「明眼之法」を健康目的で行う場合は、気が向いたときに遊び感覚でてきとうに行うのがいちばんです。まじめに集中して行うと、目が疲れたり眠くなったりするので、ほどほどにやりましょう。「忍者ってこんな訓練をしているんだ」と、忍者の世界をのぞく気分で、楽しみながら試してみてください。【解説】川上仁一(三重大学伊賀サテライト特任教授・甲賀忍之傳宗師家)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

川上仁一(かわかみ・じんいち)
1949年、福井県生まれ。甲賀忍之傳を継承する甲賀伴党二十一代宗師家。武術家、忍術研究家。6歳頃から先代・石田正蔵より忍術を学び、18歳のとき全伝継承となる。会社勤務時より神道軍傳研修所を主宰し、忍術に関する研究と、忍術・武術・兵法の研修を行う。伊賀流忍者博物館名誉館長を務め、2011年12月より三重大学社会連携研究センター特任教授に就任。おもな著書に『忍者の掟』(角川新書)などがある。
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見える見えないは忍者にとって死活問題

私は縁あって師匠の石田正蔵先生と出会い、6歳頃より忍術修行を始めました。子どもの頃は遊びの延長のような感覚でできる術技や訓練から修行が始まり、成長に合わせて徐々に高度な技や厳しい鍛錬に進んでいきました。

ここで紹介する「明眼之法」は、幼少時からずっと続けている忍者の目の鍛錬法です。

忍術は、密かに敵地へ潜入し、相手の弱点を探る情報収集や、相手の戦力を低下させる調略・撹乱活動の任務を遂行するための術技です。

そして、忍者の掟の一つは、何事にも耐え、危険な任務をまっとうし、敵に捕らえられずに生きて帰ることです。

そのため、忍者には高い身体能力や知力、何事にも動じない心などが必要ですが、五感の鋭敏さ、とりわけ「目がよく見えること」が重要です。なぜなら、忍者にとって見えるか見えないかは、死活問題だからです。

暗闇で敵を発見できるか、どちらが早く見つけられるかで生き死にが左右されますし、視界のきわが見えたか見えないかで、敵をかわせるか自分が倒されるかが決まります。

見えるのが一瞬でも遅れたら、命を落としたり捕まったりします。ですから、目の鍛錬は忍者にとって生涯続けなければいけないトレーニングなのです。

「明眼之法」には多くの方法がありますが、単に視力をアップするためのトレーニングではなく、さまざまな目の使い方を鍛錬し、総合的な「見る力」を高めることを目的にしています。

画像: 忍者の修行は、甲賀伴党二十代宗師家・石田正蔵氏の指導で、福井県若狭の瓜生村にある天神様の裏の小高い山や、家の近所にある墓場など、人目につかないところで行われた。

忍者の修行は、甲賀伴党二十代宗師家・石田正蔵氏の指導で、福井県若狭の瓜生村にある天神様の裏の小高い山や、家の近所にある墓場など、人目につかないところで行われた。

老眼は進まず飛蚊症も治った

私は幼少時から視力がよく、ずっと1.5を保ってきました。メガネはこれまで一度もかけたことがありません。

視力は遺伝的な要因もあるため、生まれつき目がいいのかもしれませんが、幼い頃から毎日、目のトレーニングを続けてきた成果もあると思います。

現在69歳ですが、年齢の割に老眼が進んでいません。同級生の大半は「老眼鏡がないと本は読めない」と言いますが、私は手元を少し離せば、本や新聞の小さな文字も裸眼で読むことができます。

「明眼之法」は老眼予防にも役立っているようです。

また、私は50代の頃、飛蚊症(視界にごみや虫のようなものが飛んでいるように見える症状)が出ましたが、目のトレーニングを続けるうちに自然と治りました。

近視や老眼で、視力をよくしたい人には、下に紹介している「八方目付」がお勧めです。遠くの1点を注視したあと、親指の爪を注視する、というぐあいに、遠くと近くを交互に見る訓練を行うとよいでしょう。

明眼之法其の壱
ピント調整力を鍛える「八方目付」

下記の「八方目付」は、目を八方(全方位)に動かす訓練です。顔は動かさずに目だけを大きく動かして、自分が決めたポイントをしっかり注視することがたいせつです。

眼球を動かす筋肉や、目のピント調節を行う毛様体筋を使うトレーニングなので、見たい対象に的確に焦点を合わせるピント調整力を鍛えることができます。

画像: 明眼之法其の壱 ピント調整力を鍛える「八方目付」

【やり方】
利き腕を前方にしっかり伸ばして、親指を立てて、その爪の1点を見る
爪の向こうを見て、対象物にピントが合ったら、すぐ視線を爪の1点に戻す
顔を動かさないで真上を見る。対象物にピントが合ったら、すぐ視線を爪の1点に戻す
同様に右上を見て、爪に戻る
左上を見て、爪に戻る
右を見て、爪に戻る
左を見て、爪に戻る
右下を見て、爪に戻る
左下を見て、爪に戻る
真下を見て、爪に戻る
視線を右回りに1周して、爪に戻る
視線を左回りに1周して、爪に戻る

【ポイント】
◎顔は動かさないで、目だけ動かす
◎集中してピントを合わせる
◎ピントが合ったらすぐ次に視線を移す
◎公共の場では、指を使わず、目だけ動かして行えば、目立たない

明眼之法其の弐
周辺視野を鍛える「八方目付」

両腕を開いて行う「八方目付」は、視野を広げる訓練です。

目は正面に向けたまま動かさず、1点を見るのではなく、無心でぼんやり全体を見ます。視界のきわを広げていくつもりで、腕の動きを感知します。

全体をとらえつつ、視界の微細な動きを「見る」のではなく、気配として「感じ取る」ための訓練です。

画像1: 明眼之法其の弐 周辺視野を鍛える「八方目付」

【やり方】
視線は正面遠方に向ける
両腕を左右に開いて、視界のきわを探る。視線は動かさない

画像2: 明眼之法其の弐 周辺視野を鍛える「八方目付」

片方の腕を上に、もう片方の腕を下に、ゆっくり回転させるように動かしながら、視界のきわを探る
③を逆回転で行う

【ポイント】
◎手のひらや指をブラブラ動かすと、視界のきわがわかりやすい
◎気配を感じ取る訓練なので、はっきり見えなくてもいい

画像3: 明眼之法其の弐 周辺視野を鍛える「八方目付」

明眼之法其の参
動体視力を鍛える「吊銭目付」

吊銭目付」は、硬貨の動きを目で追い、動体視力を鍛える訓練。

画像1: 明眼之法其の参 動体視力を鍛える「吊銭目付」

【やり方】
5円玉か50円玉の穴に糸を通し、てきとうな場所に吊るす
左右に振り、それを目だけ動かして追う
5前後に動かして、それを目だけ動かして追う

【ポイント】
◎硬貨の穴、書かれている文字や模様など、細部を見極めるつもりで行う

画像2: 明眼之法其の参 動体視力を鍛える「吊銭目付」

明眼之法其の肆
夜目を鍛える「暗目付」

暗目付」は、明暗に対する順応力を高め、夜目を鍛えます。

画像: 明眼之法其の肆 夜目を鍛える「暗目付」

【やり方】
蔵のように真っ暗になる空間と、日中屋外のような明るい空間のある場所を探す
真っ暗になる空間に入り、目が慣れるのを待つ
明るい空間に出て、目が慣れるのを待つ
②と③を交互に繰り返す

【ポイント】
◎無理はしない
◎忍者の修行では、最終的に太陽を見ることもあるが、絶対にまねはしないこと

これらの訓練は、人間にもともと備わっている能力を呼び覚ますものではないか、と私は考えています。

夜は暗闇だった原始時代と現代では環境が違います。より原始に近い状態に身を置くことで、気配を感じ取る力や暗闇でものを見る力など、文明社会では使われず眠っている人間の本質的な能力が改めて浮き上がってくる。

そんなかたちで、総合的な「見る力」が高まるのだと思います。

明眼之法其の伍
精神統一の鍛錬になる「灯火目付」

灯火目付」は、精神統一の鍛錬法です。

三重大学での研究で、灯火目付の際に行う呼吸法の最中に脳波を調べたところ、リラックス時に出るθ波と、集中を示すα波が同時に出ていることがわかりました。

画像: 明眼之法其の伍 精神統一の鍛錬になる「灯火目付」

【用意するもの】
◎和ロウソク(パラフィンを原料にしたロウソクより光がやわらかい)

【やり方】
暗い部屋で和ロウソクを灯す
3尺(約90cm)か6尺(約1m80cm)離れて、伏し目がちに見える位置に置く
和ロウソクの炎を見つめる。炎の中に自分が入っているというイメージが得られたら成功

【ポイント】
◎最初は短い時間から始めて、30分間ぐらいを目安に、徐々に長くしていく

健康のためにはてきとうにやるのがコツ

ここで紹介した「明眼之法」を健康目的で行う場合は、気が向いたときに遊び感覚でてきとうに行うのがいちばんです。

まじめに集中して行うと、目が疲れたり眠くなったりするので、ほどほどにやりましょう。

というのも、忍者の訓練はサバイバルのための訓練なので、必ずしも健康にいいとは限りません。訓練として、長時間、真剣に行うと、目に負担をかけることになるのです。

ただし、ちょっとだけ行うぶんには、普段とは違う目の使い方をするので、一般の人には目にとっていい刺激となります。「忍者ってこんな訓練をしているんだ」と、忍者の世界をのぞく気分で、楽しみながら試してみてください。

画像: この記事は『ゆほびか』2019年1月号に掲載されています。

この記事は『ゆほびか』2019年1月号に掲載されています。

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