売りたい商品を客に選んでもらうために、明らかに選ばれない商品を紛れこませて、客の意思決定をコントロールすることができます。この心理効果を、「おとり効果」といいます。おとり効果について、著者で多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
真壁昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学大学院政策創造研究科教授などを経て、2022年から現職。「行動経済学会」創設メンバー。『ディープインパクト不況』(講談社+α新書)、『2050年世界経済の未来史: 経済、産業、技術、構造の変化を読む!』(徳間書店)、『MMT(現代貨幣理論)の教科書』(ビジネス教育出版社)、『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社新書)など著書多数。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 行動経済学のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/桔川シン、栗生ゑゐこ、フクイサチヨ、北嶋京輔
あえて選ばれない選択肢をつくるといい?
見劣りする商品をあえて入れることで、売りたい商品を客に選ばせることができる!
売りたい商品を客に選んでもらうために、明らかに選ばれない商品を紛れこませて、客の意思決定をコントロールすることができます。
この心理効果を、「おとり効果」といいます。
おとり効果については、行動経済学者ダン・アリエリーの実験が知られています。
行動経済学者ダン・アリエリーの実験
アリエリーは学生に、雑誌『エコノミスト』の購読プランのうち、どれを選ぶかアンケートをおこないました。
最初の選択肢は3つで、「ウェブ版のみ/59ドル」「印刷版のみ/125ドル」「印刷版とウェブ版のセット/125ドル」というもの。
結果は、セット版が最も人気で、印刷版のみを選んだ人はゼロでした。
しかし次に、「ウェブ版のみ/59ドル」「印刷版とウェブ版のセット/125ドル」と、選択肢を2つにすると、ウェブ版の方が人気になったのです。
「印刷版のみ/125ドル」という選択肢は、セット版を引き立てるための「おとり」になったのです。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 行動経済学のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
おとり効果の実験
▼実験1
アリエリーは学生100人に、雑誌『エコノミスト』の3つの購読プランを提示し、最も魅力的なプランを選ばせた。
「印刷版とウェブ版のセット」を選ぶ人が最も多かった!
▼実験2
実験1の後、おとりの選択肢で、誰も選ばなかった「印刷版のみ」を外し、2つの選択肢から選ばせた。
「ウェブ版のみ」を選ぶ人が大きく増加した!
▼結果▼
「印刷版のみ」という選択肢は、セット版を魅力的に見せるための「おとり」となったことが証明された!
おとり効果は、「相対性」の影響です。
相対性とは、絶対的な基準ではなく、ほかと比較することで判断するという性質。
例えば、「性能が30%アップ(当社比)」といった宣伝文句を見ても、その商品に十分な性能が備わっているのか、わかりません。
しかし、比べることによって、商品の価値を実感できるのです。
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なお、本稿は書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 行動経済学のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。近年、注目されている「行動経済学」は、心理学の理論を応用した、比較的新しい経済学のことです。伝統的な経済学の理論では、人間は常に合理的という条件を前提にしています。しかし、人間は、ときにはおかしなことをする。ダメといわれると余計にやりたくなってしまう。常に合理的とは限らない“私たち”がつくっている社会や経済も、理屈通りではありません。それを考察するのが行動経済学です。行動経済学で使われる言葉には、一般的に理解しにくいものがありますが、具体的なイメージをつくることで理解しやすくなります。それを実現したのが本書です。わかりやすいイラストを見ることによって、行動経済学のおもな理論をより深く理解できるだけでなく、日常の生活にも十分に役立ちます。豊富なイラストとともにオールカラーでやさしく解説しています。