雨が降る前や降った後に、どこからともなく独特なにおいがしてきますよね。私たちはそれを「雨のにおい」と感じていますが、このにおいは、おもにどこから発生しているのでしょうか? 雨の匂いの正体について、著者で気象予報士の中島俊夫さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
中島俊夫(なかじま・としお)
気象予報士。1978年生まれ。2002年、気象予報士資格を取得。その後、大手気象会社や気象予報会社で予報業務に携わるかたわら、資格学校で気象予報士受験講座の講師も務める。現在は個人で気象予報士講座「夢☆カフェ」を運営。気象予報士の劇団「お天気しるべ」を主宰。著書に『イラスト図解 よくわかる気象学』シリーズ(ナツメ社)など。2021年NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」で助監督(気象担当)を務める。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 天気のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/桔川シン、堀口順一朗、北嶋京輔、栗生ゑゐこ
独特な雨のにおい。どこから発生している?
雨が降る前や降った後に、どこからともなく独特なにおいがしてきますよね。
私たちはそれを「雨のにおい」と感じていますが、このにおいは、おもにどこから発生しているのでしょうか?
3つの原因
雨のにおいの原因は、いくつかあります。
1つ目は、植物由来の油のにおい。
長く乾いた期間に、ある種の植物は油を出す性質があります。
この油が地面にたまり、そこに雨粒があたると空気中に放出され、においを生じます。
2つ目は、バクテリア由来のにおい物質「ゲオスミン」。
私たちが「土のにおい」と感じるにおいです。土の中にいるバクテリアはゲオスミンという化学物質を出します。
地面に雨粒があたると、この物質が空気中に放出され、におうのです。
実は、人の嗅覚はゲオスミンを敏感に感じとります。
ずっと昔から、雨のにおいが生き残るために重要だったから、敏感になったのかもしれません。
3つ目は、オゾンのにおいです。
雷雨などで、大気中にオゾンが発生します。ふだん上空にあるオゾンは、特徴的なにおいがします。
これが雨粒で地面へ運ばれ、雨のにおいの原因となるのです。
答えは「濡れた地面」
私たちは、この3つのにおいを「雨のにおい」として感じ取っているのです。オゾンは空気のにおいですが、植物油、ゲオスミンは地面からのにおいです。なので、答えは「濡れた地面」です。
雨が降った後に感じるにおいは、「ペトリコール」と呼ばれます。
ギリシャ語の「ペトラ(石)」+「イコル(神々の静脈を流れる空気のような液体)」を合成した言葉です。
オーストラリアの鉱物学者ベアとトーマスが名付け、このにおいを「長く乾燥した天気の後の、最初の雨にともなう心地よい土のにおい」と表現しました。
3つの「雨のにおい」
▼植物由来の油
地面にたまった、ある種の植物が分泌する油のにおいが「雨のにおい」。
▼ゲオスミン
土の中にいるバクテリアが分泌するゲオスミンという物質が「雨のにおい」。
▼オゾン
稲妻などで大気に発生したオゾンの特徴的なにおいが「雨のにおい」。
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なお、本稿は書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 天気のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。最近は、天気予報で「ゲリラ雷雨」「線状降水帯」「猛暑」など、気象災害に対して警戒を呼びかける言葉をよく聞くようになりました。でも、天気のしくみを知るのに必要な気象学って、数式とかたくさん出てくるんでしょ? …などのように思ってはいませんか? そんなことはありません。「晴れる」「雨が降る」という、とても身近なことなのに、そのしくみについて知らない方はきっと少なくないはず。そんな天気を知るための最初のきっかけに、本書は非常に適しています。興味をもったページから読めるように工夫しているので、順番に読んでいく必要はありません。大人はもちろん、小さなお子さんも楽しめます。簡潔な文章と豊富なイラストや写真を使ってわかりやすく説明しています。