筋肉に血液が使われると、胃腸の血流が低下して、消化機能が落ちます。しかし、逆にいえば、消化が緩やかになるということです。つまり、糖の吸収速度が遅くなり、血糖値の上昇が抑制される、という考え方に近年、定説が変わったのです。【解説】泰江慎太郎(銀座泰江内科クリニック院長)

解説者のプロフィール

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泰江慎太郎(やすえ・しんたろう)
医療法人光史会銀座泰江内科クリニック院長・理事長。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。日本糖尿病学会専門医、日本循環器学会専門医、日本医師会認定健康スポーツ医。社団法人メディカルヘルスケア協会代表理事。これまでに1万人以上の糖尿病患者を診療。海外のVIPからも多数診察依頼があり、担当している。

糖尿病の運動療法のタイミングは?

従来の定説が覆されようとしている

私は、糖尿病専門医として、日々、糖尿病に悩む患者さんの治療に当たっています。運動療法は、糖尿病治療の基本の一つです。では、どのタイミングで運動をすれば、より効果的なのでしょうか。

従来の定説だと、糖尿病の人は、食後1時間ほど経ってから運動を開始するのがいいといわれてきました。しかし、近年、この定説が覆されようとしています。なんと、「食事終了後5分以内」に運動することが効果的だと、見直されているのです。

なぜ「食事終了後5分以内」の運動が効果的なのか

なぜ、食後すぐに運動したほうがいいのでしょうか。
近年開発された、新型の血糖測定器があります。これにより、血糖値の変動は、以前よりも正確かつ克明に追跡できるようになりました。
その結果、食事を始めて15分経つと、早くも血糖値が上がり始めることが判明しました。つまり、食後1時間経ってから運動をしても、すでに血糖値がかなり上昇しているため、運動効果が得られないのです。

また、運動を始めるのが食後すぐであればあるほど、血糖値の上昇が抑制されたという海外の研究報告もあります。食後すぐに運動をすると、胃や腸に集まるべき血液が筋肉で使われてしまうので、消化が悪くなるといわれてきました。現在、この点についても考え直されています。

確かに、筋肉に血液が使われると、胃腸の血流が低下して、消化機能が落ちます。しかし、逆にいえば、消化が緩やかになるということです。つまり、糖の吸収速度が遅くなり、血糖値の上昇が抑制される、という考え方に変わったのです。

血糖値降下に高い効果がある運動は?

食後の運動は「かかと落とし」がおすすめ!

では、食後すぐに、どんな運動をすればいいのでしょうか。私がお勧めしているのは、かかと落としやスクワット、階段の上り下りなど、下半身を強化する簡単な運動です。

かかと落としは、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)、スクワットと階段の上り下りは、太ももの筋肉(大腿四頭筋など)といった、大きな筋肉を使います。これらに血液が使われることで、血糖値の降下に役立つのです。また、一つの大きな筋肉に特化した運動を行ったほうが、多数の筋肉を使って行う運動よりも、高い効果が得られると考えられます。

特に実践しやすいのが、「かかと落とし」です。場所を取らないので、いつでもどこでも、気軽に行えます(やり方は下図参照)。食後すぐ、食器をキッチンに運ぶときなどに行うとよいでしょう。

かかとを床に落としたとき、その衝撃が全身に伝わるのがわかるはずです。この衝撃が骨を刺激することで、血糖値を下げる働きを持つ「骨ホルモン」の分泌が促進されます。ふくらはぎの筋肉と骨ホルモンの働きによって、さらに血糖値を下げる効果が期待できるのです。

短めの運動をこまめに繰り返す「こま切れ運動」がいい

ちなみに、糖尿病における最先端の運動療法として、1日のうち、短めの運動をこまめにくり返す「こま切れ運動」が推奨されています。

例えば、朝食後に1回30分の運動を行う場合と、1回100秒の軽い運動を1日18回(合計時間は同じ)くり返した場合では、後者のほうが血糖値を下げることがわかっています。ですから、かかと落としも短時間でかまいませんので、こまめに行ったほうがより効果的です。

実際にクリニックの患者さんにも、食後すぐのかかと落としを勧めています。
今年の7月、糖尿病歴15年になるIさん(69歳・女性)がクリニックを訪れました。初診時のヘモグロビンA1cは7.6%と、少し高めでした。そこでIさんに、運動療法の一つとして、食後すぐにかかと落としを行うことを指導しました。すると、約2ヵ月後にはヘモグロビンA1cが7.0%に降下し、薬の量も減らせたのです。順調に数値が下がっているので、今後も継続すれば、さらに改善すると予想しています。

ぜひ皆さんも、かかと落としを毎日続けて、血糖値のコントロールに役立ててください。

「かかと落とし」のやり方

画像: ①背すじを伸ばし、両足を肩幅に開く。

①背すじを伸ばし、両足を肩幅に開く。

画像: ②ふくらはぎの筋肉を意識しながら、かかとを上げて、3秒静止する。

②ふくらはぎの筋肉を意識しながら、かかとを上げて、3秒静止する。

画像: ③両足のかかとを床にストンと下ろす。 ※これを食事終了後5分以内に、30回を目安に行う。

③両足のかかとを床にストンと下ろす。
※これを食事終了後5分以内に、30回を目安に行う。

画像: ※かかとを上げたときにバランスがくずれてしまう人は、両手を壁につけるなど、体を支えた状態で行うこと。また、イスに座って行ってもよい。

※かかとを上げたときにバランスがくずれてしまう人は、両手を壁につけるなど、体を支えた状態で行うこと。また、イスに座って行ってもよい。

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