男性ホルモンのテストステロンの分泌量が減ると、前立腺の肥大が起こりやすくなります。テストステロンの分泌量は筋肉量と相関しますから、筋肉をつけることが前立腺肥大症の予防につながります。お勧めはスクワットです。【解説】堀江重郎(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学主任教授)
解説者のプロフィール
堀江重郎(ほりえ・しげお)
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学主任教授。泌尿器科医、医学博士。日米の医師免許を取得し、米国で腎臓学の研鑽を積む。腎臓病・ロボット手術の名医として知られる。
男性ホルモンの分泌量の低下に要注意
男性の尿トラブルには「前立腺肥大症」がかかわっていることが多いものです。
前立腺は膀胱のすぐ下で、ちょうど尿道を包み込むように存在する臓器で、精液の一成分(前立腺液)を作っています。通常はクルミほどの大きさですが、それが大きくなってしまうのが前立腺肥大症です。ミカンほどの大きさに肥大することもあります。
前立腺がなぜ大きくなるのかは、実はよくわかっていません。ただ、男性ホルモンのテストステロンの分泌量が減ると、前立腺の肥大が起こりやすくなります。
血流の低下も一因で、心臓や血管の病気がある人には前立腺肥大症が増える傾向があります。
個人差はあるものの、加齢に伴ってテストステロンの分泌量は減り、血流も滞りがちですから、高齢男性には前立腺肥大症が起こりやすいのです。
前立腺が肥大すると、その圧迫によって膀胱や尿道括約筋が刺激され、日中や夜間の頻尿が起こります。
さらに肥大が進むと、尿道が圧迫され、尿が出にくくなります。トイレに行っても尿がスッキリと出きらず、残尿感が生じることが多くなります。
ばい菌を含んだ尿が滞った状態を放置していると、尿路感染症を引き起こし、排尿時痛や血尿が出ることもあります。
残尿の量が多くなると、膀胱の筋肉が伸びきってしまい、排尿機能が衰えます。すると、膀胱にたまりきった尿が尿道のすき間からもれ出す「溢流性尿失禁」が起こります。
そして最終的には、まったく尿が出なくなる「尿閉」という恐ろしい状態になるのです。ここにいたると、尿道から膀胱にカテーテルを入れ、強制的に尿を出すしかなくなります。
レーザー手術は安全で負担も少ない
前立腺肥大症の治療は、症状が軽ければ、一般にまず薬物療法が行われます。尿道の筋肉をゆるめて尿を出やすくする薬や、前立腺の容積を小さくする薬などが用いられます。
薬で十分な効果が期待できない場合、慢性的に残尿が多い場合は手術を行います。現在は内視鏡を尿道から通し、レーザーで前立腺をくりぬく「ホーレップ手術」が主流です。患者さんの体の負担も少なく、安全に行える手術です。
前立腺肥大症は進行すればするほどつらくなりますが、早めに手術を行えば症状が劇的に改善し、再発もほとんど起こりません。
中高年の男性の頻尿や残尿感は前立腺肥大症が原因であることが多いですから、悩んでいるかたは一度、泌尿器科を受診してください。
運動が前立腺肥大症の予防&改善にお勧め
前立腺肥大症の予防や症状の改善には、「運動」の習慣がとても重要です。
実際に、前立腺肥大症の治療薬を服用している患者さんに夕方30分以上のウォーキングを8週間行ってもらうと、夜間排尿の回数が平均3.3回から1.9回に減少したとの研究報告があります。
1日15~30分くらいを目安にウォーキングを習慣にされるといいでしょう。
また、前立腺肥大症にはテストステロンの減少がかかわっています。テストステロンの分泌量は筋肉量と相関しますから、筋肉をつけることが前立腺肥大症の予防につながります。
お勧めは「スクワット」です。太ももの大きな筋肉を鍛えることで、効率的にテストステロンの分泌アップが期待できます。
足腰を強化して、ウォーキングなどを継続する体のベースづくりにもなります。毎日、朝晩10回ずつから始めましょう。
日常生活では、下半身の血行悪化を防ぐことが重要です。下半身の血行が悪いと、前立腺が充血し、肥大傾向が強まるためです。
下半身を冷やさないことと、長時間の座りっぱなしを避けることを心がけましょう。
また、便秘があると、腸にたまった便が尿道を圧迫して症状を強めたり、いきむときに前立腺が圧迫されて血行が悪くなったりします。お通じをよくすることも大切です。
テストステロンの分泌を促す「スクワット」のやり方
❶足を肩幅に開いて立つ。腕は胸の前で組む。
❷ひざ頭がつま先よりも前に出ないように注意しながら、お尻をゆっくりと下ろす。この際、背中を丸めず、かかとも浮かないようにする。
※毎日朝と晩に10回ずつからはじめましょう。