家庭用IH調理機器が登場して、すでに30年以上。IH炊飯器やIHクッキングヒーターは広く知られ、多くの家庭で利用されている。最近は、これらが進化したことに加え、ホットプレートやホームベーカリーにも応用されている。そんなIH調理機器の現状を見渡してみよう。
さまざまなアイテムで採用されているIH。安定した火力でムラのない加熱が持ち味
「IH」って何なの?
IHは、電磁誘導加熱(Induction Heating)の意で、磁力線の働きによって、金属自体を発熱させる技術。熱効率がよく、均一に熱くなるので、炊飯器ではムラのない炊き上がりが、クッキングヒーターではきめ細かい火力調節が可能。
●IHの仕組み(クッキングヒーターの例)
IH式の普及炊飯器、ホットプレートなど採用する家電が増加
ホットプレート、グリル鍋、ホームベーカリーなど、いろいろな調理機器での採用が増えているIH。中でも、炊飯器とクッキングヒーターは、今や導入している家庭も多く、IH調理機器の代表的アイテムといえよう。
IH炊飯器は、よく耳にする言葉なので、かなり浸透しているように感じるが、ある報告によると、一般家庭へのIH炊飯器の普及率は約6割で、思ったほど大きい数字ではない。ということは、約4割の家庭は、マイコン式を使っているか、そのほかの方法でご飯を炊いていることになる。今後は、こういった層がIH式へ乗り替えていくことも期待されるが、市場の軸は、買い替え需要だろうと思われる。
一方のIHクッキングヒーターは、現在も普及率が伸び続けている。具体的には、2009年に約18%だったものが2014年には約24%と、5年間で約6ポイントの伸長。今後も、住宅の新築・リフォームを機にますます導入が進み、それなりのペースで普及が進むと予想される。現在は、4軒に1軒の割合だが、集合住宅ではオール電化の採用が活発化しているので、そう遠くない将来に、3軒に1軒の割合(普及率33%)になるかもしれない。
また、IHヒーターの1口、あるいは2口を食卓で使えるようにした、卓上型コンロも人気がある。中には、専用の鍋やプレートを付属して、ホットプレートに発展させたモデルもあるほか、一部のホームベーカリーにも、IH式が採用されるようになっている。
炊飯器/ホームベーカリーIHの構造や配置の仕方にも新たな手法が登場
IH炊飯器が初めて登場したのは1988年のこと。それまでのマイコン式炊飯器よりおいしくご飯が炊けるということで、徐々に人気が高まり、30年を経た現在、炊飯器の主流はIH式に置き替わっている。
IHは、電磁力を使って釜自体を発熱させるため、熱効率がよく、均一に熱くなる。このため、加熱ムラの少ない炊き上がりになり、これがマイコン式よりおいしいといわれるゆえんだ。
近年は、さらなるおいしさを求めて、釜の素材や釜の形状にこだわるメーカーも多い。三菱の「本炭釜」、タイガーの「本土鍋」、東芝の「かまど本羽釜」、象印の「豪炎かまど釜」など、各社が独自のネーミングでこだわりをアピールし、IH炊飯器に高級タイプという新ジャンルを確立させている。ご飯をおいしく食べたい人にとって、これら高級タイプが特別な存在ではなくなっているのも、近年の傾向だ。
IHの構造や配置にも新たな手法が生まれている。通常は、底部にIHを装備して内釜を発熱させるが、パナソニックでは、ふた部分にもIHを搭載して内釜の上から加熱し続けるモデルを、タイガーでは内釜を取り囲む「かまど」をIH発熱させ、その熱を陶製の内釜に伝えるモデルを発売。また、象印の最新モデルでは、底部のIHを3分割し、それぞれを独立制御することで激しく複雑な対流を起こすというローテーション構造を業界で初めて採用。今後も進化は続きそうだ。
一方、ホームベーカリーにIHが採用されたのは、つい最近のこと。昨秋に発売された、グルテンフリー(米粉100%)食パンが焼ける、タイガーのグランエックスシリーズがそれ。IHは、きめ細かな温度管理と高火力を得意とし、皮はパリッと、中はフワッと焼き上がるのが特徴だ。今後は、ほかのメーカーの参入にも興味がわいてくる。
IH炊飯器
象印
炎舞炊き NW-KA10
実売価格例:10万7660円
底部に三つのIHヒーターを搭載。それぞれを独立制御して激しく複雑な対流を起こすことで、お米の一粒一粒にしっかりと熱が伝わり、ふっくらと炊き上がる。釜はステンレスとアルミの間に鉄を仕込んだ独自の構造。
IHホームベーカリー
タイガー
やきたて KBD-X100
実売価格例:4万1550円
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IHが温度を徹底管理。生地をしっかり釜伸びさせてから、一気に最高温度まで加熱するので、薄皮でパリッと焼き上がる。添加物を使わずに米粉100%でふっくらした食パンが焼けるほか、本格的なハード系パンも焼ける。
クッキングヒーター/プレート素早い立ち上がりと微妙な火加減が得意
IHクッキングヒーターが登場したのは1990年のこと。3口ビルトインのスタイルが、それまでのガス台に置き替わる調理器具として注目され、約30年を経た現在も、これが基本形となって定着している。
IHクッキングヒーターは、トッププレートの下に電磁コイルが組み込まれている。このコイルに電気を流すことで磁力線を発生させ、トッププレート上の鍋やフライパンにうず電流を起こして金属そのものを発熱させる仕組みだ。以前は、使用できる鍋が限定されていたが、近年は、鉄製、ステンレス製鍋だけでなく、アルミ製や銅製の鍋も使える「オールメタル対応」が増加。グリル部にIHヒーターを装備するなど、新しいトレンドも生まれている。
また最近は、卓上で調理ができる2口IHプレートも登場。鍋調理はもちろん、ホットプレートとしても使えるので、人気を集めている。
IHの火力は、電気量でコントロールするため、素早い立ち上がりと微妙な火加減が得意。例えば、揚げ物調理で油温を設定しておくと、食材を入れて温度が下がっても自動的に加熱して温度を維持してくれるし、煮物調理での弱いトロ火も、立ち消えの心配なく実践できる。
なお、鍋やフライパンは発熱するが、トッププレートは熱くならないので、空いている場所に調味料や調理小物が置けるし、フラットな耐熱強化ガラス製なので、丈夫であると同時に汚れを拭き取るのも簡単だ。
IHホットプレート
パナソニック
IHデイリーホットプレートKZ-CX1
実売価格例:5万450円
新開発の薄型ターボファンを搭載し、テーブルになじむスマートなデザインを実現。2口のIHを装備し、鍋やフライパンを使った2口卓上調理が可能。また、専用ホットプレートを載せれば、左右異なる温度で2品同時調理が可能。
IHクッキングヒーター
パナソニック
KZ-CX77PW
実売価格例:31万1040円
左右ともオールメタルIH。アルミフライパンでの中華の鍋振りから、軽い雪平鍋でのコトコト煮物まで、多様な鍋に対応。グリルは、底面にIHヒーター、天面に平面ヒーターを搭載。
IHクッキングヒーター
日立
HT-L300XTWF
標準価格:43万9000円(税別)
左右ともオールメタルIH。素早く焼き上げる「ラク旨グリル」は、余分な脂や塩分を落とすヘルシー調理に対応。じっくり火を通す「ラク旨オーブン」は、魚の煮付けなどができる。
機能
三菱電機
CS-PT316HNWSR
標準価格:42万5000円(税別)
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3口すべて鉄・ステンレス対応IH。鍋底を分割で加熱する「びっくリングコイルP」を搭載し、外向き/内向きに交互に対流を起こして本格的な煮込み調理に対応。焦げつきも抑制。
機能
パナソニック
KZ-KM22D
実売価格例:12万4280円
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右はオールメタルIH、左は鉄・ステンレスIH。「エコナビ」が鍋の大きさや作る量を見極めるので、焼き物も揚げ物も、火力のムダなく設定温度に自動制御。揚げ物は小鍋でも可能。
まとめ
炊飯器の主流は、今やIHとなっているし、IHクッキングヒーターは興味ある家電の一つとして、常に上位に挙げられる。おそらくIHホームベーカリーやIHホットプレートも、製品の存在が広く知られてくれば、IH調理機器の一つとして定着することだろう。IHは熱効率が高く、周囲への放熱が少なく、空気を汚さないのも利点なので、エコや健康の観点からも注目されている。
監修/中村 剛(「TVチャンピオン」スーパー家電通選手権優勝)
◆Profile/「TVチャンピオン」スーパー家電通選手権で優勝の実績を持つ家電の達人。家電製品総合アドバイザー、消費生活アドバイザー。東京電力「くらしのラボ」所長。現在、暮らしに役立つ情報を動画(Facebook)で配信中。→「くらしのラボ」はこちら
取材・執筆/市川政樹(テクニカルライター)
※価格は記事制作時のものです。