【12坪で月商1000万】小さな居酒屋店主が「和だしのフライドチキン」で “王者” に戦いを挑む|唐揚げブームの次へ

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今年は大手外食企業によるフライドチキン・チキンバーガーの開業が相次いだが、個人店が挑戦した例もある。東京・新小岩にある「からあげバル」が、秋葉原の「ヨドバシAkiba」の1階にこのショップをオープンした。その背景にあるのは、これから居酒屋の団体利用がなくなると判断したこと。そのために居酒屋の宴会場スペースをフライドチキンのセントラルキッチンに改造。12坪のショップは初月1000万円を売り上げて、チェーン展開に向けて幸先の良いスタートを切っている。

「ハイカラフライドチキン」オープン

今年は「フライドチキン・チキンバーガー」のショップの新規開業が相次いだ。大手の事例ではロイヤルHDの「Lucky Rocky Chicken」、ダイニングイノベーションの「DooWop」、鳥貴族HDの「TORIKI BURGER」が挙げられる。どちらもチェーン展開をしていくことを表明している。
今回紹介するのは、その個人店版の事例である。

「からあげグランプリ」金賞を6回

10月11日、東京・秋葉原「ヨドバシAkiba」の1階に『HAIKARA FRIED CHICKEN』(ハイカラフライドチキン)がオープンした。主要な商品は、フライドチキンとチキンバーガー、そしてフライドチキンとよく合うクラフトドリンクで特徴を打ち出している。チキンは「国産」であることをアピールしている。

東京・秋葉原「ヨドバシAkiba」の1階の立地。ランチタイムの人だかりは日常的な光景(筆者撮影)

同店をオープンしたのは株式会社ハイカラ(本社/東京都葛飾区、代表/大野太陽氏)で、東京・新小岩で“からあげバル”をうたう『ハイカラ』を営んでいる。日本唐揚協会主催の「からあげグランプリ」で2014年に初めて金賞を受賞して以来6回受賞している金賞の常連である。そのような同店にとって、フライドチキンとチキンバーガーのショップに挑戦することは「満を持して」ということになるだろう。

なぜ「KFC」が王者なのか

ハイカラフライドチキンの構想は、コロナ禍の休業期間中にひらめいた。
代表の大野氏はこう語る。

「なぜ日本で、フライドチキンは『KFC』が王者となっているのだろうか。KFCの源流はアメリカ南部にあり、そもそも日本人にとって何らのノスタルジーは存在しないのではないか。であれば、日本の調理方法や技術によって世界に発信するフライドチキンができるはずだ。これに挑戦しよう、と思いが膨らんでいきました」

ハイカラ代表の大野太陽氏。バル、イタリアンなどさまざまな業種を展開して「からあげ」に絞り込んだ(筆者撮影)

和だしのフライドチキンで世界を見通す

ハイカラフライドチキンの物件は、以前、別の事業者がからあげの店舗を営んでいて、大野氏は同店にコンサルタントとして関わっていた。大野氏は、この事業者から店のブラッシュアップについて相談を受けたところ、「ここから世界に発信するフライドチキンの店に挑戦したい」という自らのビジョンを申し出た。この大野氏の熱意に賛同した事業者が、この物件を委託したという次第である。

味付けは、金賞受賞の商品とは異なるゼロベースで考えた。
新たに生み出したポイントは、シイタケと昆布をベースとした「和だし」に漬け込むことである。このようにフライドチキンを「日本から世界に発信する商品」として作り込んでいった。ドリンクはフライドチキンによく合うクラフトドリンクのラインアップを考え出した。

ロゴ、アイコン、写真などは第一線で活躍している仲間たちが協力して作成した(筆者撮影)

ハイカラフライドチキンの主なメニュー

ハイカラフライドチキンの主なメニューは以下の通り。

▼「ハイカラオリジナルチキンバーガー」550円(税込、以下同)
100gの「骨なしフライドチキン」と野菜を挟んでいる。ざっくりと刻んだ野菜がチキンバーガーの食感に良くマッチしている。バンズは「ハイカラ」の地元、東京・新小岩のベーカリーから仕入れている。

▼「ダブルハイカラチキンンバーガー」770円
「骨なしフライドチキン」を2枚挟んだもの。セットメニューとして「ポテドリセット」250円、「ナゲドリセット」390円、「ポテナゲセット」490円があり、これらとセットにして食べることがおすすめとしている。

「ハイカラフライドチキン」の味付けは和だしによるもので、日本発で世界に発信することを狙っている(ハイカラ提供)

“カリッ・フワッ” 軽い食感のチキンナゲット

▼「ハイカラオリジナルフライドチキン」1P 350円、2P 700円、3P 1000円、4P 1300円
▼「骨なしフライドチキン」1P 290円 、2P 580円 、3P 820円、4P 1060円
「ハイカラオリジナルフライドチキン」はクリスピーなタイプで、「骨なしフライドチキン」はしっとりジューシー。

▼「オリジナルチキンナゲット」390円
「国産ムネ肉に豆腐を加えていることから、“カリッ・フワッ”といった軽い食感が特徴。これまで一般的なファストフードにはない食味が斬新。

▼「ハードボタニカルコーラ」「ハードジンジャーエール」「ハードガーデンレモネード」各580円
飲料専門家がプロデュースしたクラフトドリンクで、フライドチキンのスパイスやハーブとよく合うようにつくられた。

筆者が実食して感じたことは、全般的に和だしの旨味がある。ハイカラフライドチキンと骨なしフライドチキンの食感が異なり、選べる楽しさがある。国産ムネ肉に豆腐を加えたというオリジナルチキンナゲットは、食感がとても軽く、「カリッ」「フワッ」となっていて、既存のファストフードにはない感動的なものであった。

「団体飲み」は自分が戦っていく世界ではない

このセントラルキッチン(CK)として、新小岩の店の2階をその施設にあてた。そのために大手厨房メーカーのテストキッチンを見学して、理想とするCKをつくり上げた。換言すると、ファストフードショップを手掛けるために、母体である居酒屋のスペースを縮小したことになる。大野氏はこう語る。

居酒屋の宴会席をセントラルキッチンに作り変える

「新小岩の2階はこれまで宴会の需要がありましたが、これから団体で飲むというシーンは考えにくい。団体飲みはどんどん低価格化していって、自分がこれから戦っていく世界ではないと考えるようになりました。このままでは夢が描けないということで、2階をCKに切り替えました。現状ではファストフードショップの4店舗まで対応できます」

新小岩の1階は、従来通りの “からあげバル”「ハイカラ」として営業を続ける。
秋葉原の店舗のリニューアルと、CKをつくるために、約2500万円を投資した。原資として今獲得しようとしている「事業再構築補助金」をあてる計画だ。

従業員募集に予想の3倍応募

従業員も、新規に採用した。
募集広告に掲げた文言はこのような内容である。「完全週休二日制」「1日8時間労働」「残業一切なし」「世界で戦う」「小さな居酒屋の店主が王者に戦いを挑みます」

応募者はコロナ禍で疲れ切っている雰囲気

――ホワイト企業でかつ挑戦的な姿勢を文言に託した。

当初、従業員は正社員3人、アルバイト10人が採用できればいいと考えていたが、この3倍以上の応募があった。面接に来た人たちには、コロナ禍で疲れ切っている雰囲気が漂っていた。そこで大野氏は「これから一緒に楽しいことをやろうよ!」と檄を飛ばした。

CKの従業員を募集したところ、ベテランの料理人が集まるようになった。自分が働く店が時短営業によって手が空いていて、「こちらのCKの仕事が面白そうだと感じたから」という。彼らはすぐにチームワークをとるようになり、調理の仕方について改善提案を行い作業の効率は高まってきている。

店舗展開を射程にいれて新しく従業員を採用した(筆者撮影)

客単価はランチ850円、ディナー1200円

さて、ハイカラフライドチキンの店舗は、キッチンが5坪、客席が7坪とこぢんまりとしているが、この佇まいに、手づくり工房の雰囲気がある。オープンは11時からだが、すぐに人だかりができる。商品の出来上がりを待つ客は、大きな手提げ袋を受け取る人が多く、まとめ買いの需要が高いようだ。すでに秋葉原の新しい街の日常的な光景となっている。

テラス席も構えで利用動機を広げた(筆者撮影)

12坪で月商1000万円

オープンして1カ月が経過して、客単価はランチ850円、ディナー1200円。アルコールの存在がディナーの客単価を押し上げている。テイクアウトとイートインの比率は平日が7対3、土日が2対8となっている。秋葉原で働く人や関わる人は、SNSのリテラシーが高く、オープン前から同店のことがSNS上で話題となった。また、巨大な家電量販店のヨドバシAkibaの集客によって、土日にはファミリーの利用が多いという。

シンプルな客席構成だが、土日はファミリーが多くイートイン比率が高くなる(筆者撮影)

これらの秋葉原特有の環境も手伝い12坪の規模で現状は月商1000万円のペースで推移している。幸先の良いスタートを切っている。大野太陽氏が率いる「ハイカラフライドチキン」の今後の展開に注目したい。

執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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