〈大人の発達障害〉気分が落ち込む・不安になる・マイナス思考に陥る|二次障害を解決するヒント

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失敗体験や叱責を受けた体験を重ね、自己否定感が強まるうちに、不安障害、うつ病など、いわゆる精神疾患を併発することもあります。発達障害のある大人には、こうした二次障害が起こりやすい点も注意が必要です。マイナス思考との付き合い方、不安やイライラを感じた時の対策について、書籍『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』監修者の太田晴久さんに解説していただきました。

解説者のプロフィール

太田晴久(おおた・はるひさ)

昭和大学附属烏山病院 昭和大学発達障害医療研究所 准教授。2002年昭和大学医学部卒業。昭和大学精神医学教室に入局し、精神科医師として勤務。2009年より昭和大学附属烏山病院にて成人の発達障害専門外来を担当している。自閉症の専門施設であるUS Davis MIND Instituteへの留学を経て現職。とくに思春期以降の成人を中心とする発達障害の診療や研究に取り組んでいる。
▼昭和大学発達障害医療研究所(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(KAKEN)

本稿は『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

イラスト/春野あめ、望月志乃、とげとげ。、大橋諒子、ユキミ

日常生活の困った!気分が落ち込みやすい

「二次障害」につながることもある

子どもの頃は楽しく過ごしていた、勉強が得意で自信があったなどという人もいるでしょう。
しかし社会に出ると、自分が苦手なこともしなければならなかったり、子ども時代にはなかった暗黙のルールや複雑な人間関係があったりします。そのせいで失敗をしたり、叱られたりして、自信を打ち砕かれる場面も増えるでしょう

失敗体験や叱責を受けた体験を重ね、自己否定感が強まるうちに、不安障害、うつ病など、いわゆる精神疾患を併発することもあります。発達障害のある大人には、こうした二次障害が起こりやすい点も注意が必要です。

解決のヒント(1)マイナス思考とうまくつきあう練習をする

失敗や叱責などのつらい体験が何度も重なると、知らず知らずのうちにマイナス思考に陥りやすくなってしまいます。

しかし、マイナス思考自体をなくそうとしても、うまくはいきません。人はそれほど簡単に、強い心を持つことはできないからです。それよりも、マイナス思考と上手につきあう練習をしましょう。

マイナス思考には、左のようなパターンが考えられます。これらを覚えておけば、マイナス思考にはまったときに、「あ、今”白黒思考”にはまっているぞ」と自分を客観視することができます。そうすれば、「完璧を求めずに、6割できればよしとしよう」などと、次の対策を取りやすくなるでしょう。

よくあるマイナス思考

一つでもできなかったら全部ダメ白黒思考
つねに完璧さを求め、それが叶わないと「失敗」「ダメ」と落ち込む

つらいことばかり考える悲観フォーカス
よい点や、うまくいったことに目を向けず、何もかも悲観的にとらえる

どうせ……やっぱり……思い込み
誰かや何かに否定的なラベルを貼り、そのイメージをくずそうとしない

何にもできない……自己矮小化
自分の短所や失敗で憂うつになり、長所や成功は「大したことではない」と過少評価する

……しなきゃ……すべき!べき論
自分に対しても他人に対しても「〇〇すべき」と考え、そこから外れるのが許せない

みんな私のせい。私が悪い自責感
よくないことがあると、自分とは関係なくても「自分のせいだ」と感じてしまう

きっとまた、うまくいかない過度の一般化
数少ない失敗体験などを根拠に、すべて同じようにうまくいかないと考える

本稿は『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

解決のヒント(2)気持ちを落ち着けて不安に対峙する

うつうつした気分のときには、怒りや不安など、ネガティブな感情も生まれやすくなります。それは自分に対してだけでなく、自分を否定する人たちに向けられることもあります。ネガティブな感情はマイナス思考に結びつきやすいだけでなく、「こうすればうまくいく」というポジティブな取り組みの妨げにもなります。

もしも不安を感じたら、不安をすべて紙に書き出してみましょう。不安な感情を見える化することで、ものごとを客観的にとらえることができ、冷静さを取り戻せます。気持ちが落ち着けば、対策も考えやすくなるでしょう。

不安やイライラを感じたら、別室に行ったり深呼吸をしたりするだけでも、気持ちが落ち着きます。

紙に不安を書き出す

考えてもしかたがないことばかり考えてくよくよしているなら、ことの経緯や、自分がそのときどう考え、どう感じたかなどを書き出そう。マイナス思考に気づくきっかけにもなる

気持ちを落ち着かせる

  • 別室に行く
  • 深呼吸をする
  • 水を飲む
  • 簡単な体操をする
  • 散歩をする
  • 落ち着く音を聞く
  • 気分転換をする
  • 「大丈夫」と唱える
  • 仮眠をする…など

「リフレーミング」で自分に自信をもとう

物事をどのようにとらえるかは、視点によって変わります。同じ物事でも、別の側面から眺めてみれば、まったく違って見えてくるものです。このように観点を変えることを「リフレーミング」といいます。

自信を失っているときには、意識的にリフレーミングを行うとよいでしょう。発達「障害」と言われますが、発達の特性そのものに良し悪しはありません。
「困ったもの」という否定的なとらえ方は、一面的なもの。別の面から見れば長所ともいえます。

一つひとつの仕事に時間がかかる

丁寧。時間をかけて取り組める
すべての仕事に対して真剣
確実、正確、几帳面、職人肌

のめり込むとまわりが見えない

一つのことに集中できる
集中力がある
エネルギーがある
情熱的に取り組む

思い立ったらすぐ行動してしまう

フットワークが軽い
判断が早い
行動力がある
やることが早い
冒険家

融通がきかない

信念を持っている
まじめ
一貫性がある
意志が強い
芯が通っている

まわりができること

よい点をほめて自信につなげる

リフレーミングは、まわりの人にこそ必要といえます。発達の特性を「困ったもの」ととらえると、本人は自信を失い、さらに失敗やミスをしやすくなります。

「あなたは、こういうことが得意」と別の視点を与えれば、本人の自信につながります。特性に配慮すれば、本人の能力を最大限に生かせるようにもなるでしょう。

◇◇◇◇◇

なお、本稿は書籍『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。発達「障害」という名前はついていますが、本来、人の脳の発達はさまざまです。しかし、できることとできないことの偏りが強すぎてアンバランスになると、社会生活を送るうえで困ることが増えてきます。障害があってもなくても、そういう日々の「困った」によりそえるよう、たくさんのヒントを詰め込んだ本書は、当事者のかたが考え出したアイデアや、工夫して行っていることも掲載されています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。

大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本
¥1,650
2021-11-24 8:40

※(7)「大人の発達障害「日常生活の困った」身支度に時間がかかる〈解決のヒント〉」の記事もご覧ください。

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