今増えている脂肪肝。アルコール性の場合は飲酒の抑制、非アルコール性の場合はなんといっても食生活を改善し、可能なら運動も実践することが大切です。それに加えて、緑茶やコーヒーを飲むことで、さらに肝臓を若返らせ、本来の機能を取り戻すことができるでしょう。【解説】野村喜重郎(野村消化器内科院長)
解説者のプロフィール
野村喜重郎(のむら・きじゅうろう)
野村消化器内科院長。1965年、信州大学医学部卒業後、東京大学医学部第2内科へ入局。茅ヶ崎市立病院消化器科部長、東海大学医学部講師を経て、2000年、野村消化器内科を開業。日本消化器病学会専門医。湘南予防医学研究所所長。肝臓疾患、胃腸疾患を専門とし、生活習慣病予防に力を注いでいる。
コーヒーをよく飲む人は肝臓ガンの発生率が低い
今から16年ほど前、クリニックを開業して2~3年が経ったころでしょうか。それまで65kgだった体重が、一気に10kg増え75kgまで太ってしまいました。
原因は、多忙による不摂生です。平日は朝から晩まで診療と検査、手術で手いっぱい。休診日には会食の予定が詰まっており、いつしかおなかがポッコリと突き出てしまいました。文字どおり「医者の不養生」です。
肝細胞の障害度を表すAST(GOT)とALT(GPT)は、いずれも40~50 IU/Lと高く、ときには100近くまで跳ね上がることもありました。間違いなく、脂肪肝です。
このままではまずい、と危機感を覚えましたが、日常のなかで運動する時間は取れません。そこで、食事を見直すことにして、低糖質・低脂質・高たんぱくを中心にとるようにしました。
甘くて油脂の多い食べ物は、おいしく感じられます。そのため私たちは、糖質(ご飯やパン、甘い菓子などの炭水化物)や脂質(揚げ物や脂の多い肉、魚卵など)を、ついとり過ぎてしまいがちです。
そこで、糖質と脂質を少量にして、赤身の肉や魚、卵、豆などでたんぱく質をしっかりとるようにしました。さらに、野菜でビタミン、ミネラル、食物繊維を補給しました。
加えて私が実践したのが、午前中に温かい緑茶を、午後にはドリップしたホットコーヒーを飲むことです。
緑茶には、渋み成分であるカテキンや、ビタミンC・Aなどが豊富に含まれています。
一方で、コーヒーに含まれる有効成分は、カフェ酸です。カフェ酸は、コーヒー豆の中のクロロゲン酸が、焙煎や抽出の過程で、加水分解されて発生したもの。コーヒーの香りの主成分です。
緑茶のカテキンもコーヒーのカフェ酸も、ポリフェノールの一種ですから、強い抗酸化作用を持ちます。
緑茶のビタミンCも同じく、全身の酸化を防ぎ、老化予防に有効です。肝臓の若返りにももちろん役立ちます。
コーヒーを午後に飲むことにしたのは、カフェインの覚せい作用への期待からです。
カフェインは緑茶や紅茶にも含まれていますが、最も多いのは、やはりコーヒーです。診察の合間にコーヒーを口にすることで、目が冴えて、気分もシャキッとします。
また、ポリフェノールにも、カフェインにも、血流をよくする作用があります。動脈硬化や高血圧を撃退し、ひいてはガン予防にも役立つのです。
実際、国立がん研究センターによる『コーヒー摂取と肝がんの発生率との関係について』という研究があり、コーヒーをよく飲む人は肝臓ガンの発生率が低いというデータもあります。
私はコーヒーも緑茶も、毎日カップ3~4杯は飲んでいるので、1日の摂取量は、それぞれ600~800ml程度になるでしょうか。
ポッコリおなかがへこみ10kgやせてスッキリ!
こうした生活を続けていたところ、少しずつ体重が減り始めました。ポッコリと出ていたおなかがスッキリへこみ、10kgやせて、いつしか元の体重に戻ったのです。
やせるにつれて、肝機能値も大改善しました。ASTとALTは、いずれも20 IU/L台まで下がり、現在も変わらず維持しています(上の写真)。
脂肪肝もすっかり解消。おかげで、「医者の不養生」も返上できました。
もともと、茶は中国で、コーヒーはアラブ諸国で、それぞれ薬として珍重されていたといいます。先に述べたような、強い抗酸化作用をはじめとした機能性が、昔から経験的に認められてきたのでしょう。
肝臓は、ご存じのとおり、人体にとって非常に重要な臓器です。栄養の貯蔵や代謝、解毒といった機能を担う、まさに「肝心要(かんじんかなめ)」の器官といえます。
肝臓病といえば、B型やC型などのウイルス性肝炎が有名ですが、これらは医学の進歩により有効な治療薬が開発され、減少傾向にあります。
今増えているのは、やはり脂肪肝です。アルコール性の場合は飲酒の抑制、非アルコール性の場合はなんといっても食生活を改善し、可能なら運動も実践することが大切です。
それに加えて、緑茶やコーヒーを飲むことで、さらに肝臓を若返らせ、本来の機能を取り戻すことができるでしょう。
なお、コーヒーのカフェ酸には、胃などの粘膜のバリア機能を強化する作用がありますが、まれに、コーヒーを飲むと胃を痛める人もいます。無理のない範囲で、気軽に実践してみてください。