コンブ風呂では湯の皮膚への刺激がやわらかくなり、ミネラルが流出する量も軽減され、必要なミネラル分も吸収できます。粘り成分は、皮膚表面をなめらかにしたり、老廃物などをからめとったりするほか、皮膚の炎症を抑えたりもします。【解説】安井肇(北海道大学大学院水産科学研究院教授)
解説者のプロフィール
安井肇(やすい・はじめ)
北海道大学大学院水産科学研究院・水産学部 海洋生物資源科学部門教授。1955年、京都市生まれ。コンブ研究の第一人者で海藻学のエキスパート。2003年から産官学連携の協同研究も開始し、コンブの生物学的特徴、ネバネバ成分と地域資源としての可能性を追究している。
コンブは優れた美容素材
私は長い間、大学で海藻類の生物学的研究を続けてきました。中でもコンブの有用性については、多様で目を見張るものがあると感じます。
一般的にはコンブというと、単にだしを取る食材と捉えているかたが多いかもしれません。しかし、コンブには“優れた美容素材”という一面もあるのです。
例えば、湯ぶねにだしコンブを入れた「コンブ風呂」は、家庭でも簡単にでき、しかも効果を実感しやすい美容法の一つといえます。
コンブ風呂の美容効果は、湯に溶け出てくる、2グループのコンブの成分にあります。
1つ目は、カリウム、ナトリウム、ヨード、カルシウム、マグネシウム、鉄分といったミネラル成分。
2つ目は、アルギン酸、フコイダン、ラミナランといった水溶性粘性多糖類という粘り成分。
これらの成分がうまく作用すると、保水力が高まり、肌荒れやかゆみ、乾燥などが出にくい健康的な肌になります。
傷の治りが早くなるという実験結果も
まず、コンブのミネラル効果についてご紹介しましょう。
私たちがさら湯のお風呂に入ると、浸透圧によって、湯は皮膚に入ります。と同時に、皮膚からは体液の主成分であるミネラル分が溶け出します。さらに皮脂も失われますから、入浴後の皮膚からは水分がどんどん抜けていき、肌は乾燥し、かさつきます。
しかしコンブ風呂では、皮膚と湯の濃度差がゆるやかに調整され、湯の皮膚への刺激がやわらかくなり、皮膚からミネラルが流出する量も軽減されます。
そのうえ、人にとって必要なミネラル分も吸収できます。その結果、皮膚のミネラルバランスが保たれ、肌へのストレスが減り、肌のしっとり感が得られるのです。
次に、粘り成分についてです。湯をねっとりした状態にする水溶性粘性多糖類には、皮膚表面をなめらかにしたり、老廃物などをからめとったりするほか、皮膚の炎症を抑えたりもします。
粘り成分の一つであるアルギン酸は、すでに創傷被覆材(傷の潤いを保てる絆創膏のようなもの)などにも広く活用されていますが、フコイダンにも同様かそれ以上の効果があるとわかってきました。実際、動物を用いた実験で、傷が治るのが早まったという報告もあります。
だしをとった後のコンブでもOK
コンブ風呂の入り方ですが、約10cm×30cm(約10g~15gが目安)の乾燥コンブを1枚用意します。切り口から有効成分が溶出するので、何カ所か切れ目を入れます。
配水管に詰まるのが心配というかたは、適当な大きさに切ってからお茶パックなどに入れて使います。
コンブの成分をしっかりお風呂に溶け出させるためには、お風呂に入る30分以上前には、コンブを湯ぶねに入れておきましょう。
だしをとった後のコンブを、お風呂に入れてもかまいません。ただしその場合は、前述よりも多めの量を使用します。
入浴するだけでもコンブ風呂の美容効果を得ることは可能ですが、シャンプーやボディソープで洗った後の髪や体にお風呂の湯をかけると、髪や皮膚がしっとりしてきます。ふだんよりも美しく健康的な状態に整うでしょう。
また、コンブ風呂は肌に優しいので、アトピー性皮膚炎などのアレルギー症状があるかたにもお勧めかもしれません。
皮膚や髪への効果だけでなく、リラックス効果や、血行の促進、入浴による保温効果を持続するなど、コンブ風呂のメリットはほんとうに多様です。
かつて大学で海藻の研究に励んでいた学生の一人も、現在はアナウンサーとして忙しい日々を送っていますが、コンブ風呂で疲労を回復するとともに、癒やしと美容効果を得ていると聞いています。
寒さや乾燥の気になる季節には特に、海からの恵み、美と健康のコンブ風呂を試してみてはいかがでしょうか。