シグマが発売した超軽量・高画質の超望遠単焦点レンズ「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」。その性能が気になりすぎて、はじめて超望遠レンズでの各種チャート撮影を敢行。その結果に、筆者は愕然としたので、みなさんに報告します。
超望遠単焦点レンズに手を出したら我が家の経済が破綻する
実勢価格50万円前後の「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」はかなり現実的で危険
▲SIGMA fpに装着した「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」。SIGMA fpはかなりコンパクトですが、それがあまり大きく見えないくらいレンズも小さいのです。
シグマが発売した「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」は、小型軽量で高画質、しかも50万円とかなり現実的でリーズナブルな価格が話題となり、いまも超望遠単焦点レンズとしては、かなり人気を誇っています。
50万円の単焦点レンズがリーズナブルというと、どこかおかしいのでは? と思うのが、常識人の感覚だと思います。実際、筆者もレンズ・カメラ好きでなければ、非常識だと思うわけです。
しかし、ここには超望遠レンズの不思議な状況が関連します。筆者は北海道に住み、作例などを撮影するうちに、400mmを超えるような超望遠レンズを頻繁に使用するようになりました。基本的にスポーツ、モータースポーツ、野生動物、野鳥、列車、飛行機などを撮影しない方には400mmを超えるような超望遠レンズはあまり縁のないものでしょう。
ですが、逆にいうなら、これらの被写体をメインする方にとっては500mmが標準レンズという人もいるくらい、よくつかう焦点距離です。そして、最近では150-600mmといった焦点距離の超望遠ズームレンズも10万円から30万円程度出せば、買える環境が整い、多くの方が、以前に比べると比較的簡単に超望遠撮影を楽しめる環境が整っています。
150-600mm、100-400mmなどで手軽に超望遠撮影が楽しめるようになったのは喜ばしいことなのですが、ここからさらにプロ並みの画質を求めようと考えると、驚くほど大きなハードルが現れるのです。オリンピックやワールドカップなどのスポーツイベントで並ぶプロカメラマンたちが使っている大きく長く、そしてかなりの確率で白い超望遠レンズなのですが、だいたいすべて実勢価格が100万円オーバーです。ものによっては200万円を超えることも珍しくありません。
そして、野生動物などの人気の撮影スポットでは、30万円程度出せば、手に入る150-600mmクラスと100万円オーバーが基本の超望遠白レンズクラスが並んでいるわけです。多くの方は30万円クラスのレンズから、100万円オーバーのレンズに一大決心をしてステップアップするのですが、実は、この間が意外な空白地帯となっています。
そのため、筆者などは超望遠の単焦点レンズは、実写の画像を見ているだけでいいのはわかるけど、100万円を超えるようなレンズを買えば我が家の経済は破綻しますし、3〜4kg程度ある重いレンズは筆者の使い方には向いていないので、この大きなハードルは越えないと決めていたのです。グリム童話のキツネのように「どうせ、あのブドウは酸っぱい」ということで、これ以上レンズ沼の深淵に魅入られないようにしていました。しかし「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」がやってきたのです。
初の超望遠レンズでの各種チャート撮影を敢行
▲コンパクトバズーカーの愛称をもつ「SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporary」(右)と並べたところ。「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」(右)は本当に小さい。
元月刊カメラ誌の編集者で、文系レンズオタクの筆者は、レンズテストの師匠である小山壯二氏といっしょに各種レンズで撮影した実写チャートデータをまとめた「レンズデータベース」と「レンズラボ」という電子書籍を出版しています。最近150冊(本)を超えて、過去にテストしたデータとの比較も楽しんでいるのですが、400mmを超えるような超望遠レンズのテストデータはありません。
そもそも「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」のように画角が5度しかないような超望遠レンズは、筆者の所有する機材ではミリ単位でのコントロールでチャートを撮影することが困難でデータの撮影ができないのです。そのため「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」のレビューは実写作例主体の比較的ライトなものを考えていたのですが、師匠の小山壯二氏に相談すると「チャートはうちの会社のスタジオで撮ってあげる」というのです。
こうして150冊以上の出版してきた電子書籍シリーズ初の超望遠レンズのチャートデータが完成しました。この記事は、そんな「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports レンズデータベース」(URL入る)に掲載した実写チャートの一部を使って「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」の性能を解説していきます。
予想はしていたものの、解像力もぼけも驚愕の高性能
▲「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」+SIGMA fp(有効画素数約2,460万画素)で撮影した解像力チャート。基準となるチャートは1.1です。
絞り開放から解像力はほぼ全開! 好きな絞りで撮影して問題なし
筆者たちが普段から使っている解像力チャートは小山壯二氏のオリジナルで、ひと工夫凝らしたものになっています。デジタルカメラは基本的に、画面内で1画素のサイズよりも小さな線などを解像することができません。例えば、2,400万画素のカメラは画素数が6,000×4,000の配列で並んでいますので、長辺の1/6,000よりも小さな線などは解像しないわけです。この解像しなくなるサイズは、画素数から計算できるので有効画素数からの解像力の限界は簡単に算出できます。しかし、一般的なデジタルカメラはワンショットでカラーの画像を生成するので、多くの場合ベイヤー配列(RGGB)となっており、1画素で画像を生成することはできません。複数の画素をデータを参照して色やグラデーションといった画像を生成しているわけです。これらの要件にローパスフィルターなどの影響を考慮すると、現実的には1画素の約1.4倍の線までは解像できると想定できるので、これを基準となるチャートと呼んでいます。
簡素化していうならば、有効画素数から想定される解像限界付近の細さの線で構成されたチャートが基準となるチャートです。
有効画素数から想定される解像限界付近の線で構成された基準となるチャートを観察することで、この解像にレンズがどう影響するかを観察しているのが、小山壯二氏オリジナルの解像力チャートといえます。おかげでカメラ本体の画素数などが異なっていても、レンズの解像傾向を過去のデータからも読み解くことができるのが大きな特徴です。
そして、今回はじめて行った超望遠レンズ「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」の解像力チャートの結果は開放付近は上に掲載したとおりになっています。絞り開放のF5.6から基準となるチャートである1.1を画面中央はもちろん、周辺部分でも十分以上に解像し、それどころかさらに小さな1のチャートも多くの部分を解像しています。中央部分のチャートの比べて、周辺部分のチャートが少し暗いのは周辺光量落ちの影響でしょう。素晴らしい結果です。
▲絞ってF9.0やF10で撮影した解像力チャートの結果です。周辺光量落ちの影響で少し暗くなっていた周辺分のチャートが少し明るくなった程度の変化しかありません。
多くのレンズでは、絞ると周辺部の解像力が改善することが多いのですが、「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」の場合、絞り開放から極わずかに絞り過ぎによる解像力低下が感じられるF16まで、絞ってもほとんど画質が変化しません。開放からF8.0あたりまでは絞ると周辺光量落ちが改善されるため、わずかに周辺部のコントラストが上がるといった効果が期待できる程度です。
「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」の場合、画質アップを期待してちょっと絞る必要は感じませんので、シャッター速度をかせぎやすい絞り開放のF5.6を積極的に使っていくことをおすすめします。
また、Sony Eマウント用では使えないのですが、Lマウント用では焦点距離を1.4倍や2.0倍に伸ばす純正テレコンバーターが使用できるのですが、この際に伸ばした焦点距離に応じてレンズが暗くなるので、絞り開放から高い解像力を発揮してくれることはとても優位です。
絞り開放から中央部はもちろん周辺部まで、ほとんど揺るぎない解像力を発揮する「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」は非常に高性能です。
高い解像力を誇りながら、最上級レベルの大きく滑らかで美しいぼけ
▲「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」で画面内に発生させた玉ぼけのチャート。この様子からぼけの形や質、タマネギぼけ、二線ぼけなどの傾向を観察します。
筆者たちはレンズのぼけを観察する際に、画面内に超小型のLEDライトを入れて玉ぼけを画面内の各部に発生させて、その様子を観察しています。
具体的にどのあたりを観察しているかというと、まずはぼけの形そのもの、円形絞りなどを採用したレンズでは真円に近いガタつきのない玉ぼけが発生しますし、口径食による周辺部での玉ぼけの形そのものの変形も観察されます。次に玉ぼけの円周部の様子、ここに太いフチつきが発生するレンズは二線ぼけ傾向が強いですし、目立った色つきが発生するレンズはぼけに存在しない色つきが観察されます。最後に玉ぼけの内部を観察するのですが、内部にザワつきや色むらなどが大きく発生するレンズはぼけがガチャつく結果になります。また、同心円状のシワが発生するレンズは多くの場合非球面レンズを使っていることが多いのですがタマネギぼけが発生する傾向になります。これらの要素を観察してレンズのぼけを評価しているわけです。
▲「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」のF9.0とF10のぼけの様子。絞りの形は美しいが、口径食の影響はここまで絞っても観察されます。
これまでに150本以上のレンズのぼけを玉ぼけチャートで観察してきたのですが、「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」のぼけは特上クラスです。形については、SIGMAの11枚羽根の円形絞りを採用しているためか、絞り開放付近はもちろん、かなり絞ってもカクツクが発生することもなく、真円に近い形を保持します。あえて気になる点をあげるとすれば、口径食の影響で周辺部のぼけが円形になるにはF13あたりまで絞る必要がある点でしょうか。
玉ぼけの円周については、若干のフチつきが観察されますが、色つきはまったく観察されず、美しいぼけが発生することが予測されます。
最後に玉ぼけの内部の滑らかさは、筆者の知る限りでは単焦点レンズのなかでも近接撮影により大きなぼけが発生することを前提に設計される100mmマクロレンズ、それも解像力よりもぼけの美しさを優先して非球面レンズなどを意図的に使用していないものと同等か、それ以上のぼけの滑らかさを観察しました。
すでに解像力チャートによって絞り開放からの高い解像力が証明されているのですが、ぼけについても単焦点レンズの最高峰レベルの美しさが確保されているということができます。びっくりするような結果です。
実写の結果を比較観察して愕然とする
▲SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports/Sony α7R III/848mm相当(クロップ)/シャッター速度優先AE(F6.3、1/640秒)/ISO 2500/露出補正:+0.7EV/WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド
APS-Cサイズへのクロップを使ってますが、約850mm相当の超望遠で撮影した花畑のエゾリス。決して悪い写真ではないと思うのですが……。
実は今回のテストは日程などの関係もあり、実は筆者が先に作例を撮影した後、小山壯二氏に各種チャートを撮影してもらいました。筆者はこれまで「SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports」を超望遠撮影のメインとして使っており、100万円を超えるような超望遠単焦点レンズには手を出さないと決めていたので、これ以上のレンズには手を出さない予定でした。
しかし、「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」をテストする機会に恵まれ、実際に撮影してみると、残念ながら筆者の超望遠のメインレンズである「SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports」とは明らかに違うのです。ある意味ファインダーの中に表示される画面の画質すら異なるレベルになっています。
▲SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports/Panasonic LUMIX S5II/500mm/シャッター速度優先AE(F5.6、1/400秒)/ISO 800/露出補正:+1.0EV/WB:太陽光/フォトスタイル:ヴィヴィッド
エゾリスのポーズは先に掲載した写真のほうがいいくらいなのですが、解像感、立体感、ぼけの美しさ、そしてヌケ、すべての要素がハイレベルなのです。
作例などを撮影してしばらくしてから、小山壯二氏から各種チャートの結果を受け取り、「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」の脅威的な性能について、チャートの結果としても知ったのですが、それらがどのように実写結果の影響するかについて、筆者が2023年に「SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports」で撮影したエゾリスとお花畑、同じ場所で2024年に「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」で撮影した写真を掲載してみました。
APS-Cサイズへのクロップなど撮影条件は多少異なるのですが、どちらもWEB掲載用に長辺2,000ピクセルにリサイズしているにも関わらず、被写体の立体感、画面の奥行き感、シャープさ、透明感や抜け感、そして圧倒的なぼけの美しさと、さすがの筆者も来年以降は可能であれば「SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports」ではなく「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」で撮影することを決心した次第です。
100万円オーバーの超望遠レンズの世界に誘う魔性のレンズ
▲3つのAFLボタン、カスタムモードスイッチ、手ぶれ補正機構用のOSスイッチ、フォーカスリミッタースイッチなど各種ボタン・スイッチ類も充実しています。
さらに高性能なレンズの興味が出てしまう危険なレンズ
「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」の解像力や玉ぼけなどのチャートテストの結果は、実写でも気が付いていた高い描写力を裏付けるものになった形です。解像力が高く、ぼけが美しいだけでなく、周辺光量落ちも軽微で、軸上色収差に至ってはほとんど発生しなかったことも追記しておきます。
さすがに100万円オーバーの超望遠単焦点レンズは買えないけど、超望遠単焦点レンズの画質に関心のある150-600mm、100-400mmクラスの超望遠ズームレンズを使っている多くのユーザーにとって「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」は非常におすすめのレンズといえます。筆者も「SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports」の後に「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」を使うともう後戻りできないことを痛感しています。これが怖い。
約50万円という「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」の実勢価格は大きなハードルとはいえますが、すでに望遠ズームレンズに数十万の予算をつぎ込んでいる我々にとって100万円の大台を超える白い超望遠単焦点レンズの世界に飛び込むよりもハードルはかなり低いといえるでしょう。
それよりも筆者が懸念していることは、100万円を超える価格帯になるから超望遠単焦点レンズには手を出さないと決めていた筆者の決意が「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」を使うことで瓦解したことです。30万円程度から100万円オーバーの世界へのジャンプはかなり勇気がいりますが、1度「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」にたどり着いてしまうと50万円から100万円オーバーの世界へのジャンプはちょっと勇気を出せば、行けてしまいそうなことが怖い。
実際100万円オーバーの白い超望遠単焦点レンズ群は、うっとりするほど高性能な「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」よりも、さらに高性能なのだろうから……と師匠の小山氏と次の超望遠単焦点レンズ群テストを画策してしまっているのです。底なしといわれるレンズ沼は本当に怖いのです。
SIGMA公式サイト(https://www.sigma-global.com/jp/)
<データ出典>
「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9Q9JB4W)