腰痛を根本的に解消するには「痛みが発生するメカニズム」を理解し、腰の構造を改善することが不可欠です。そのために最も重視すべきなのが、腰周りの筋肉のバランスを整えること。つまり、サボリ筋をピンポイントで刺激することなのです。腰痛には「腰が反るタイプ」と「腰が丸くなるタイプ」があります。それぞれのタイプ向け「サボリ筋」コンディショニングについて、著者で理学療法士の笹川大瑛さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
笹川大瑛(ささかわ・ひろひで)
理学療法士。一般社団法人 日本身体運動科学研究所 代表理事。教育学修士。剣道六段。日本大学文理学部体育学科卒、日本大学大学院(教育学)卒。整形外科で多くの高齢患者や慢性疼痛患者のリハビリを担当する。臨床経験や独自の研究を経て、サボリ筋を鍛える「関節トレーニング」を考案。体の動きが劇的に変わると評判を呼び、関節痛の改善・予防のほか、アスリートの運動能力向上にも貢献している。ボディコンディショニングのセミナーも多数開催。「関節の痛みのない世界をつくる」をビジョンに、セルフケアの普及や治療家の育成に尽力している。著書に『関トレ 関節トレーニングで強いからだを作る』(朝日新聞出版)、『運動能力が10秒で上がるサボリ筋トレーニング』(KADOKAWA)などがある。
本稿は『腰の痛みが10秒で解消!サボリ筋コンディショニング 体操やストレッチより効果絶大!』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/中村知史、撮影/山上忠
腰痛の根本解消のために重視すべきは腰周りの筋肉のバランスを整えること
腰痛の発端に、腰周りで本来の働き・機能を果たしていない筋肉=「サボリ筋」あり、それと同時に、そのサボリ筋のせいで、余計に働かねばならない状態の筋肉=「ガンバリ筋」が存在します。
「あれっ、腰が痛くなってきたかな」と感じはじめる段階、つまり初期の腰痛は、このガンバリ筋が生み出します。
あまりに働きすぎたガンバリ筋は、緊張・硬直し続けた状態になり、疲労物質や発痛物質が蓄積されていきます。
また、緊張・硬直しているガンバリ筋は、腱(筋肉と骨を結びつけている組織)や靱帯(骨と骨を結びつけている組織)を引っ張り続け、これもまた痛みの原因になります。
こうして、一般的に「腰の筋肉痛」「筋筋膜性腰痛」と呼ばれている腰痛は、「腰周りの筋肉のアンバランス」が原因で引き起こされるのです。
「ぎっくり腰」も、ガンバリ筋の過緊張によって起こる腰痛です。
腰痛が重症化していく
さらに、そうした筋肉のアンバランスを放っておくと、今度は「腰周りの骨や関節」にまでダメージが広がっていきます。
ひとことでいえば、「腰痛が重症化していく」ということで、その行き着く先が腰椎椎間板ヘルニア(以降は「椎間板ヘルニア」と表記)や脊柱管狭窄症などの疾患です。
これらの疾患は、トラブルが筋肉だけにとどまらず、骨や関節にまで及んでしまい、痛みはいっそう強く頻繁に現れるようになります。
なぜなら、「ガンバリ筋による腰痛」だけでなく、関節内の炎症、神経への直接的な圧迫までもが起こりやすい状態になっているからです。
加えて、緊張・硬直したガンバリ筋が、腰〜足先まで延びている坐骨神経を締め付けることもあり、その場合には下半身のしびれまで招いてしまいます。
腰痛を根本的に解消するには、このような「痛みが発生するメカニズム」を理解し、腰の構造を改善することが不可欠です。
そして、そのために最も重視すべきなのが、腰周りの筋肉のバランスを整えること。
つまり、サボリ筋をピンポイントで刺激することなのです。
本稿は『腰の痛みが10秒で解消!サボリ筋コンディショニング 体操やストレッチより効果絶大!』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
腰痛には、「腰が反るタイプ」と「腰が丸くなるタイプ」がある
「サボリ筋からはじまる”負のスパイラル”」を、見てみましょう。
腰のトラブルは、次の流れで大きくなっていきます。
(1)腰周りのサボリ筋が、本来の働き・機能を果たしていない
(2)サボリ筋のそばにある「他の筋肉」にも悪影響が及ぶ
(3)腰から股関節の関節・骨盤の状態も悪くなる
(4)腰痛や坐骨神経痛が発生する
ここでは(3)について触れていきましょう。
腰には、仙骨・寛骨(腸骨、恥骨、坐骨が癒合したもの)・尾骨から成る「骨盤」があります。
また、背骨全体(脊柱)の中では、5個の骨(椎骨)が縦に積み重なって”腰の部分”を構成しています。
それら5個の「腰椎」の間にある関節を「椎間関節」といいます。
▼腰周りの骨と関節
サボリ筋、そしてガンバリ筋があると、この腰椎に対しても多大な悪影響が及びます。
腰椎を含めた背骨は、本来、全体を横から見ると緩やかなS字カーブを描いています。
腰に相当する5個の腰椎の部分は、緩やかに反った「前弯」の形をしています。
こうした緩やかなカーブがあるおかげで、体重や重力からくる負荷、地面からの衝撃がうまく分散・緩和されるようになっています。
ところが腰周りには、すでにお話ししてきたとおり、「腰を支えている重要な筋肉なのにサボりがちな筋肉」があります。
そして、「サボりがちな筋肉が機能しない→ガンバリ筋が緊張・硬直する」という状況に陥ると、以下のような「2つのタイプの悪影響」が現れ、腰痛が増幅されるのです。
骨盤が前傾し、「腰が反るタイプ」
骨盤が後傾し、「腰が丸くなるタイプ」
前者の場合は、骨盤が前傾することによって、上半身が前に倒れないように「反り腰」になるということです。
つまり、腰椎が本来描いている前弯の形は、前述したように「緩やかに反ったカーブ(生理的前弯)」であるはずなのに、きつい角度で腰が反りすぎることにより、痛みを強くさせやすいのです。
一方、後者の場合は、骨盤が後傾することによって、今度は上半身が後ろへ倒れないようにバランスを取るため、腰が丸まります。
腰椎の緩やかに反った前弯のカーブが失われ、”真っ直ぐに近い状態”(スウェイバック姿勢)になることから、痛みを悪化させやすいということになります。
いずれにしても、サボリ筋を根源として、腰の骨・関節の配列・並び方(アライメント)が大きく崩れているということなのです。
本稿は『腰の痛みが10秒で解消!サボリ筋コンディショニング 体操やストレッチより効果絶大!』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
腰が反るタイプ向け 腸腰筋コンディショニング
股関節の付け根にある筋肉「腸腰筋」を刺激して、腰・股関節の前側で支える力を効率的にアップ!
*写真は左側を刺激する場合
(1)床に寝て片ひざを立て、反対のつま先を天井に向ける
床に仰向けに寝て右脚のひざを立て、左脚のひざを「伸ばした状態」から「外側へ軽く曲げた状態」にする。
さらに、その左足のつま先で「グー」を作って天井に向ける。
(2)脚を引き寄せる
かかとを床にこするようにしながら左脚をさらに曲げ、股関節のほうへ引き寄せたら、(1)の体勢に戻る。
「引き寄せる→戻す」を約1秒間に1回行い、10回繰り返す。
左右を入れ替え、反対の脚でも同様に行う。
▼下腹部の左右両側
腸腰筋は、背骨の腰部分(腰椎)・骨盤の内側(腸骨の内側)から、左右の太ももの骨(大腿骨)の付け根まで伸びている。
この範囲に意識して力を入れること。
▼POINT
動かすほうの脚は、必ず「足先を軽く握って天井に向けた状態」をキープすること。
本稿は『腰の痛みが10秒で解消!サボリ筋コンディショニング 体操やストレッチより効果絶大!』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
腰が丸くなるタイプ向け 多裂筋・腹横筋コンディショニング
腰・股関節を後ろ側で支える「多裂筋」「腹横筋」を働かせ、腰痛・お尻の張り・脚のしびれも一掃する!
*写真は左側を刺激する場合
(1)床に横向きに寝て、手のひらを上に向ける
体の左側を上にして、胸を張りながら横になり、両脚のひざを軽く曲げる。左腕は前方に伸ばし、手のひらを上に向ける。
(2)上半身を持ち上げる
下半身の位置・左手のひらの向きは動かさずに、脇と骨盤を縮めるイメージで上半身をできるだけグッと真上に持ち上げ、その状態を10秒間キープする。
左右を入れ替え、反対側でも同様に行う。
▼お腹の側面・腰周りから背骨にかけて
腹横筋はお腹の左右を広く覆うようにあり、多裂筋は背骨の後ろ側にある。
この範囲に意識して力を入れること。
▼NG こうなると正しく力が入らない!
胸を張って背すじを伸ばして行わないと、多裂筋と腹横筋は刺激できない。
目線はひざや下に向けず、真っ直ぐ前を見ること。
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なお、本稿は書籍『腰の痛みが10秒で解消!サボリ筋コンディショニング 体操やストレッチより効果絶大!』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。腰から股関節を支えている筋肉の中には、これまで繰り返してきた動作や姿勢のクセ、加齢などの影響から「働きづらくなる筋肉」が存在します。それは、ひとことでいえば働いていない=サボっている筋肉。つまり「サボリ筋」なのです。こうした腰周りのサボリ筋こそが、腰痛をはじめとした腰トラブルの根源になっています。「サボリ筋コンディショニング」は、このような腰周りの筋肉の「アンバランスな状態」を瞬時に解消し、「理想的・健康的な腰の状態」に整える方法です。本書は、そのメソッドを簡潔な文章と写真を使って、わかりやすく説明しています。