耳の穴の中の皮膚表面には、毛細血管が網目のように走っています。指を入れて、穴を押し広げると、その毛細血管に直接的な刺激を与えられます。その結果、耳全体をもむよりも、より効率的に血流とリンパ液の循環を促すことができ、体の不調を改善することができます。【解説】松岡佳余子(アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師)
解説者のプロフィール
松岡佳余子(まつおか・かよこ)
アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師。1948年、和歌山県生まれ。電気鍼による治療「良導絡」の開発者・中谷義雄医師の内弟子として、鍼灸修行をスタート。中国各地(上海、北京、瀋陽、鞍山)の中医薬大学、中医学院にて研修を行う。鍼灸をさらに発展させた手指鍼で、高い効果を上げる。現在は、最新療法の研究と後進の指導に当たっている。
顔のむくみ解消や視力アップに即効!
「顔がむくんでいる」とか、「ほおのたるみやほうれい線が気になる」といったかたに、私が積極的にお勧めしているのが、「耳の穴もみ」です。
耳の穴もみとは、耳の穴に指を入れて押し広げる健康法です。耳の穴もみを行うと、顔のむくみを取って小顔になる、ほおのたるみを引き上げる、ほうれい線を薄くするといった美顔効果が発揮されます。
しかも、耳の穴もみは即効性があるので、多くの場合、目に見える効果がその場で現れるのです。
また、耳の穴もみには、視力アップ、疲れ目解消、耳鳴りやめまいといったさまざまな症状を改善する効果も期待できます。そればかりではありません。高血圧が解消した、老眼やひざ痛が改善したなどの体験例まであるのです。
なぜ、耳の穴もみによって、このような効果がもたらされるのでしょうか。
耳の近くには、脳へつながる動脈が通っています。動脈は細い血管に枝分かれし、ほおや口、鼻、目に通じています。また、耳の周囲には、多くのリンパ節があり、いずれも体の表面近くに分布しています。
耳を刺激すると、これらの血流やリンパ液の循環が改善され、顔のむくみやリフトアップ、目や耳などの機能改善に役立つのです。
【耳の周りの血管とリンパ】
このような効果を狙う場合、通常は、耳たぶや耳介(耳の穴の周囲の出っ張った部分)をもみほぐす方法が用いられてきました。
しかし、今回ご紹介する耳の穴もみのほうが、はるかに効率がよいことがわかってきました。
耳の穴の中の皮膚表面には、毛細血管が網目のように走っています。指を入れて、穴を押し広げると、その毛細血管に直接的な刺激を与えられます。
その結果、ただ、耳全体をもむよりも、より効率的に耳周辺の血流とリンパ液の循環を促すことができるわけです。
ちなみに、体にどこか不調やトラブルを抱えている人は、耳の穴が小さい傾向にあります。これは、生まれつきのものではありません。
血液やリンパ液の流れが滞り、耳の穴の内側がむくんでいることの現れなのです。
耳の穴の一部が、押すと痛かったり、かたくなっている人も多いでしょう。そんなときこそ、耳の穴を刺激する絶好の機会なのです。
「耳の穴もみ」のやり方
【準備】
⃝爪を短く切っておく。クリームやオイルを塗ると滑りがよくなる。
⃝遠くのカレンダーの見え方、体のやわらかさなどを確認する。
❶耳の穴の前にあるかたい出っ張り(点線で囲んだ部分)の内側に、手の親指の腹を当て、奥まで入れる。これ以上入らないというところまで入れる。
❷耳の穴の周囲を押し広げながら、親指を360度移動させ、痛いところが見つかったら親指を止め、10秒程度押し続ける。
❸親指を耳の穴から出し、手の小指を入れる。これ以上入らないというところまで入れたら、周囲を押し広げながら、小指を360度移動させる。痛いところが見つかったら小指を止め、10秒程度押し続ける。
❹小指を耳の穴から出し、耳の根もとを親指と人差し指で強く握る。側頭部に耳を押しつけるように、ゆっくり、しっかり、後ろに10回回す。
【ポイント】
※片方ずつでも両耳いっぺんでも、どちらでもよい。
※(1)~(4)を1日1回行う。耳の穴の皮膚は薄いので、多くても1日2回までにする。
※遠くのカレンダーの見え方、体のやわらかさなどの変化を確認する。
実年齢よりも10歳若く見られる!
昔から、東洋医学では、全身の縮図が耳に投影されているという考えがありました。
耳と全身には対応関係があるため、体のどこかに不調があると、それが耳の対応部分に、痛みやかたさとして現れるのです。
逆に、耳の反応の現れた部分を刺激することで、体の不調を改善することができます。
フランス人の医師、ポール・ノジェがこうした考えに基づき、治療法を体系化したものが、「耳介療法」です。耳の穴もみは、この耳介療法の効果も併せ持っています。
中国の古い文献と、私が患者さんに施した施術のデータを総合して作成した図がありますので、ぜひ参考にしてください。
基本的には、触ってみて痛いところ、かたいところを押し広げます。やり方は、前項をご覧ください。
【耳の穴の治療地図】(写真は左耳)
耳の穴もみは、体の遠い部位に起こっている症状についても効果をもたらすことができます。例えば、「肩こり・首こりが楽になった」「ひざ痛が解消した」「腰痛が楽になった」「ネコ背がよくなった」等々の効果が期待できます。
特に印象に残っている、ある体験例をご紹介しましょう。
80歳の女性Sさんは、難聴と耳鳴りに悩んでおられたので、私が耳の穴もみをお勧めしました。早速実践してくださったところ、耳の聞こえがよくなりました。
以前は、ご主人の口もとまで耳を寄せないと聞き取れないほどだったのが、体を近づけるくらいで聞き取れる、と効果を実感されていました。
さらに、ジージーという耳鳴りが一日中続いておられたのですが、耳の穴もみをするようになってから10日ほどで薄れてきたそうです。「音が小さくなり助かります」と喜ばれています。
40代の女性Aさんは、耳の穴もみを始めたところ、血圧が下がって、降圧剤を飲まなくてもよい数値になりました。
それまで彼女は、突然起こる過剰な食欲にも悩まされてきたそうですが、耳の穴もみによって、食欲のコントロールができるようになり、食べ過ぎを防ぐことができるようになったと喜んでいます。
耳の穴もみは、即効性の高さも見逃せません。首や肩の柔軟性を高める効果を試したところ、その場で実感するかたが多いのです。
それほど重症でない肩こりであれば、1分間ほどの耳の穴もみで、軽くなるのを実感できるでしょう。
また、交通事故で鎖骨を骨折した女性のケースでは、後遺症で腕の可動域が狭まり、自由に動かないと悩んでおられました。耳の穴もみをしてもらったところ、格段に腕が回しやすくなったと報告してくれました。
もちろん、お勧めしている私自身、毎朝の起床後に耳の穴もみを行っています。すると、たちまち頭がスッキリして、目がパッチリと開き、とても起き抜けの顔には見えません。いわゆる「目力」もアップするのです。
私は現在、70歳ですが、耳の穴もみのおかげで、実年齢よりも10歳くらい若く見られるようになりました。
最後に、耳の穴もみを行う際の注意点をお伝えします。まず、耳を傷つけないように、耳の穴もみを行う前に、必ず爪は短く切ってください。
耳の穴の皮膚は薄く傷つきやすいので、過度な刺激、長時間の刺激は避けるようにしましょう。指先にハンドクリームやオイルなどを塗っておくと、滑りがよくなるのでお勧めです。
手軽にできて効果抜群の耳の穴もみを、皆さんもぜひお試しください。