から、これらの筋肉が衰え、それが進行していくと、日常生活にも支障をきたします。

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なお、本稿は書籍『いのちのスクワット』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。筋トレは、いくつになっても始めることが可能で、いくつになっても効果をもたらします。90代のかたも決して例外ではありません。著者の石井直方先生が、がんの治療中に行っていたスクワットも、スロースクワットだったと言います。「入院中のスクワットは、まさしく私のいのちを支え続けたといっても言い過ぎにはならないと思います」(石井直方さん)。本書は「スロースクワット」の効果と方法について、石井直方さんご自身の体験もふまえながら、一般の方向けにやさしく解説した良書です。詳しくは下記のリンクからご覧ください。

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2021-11-01 8:54

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