大腰筋は60~70代であっても、鍛えれば発達します。高齢でも大腰筋の発達している人は、瞬発力に優れた速筋の働きにより、つまずきそうになっても、ふんばることができ、転倒を防ぐことができるのです。【解説】光本健次(東海大学体育学部元教授・東海大学柔道部師範)

解説者のプロフィール

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光本健次(みつもと・けんじ)
東海大学体育学部元教授。PNFCコンディショナルトレーナー、NPO法人健康コミュニティしずおか理事長として静岡県の健康促進事業に携わる。「運動の不思議」「加齢と運動」「高齢者のための筋力運動」「健康な明日は運動から」「中・高年のための健康づくり」「転倒を防ぐには」など講演多数。

転倒を予防するには「大腰筋」を鍛えておくことが必要

大腰筋が発達している人ほど寝たきり状態になりづらい

私は10年ほど前から、静岡県沼津市で高齢者を対象としたスポーツ教室を開いています。
教室では、普段の生活では行わない動作を意識して取り入れています。これは、高齢者に多い転倒を予防するためです。

つまずくなどして体のバランスをくずしたときにとっさに対応するためには、日頃からいろいろな体の動かし方に慣れておき、さまざまな筋肉を鍛えておくことが必要です。
大腰筋は、そうした中でも、特に重要な筋肉になります。上半身と下半身をつなぐ大きな筋肉である大腰筋は、足を前へ出したり、引き上げたりするさいに使われます。
また、体のバランスを保つのに使われるため、私が長年指導をしている柔道でも重視される筋肉です。

高齢者に関して言うと、大腰筋が発達している人ほど、寝たきり状態になりづらいという調査報告があります。それはなぜかご説明しましょう。

筋肉には 長時間の運動に強い、赤い筋肉の「遅筋」と、瞬発力に優れた、白い筋肉の「速筋」の二つがあります。つまずいたときなどで、ふんばるさいにとっさに反応するのが、速筋です。大腰筋は、速筋の割合が高く、高齢でも大腰筋の発達している人は、速筋の働きにより、つまずきそうになっても、ふんばることができ、転倒を防ぐことができるのです。

逆に大腰筋が衰えれば、歩くときに一歩目が出しづらくなったり、足が上がらず、つまずきやすくなったりするのです。イスから立ち上がるときに「どっこいしょ」なんて言ってしまう人も、もしかしたら大腰筋が衰えているのかもしれません。

60~70代でも運動により大腰筋量が増加した

高齢者でも鍛えることができる!

しかし、衰えたからといって諦めてはいけません。大腰筋は高齢者であっても、鍛えれば発達します

以前私は、自分のスポーツ教室で、運動をする習慣を身に付けたときに大腰筋がどのくらい発達するのかを調べたことがあります。
このときの教室の参加者は、60~70代の男女16人でした(男性6名、女性10名)。教室では、週に1度、運動に関する基本的な理論の解説と、大腰筋を強化する各種の運動を実践。また、教室のない日の運動は、参加者各自の任意で行ってもらいました。

こうした運動の習慣を2ヵ月間続けてもらい、大腰筋の変化をCT撮影で確認したのです。すると、参加者たちの大腰筋が、運動をする前より太くなっていることがわかりました。

画像: 高齢者でも鍛えることができる!

運動の開始前と2ヵ月後で、右の大腰筋は平均16.3%、左の大腰筋は平均21.7%も増加していたのです。以上の結果から、年を重ねても、鍛えれば大腰筋は発達することが明らかになりました。

なお、左の大腰筋のほうが増加率が高かったのは、利き手と関係があると思われます。
大腰筋は、上半身と下半身をひねる動作で使われます。右利きの人は右手側を強く・大きく動かしがちなため、対称である左側の大腰筋がよく使われるのです。

大腰筋の鍛え方としては、後ろ歩きや、左右の足を交差するように動かす横歩き、その場でひざを高く引き上げて足踏みをする、もも上げ体操など、さまざまな方法があります。腕を大きく振って上体をひねりながら歩くウォーキングも、大腰筋を鍛えるのに有効です

老若男女すべての人にお勧めな運動が「腕ブラブラ体操」

大腰筋はダンベルでは鍛えられない

ただ、ひざや腰などに痛みがあって、足を動かすのがつらいという人もいるでしょう。病中・病後のため、屋外で体操やウォーキングをするのが難しいという人もいるはずです。そんな人たちには、「腕ブラブラ体操」はお勧めです。

大腰筋は、体の深部にあるため、ダンベルなどを使用する通常の筋トレでは鍛えられません。体をひねる動きで、鍛えられます。
腕ブラブラ体操は、腕をねじったり、上体をゆっくりとひねったりするので、大腰筋の刺激に有効です。また、畳半畳分あればできるので、いつでも、どこでも簡単にできるというところも利点でしょう。

若者でも大腰筋はすぐ衰える

また、日常の動きには、ひねる動作をする場面が少なく、大腰筋はすぐに衰えてしまいます。衰えるのは、高齢者だけでなく、若者や中高年も同じことですので、大腰筋の強化は、老若男女関係なく必要となります。

仕事、家事、勉強の合間などを利用して、家族全員で大腰筋の強化に努めてください。
日々の生活を健康で楽しく過ごすために、まずは、大腰筋の強化を簡単にできる、腕ブラブラ体操を始めてみてはいかがでしょうか。

画像: この記事は『安心』2018年12月号に掲載されています。

この記事は『安心』2018年12月号に掲載されています。

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