「ミロ」が令和3年に爆売れした理由は?
「ミロ(MILO)」をご存じですか。日本上陸は、1973年(昭和48年)。私たちの世代は「強い子のミロ」というCMで一躍有名になりました。多分、一番最初のCMだと思います。ココア味の粉末麦芽飲料。牛乳に溶かせば、出来上がりということで、お手軽。カルピス同様、友だちの家には大体置いてありました。
しかし、色々しなくては、認知も売り上げも下がるのが世の道理。しかし、令和3年。ミロは欠品になるほど売れたのです。ほぼ倍増。何故、こんなことができたのでしょうか? 古くて新しい飲料「ミロ」をレポートします。
生まれは1934年。子どものために開発された
ミロ開発の契機になったのは「世界大恐慌」。色々な原因がありますが、表面に現れたのは、1929年10月24日(木)のアメリカウォール街。ニューヨーク株式市場における瓦落。いわゆる「暗黒の木曜日」。投機も、信用も、生産も、何もかも過剰でした。簡単に言うと、モノが売れないので経済が回らなくなった状態です。企業の倒産は後を立たず、多くの人が路頭に迷います。当然、食事も満足に食べられない。
食事は、数食でバランスを取れるように食べます。例えば、ビタミンCが豊富な食べ物。毎食、それを食べる必要はありません。数日の間に摂取できればいいのです。摂取できない場合は、どうするか。薬に近い感覚で飲ませればいいのです。
こうしてできたのが「栄養機能食品 ミロ」です。ミロは、この時期の子どもたちのために、オーストラリアで開発されました。
ちなみに「栄養機能食品」に似た言葉に「栄養補助食品」と言うモノがあります。双方、健康食品のカテゴリーに含まれますが、実は全く違います。栄養機能食品は、「保健機能食品」の一種で、科学的根拠が確認されている成分を一定の基準量含んでいる食品のことを言います。似たものに、15年位前に世の中を賑わせた「特定保健用食品」があります。「特保(トクホ)」と呼ばれるモノです。こちらはその成分を含んでいるだけでなく、疾病リスクの低減などが国によって審査されます。そして、国の指定した表現で、その機能を謳うことができます。「栄養機能食品」「栄養補助食品」は、国による審査はありません。しかし「栄養機能食品」は、含有成分の効能をうたいことができる点が違います。例えば、カルシウムを含んでいる場合は、「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です。」と書くことができます。「栄養補助食品」は、成分表示はできますが、機能を謳うことは認められていません。しかし、それを想起させる表現を使います。当然、誇張表現になりやすい。「栄養補助食品」が、「栄養機能食品」「特定保健用食品」よりイメージが高い場合が多いのは、それが理由です。
ミロは大麦麦芽から作られる
麦の代表は、小麦に、大麦でしょう。小麦はパン、パスタの原料にもなりますし、色々な料理に使われます。一方、大麦はというと・・・、そうビールの原料ですね。穀類がないと人類は生きてい毛ないくらい、豊富な栄養を持っています。しかし、人類は生の穀類からその栄養を取り込むことができません。お米は炊かなければ、栄養をとることができませんし、小麦は小麦粉にして加工して、中の栄養を取り出します。結構面倒くさい。しかし、それ以上に面倒なのが大麦。このため、身を守っている状態ではなく、芽として出てきた部分、麦芽を使います。そして粉にする代わりに「発酵」などして中のいい部分を取り出します。
それから作られるビールは栄養豊富。ビール腹とか悪口の対象になりますが、栄養価は確かに高いです。ミロは、蛋白質や鉄分など豊富な栄養素を持つ大麦麦芽にココア、脱脂粉乳、各種ミネラル、ビタミンを加え、粉末状の機能性飲料。牛乳に溶かして飲みます。ここで特筆すべきは、やはり「鉄分」です。
令和のミロブレイクのカギはSNS
人は鉄分がないと生命維持できない
小見出しは、ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、真実です。理由は簡単、人間は肺で酸素を取り込み、血液で体の隅々まで巡らせます。この時に活躍するのが「ヘモグロビン」。多くはタンパク質ですが、この中に鉄原子が入っています。肺で取り込んだ酸素を、鉄を酸化させることによりヘモグロビンにくっ付け、体の隅々まで運ぶのです。鉄を使うのは効率が良いからです。それまでの生物は何を使っていたかというと「銅」です。ヘモシアニン。ヘモグロビンの血は赤いのですが、ヘモシアニンはいわゆる青い血です。効率が良いので、銅から鉄へ。ここは古代文明が青銅器時代から鉄器時代へと変わったのと同じです。鉄なくして人類は生きられないのです。
ちなみに、漫画「鋼の錬金術師」のエドワードくんによると、大人一人分の鉄の量は5g。こんなものです。しかし、鉄が足らなくなる=ヘモグロビンの血中濃度が下がると、たちまち貧血を起こします。
女性は赤ちゃんを産むため、生理があり、出血します。どうしても鉄が不足しがちです。さらにいうと、鉄分は、肉とか魚に多いヘム鉄、野菜に多い非ヘム鉄があります。そして野菜に含まれるビタミンCなどはヘム鉄の吸収に役立ちます。日本の食事は、野菜に注意が行き過ぎて、肉、魚の接種が足らないことが多い。女性の貧血に拍車をかけるわけです。
令和のミロブレイクは、ここから起きました。ミロを飲んだら、貧血がよくなったとSNSの口コミで広がったためです。
ネスレのマーケティング
食事をガラリと買えるのは至難の業。しかし、ミロを一杯飲む位なら、どーってことありません。しかしネスレのマーケティングは、より女性に寄り添うモノでした。というのは、ミロはココア味だからです。
いつまでも美しくいたいのは、古今東西、女性の心理だと思います。今の世、これが行き過ぎた感があり、甘いものを食べると罪悪感を感じる女性が、かなりいます。男性から見ると許容範囲でも、同性の目はシビアらしく、とにかく甘いものはダメという女性も多いです。
そんな女性の心理に沿ったミロが、ブレイク後発売されました。「ミロ 大人の甘さ」です。砂糖の一部を食物繊維に置き換えた商品です。実際に飲んでみると、ココア風味というレベルまで抑えられているかなという感じです。
ちなみに、SNSで口コミでミロは一時欠品、販売停止をかけます。そして、「ミロ 大人の甘さ」を出した後、また欠品。
日本で販売されて、50年近く経つ、いわゆる定番飲料としては、考えられない販売数を出していまう。と言えます。
ちなみに、海外では、大人もココアを楽しみますので、「ミロ 大人の甘さ」は販売されていません。
ネスレの更なる挑戦
「ミロ 大人の甘さ」は、もう一つ普通のミロと違うところがあります。それはパッケージ後に「豆乳でもおいしいよ」と書かれているところです。ミロは牛乳で溶かすことを前提に作られています。しかし日本では、牛乳を飲むとお腹がグルグルしてしまう人もいます。そんな人に、お勧めなのが別の飲み物に溶かす方法です。先ほどあげた豆乳以外にも「飲むヨーグルト」などが挙げられます。
個人的には、牛乳&ミロの黄金コンビがベストと思いますが、味のチャレンジは面白く、ネスレもホームページに60種類ほど掲載しています。
実は先日、体験型カフェ「ネスカフェ原宿」で「飲むヨーグルト」に溶かしたミロを飲んだのですが、結構いけました。
そしてここは、今、テラス席が緑一色。というのは、一台しかない「ミロ 鉄分お助け自販機」が設置されています。すぐそこを緑色の山手線が走っています。見事に「緑」。春って感じです。
ちなみに、この自販機、ミロのオリジナルマグカップセットを売っています。「ミロ 大人の甘さ」とのセットですが、「ミロ 大人の甘さ」が410円(税込)ですから、マグカップはかなり破格、嬉しい価格です。
口コミで当たったミロ。キャンペーンも口コミでという感じです。ちなみにネスカフェ原宿は、竹下通りと100m位しか離れていないのですが、静かで穴場でもあります。
この春、ミロを楽しみながら健康を意識してみませんか?
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。