近年増加している鼻のトラブルは、花粉症などアレルギー性鼻炎だけではありません。細菌感染による副鼻腔炎や、原因不明の好酸球性副鼻腔炎が増えています。そこで、正しいセルフケアの方法と、鼻づまりや鼻水を一気に軽減する「筋膜ヨガ」をご紹介します。【解説】石井正則(JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長)
解説者のプロフィール
石井正則(いしい・まさのり)
JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長。1980年、東京慈恵会医科大学卒業。84年、同大学院修了とともに、米国ヒューストン・ベイラー医科大学・耳鼻咽喉科へ留学。87年に帰国後、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科医長に就任。2000年より、同大学准教授。日本耳鼻咽喉科学会評議員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙医学審査会委員。06年からヨガを始め、スタジオ・ヨギー公認インストラクターとしても活動中。著書に『耳鳴りがスッキリする呼吸がわかった』(マキノ出版)、『やってはいけないヨガ 正しいやり方 逆効果なやり方』(青春出版社)などがある。
10人中4人がアレルギー性鼻炎
鼻水が止まらず頭がボーッとする、鼻が詰まって息苦しい、鼻から変なにおいがして気になる……。こうした鼻の症状で困っている人は、少なくないでしょう。
アレルギー性鼻炎は、日本人の10人に4人がかかっていて、患者の数が第1位の病気だと『鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版』にあります。
とりわけ花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)が増えていて、男性よりも女性に多く見られます。
アレルギー性鼻炎は、スギやヒノキなどの花粉、ハウスダストや大気汚染物質などの「アレルゲン」によって引き起こされます。
アレルゲンが体内に入ると、免疫システムが異常に反応して、鼻の粘膜に炎症が起こり、鼻水や鼻づまりなど、カゼに似たさまざまな症状が出ます。
耳鼻咽喉科で行うのは、抗ヒスタミン剤など薬物を用いた対症療法と、舌下減感作療法などの根治治療です。
なお、花粉症は、症状がひどくなると薬の効果が悪くなる傾向があるため、飛散開始前の初期から対処することが重要です。
《 花粉症の根治療法「舌下減感作療法」》
アレルギーの原因物質(アレルゲン)の成分を少量ずつ患者さんに投与してアレルゲンに対する慣れを生み出し、アレルギーが起こらない体質に作り替えるものです。
アレルゲンのエキスを舌下の粘膜から浸透させる方法なので、注射や通院という負担がありません。治療は自宅で行え、通院は1カ月に1回で済みます。最初は毎日の投与で、少しずつ間隔を広げて数週間に1回の投与となり、2~3年以上かけて完治を目指します。
近年増加している鼻のトラブルは、花粉症などアレルギー性鼻炎だけではありません。細菌感染による炎症から起こる副鼻腔炎や、原因不明の好酸球性副鼻腔炎が増えています。
私が手術を行った好酸球性副鼻腔炎の例は、2000年ではほぼゼロでしたが、2018年では手術数全体の7~8割を占めています。
においを感じなくなったら好酸球性副鼻腔炎を疑う
鼻は、いわゆる「鼻」と言ったときに指す外鼻と、鼻の穴の中である鼻腔、鼻腔を囲むようにしてある4種類の副鼻腔という空洞から成ります。
正しいケアでスッキリ通る!《 鼻腔と副鼻腔の構造 》
副鼻腔炎になると、副鼻腔に膿がたまり、鼻づまりなどの不快な症状が表れます。
副鼻腔は額や眉間、ほおの内側にあるため、重症になれば、目が腫れたり、ほおが痛くなったり、歯の具合が悪いと感じたり、頭痛がしたりします。慢性化したものが、いわゆる蓄膿症です。
細菌が原因の副鼻腔炎については、抗生物質が発達したおかげで、症状は比較的スムーズに改善します。しかし、好酸球性副鼻腔炎は治療が厄介です。
この病気の特徴は、次の5つです。
(1)鼻腔に鼻茸(ポリープ)がたくさんできる
(2)鼻茸を調べると、白血球の一種である「好酸球」がたくさん認められる
(3)手術で鼻茸を取り除いても、術後のケアをしないと再発する可能性が非常に高い
(4)喘息との関連性が高く、喘息にかかったことがある人が発症したり、好酸球性副鼻腔炎にかかった後で喘息になったりしている
(5)耳鼻咽喉科だけでなく、呼吸器内科と連携して長期的にケアする必要がある
好酸球性副鼻腔炎になると、においがほとんど感じられなくなります。
「コーヒーの香りがわからない」「花や食べ物のにおいがしなくなった」「鼻から変なにおいがしていると家族から指摘された」などに思い当ったら、すぐに耳鼻咽喉科を受診してください。すべての副鼻腔炎に当てはまることですが、ほったらかしにしておけば悪化します。
最近では、ドラッグストアに多種類の鼻炎薬が置かれています。耳鼻咽喉科を受診せずに市販薬で治そうとする人もいるようですが、細菌感染による副鼻腔炎については、効果はありません。細菌を壊したり、増えるのを抑えたりする抗生剤は、医師の処方が必要だからです。
急性の副鼻腔炎ならば抗生剤の短期服用で治せますが、慢性化すると数カ月にわたって飲まなければならなくなります。
また、処方された抗生剤をすべて飲み切ることもたいせつです。治ってきたからといって抗生剤をやめると、細菌を殺し切れず、副鼻腔炎が再発する可能性があるからです。自己判断は禁物です。
市販薬のもう一つの問題として、点鼻薬の使い過ぎが挙げられます。鼻腔の血管を収縮させて鼻づまりや鼻水を解消させる血管収縮薬は、即効性が優れているだけでなく、「鼻が通る」という快感も得られます。しかし持続性がないため、頻繁に使う人がいます。
点鼻薬を使い過ぎると、その刺激で鼻の粘膜が腫れて厚くなる「点鼻薬性鼻炎による肥厚性鼻炎」を引き起こし、粘膜を切除する手術が必要になる可能性もあります。
点鼻薬を使うときは必ず使用方法を確認し、使い過ぎないように注意しましょう。
鼻水を気にし過ぎるのは間違い
介者扱いをされがちな鼻水ですが、鼻を掃除したり、加湿したりするために必要不可欠な存在です。
健康な状態でも、毎日1~1.5リットルの鼻水が作られていて、その半分は鼻の後ろからのどに流れ込み、のどの周辺の湿度を保っています。この状態を、後鼻漏と言います。
鼻水がサラサラしていて、透明や白っぽい色ならば、まったく問題はありません。
しかし、なぜか後鼻漏を気にし過ぎて、口から何度も吐き出す人がいます。高齢になると鼻腔やのどの粘膜の表面が乾いて、粘っこく感じられるからかもしれません。
ただ、口から吐き出せばさらに粘り気が増し、のどの乾燥もひどくなります。ですから、のどに落ちた鼻水を吐き出さずに、お茶などと一緒に飲み込むようにしましょう。
鼻については間違ったケアを行って、症状を悪化させているケースも見受けられます。
例えば鼻うがい(鼻洗浄)は、炎症の原因物質を洗い流すために効果的です。しかし、洗面器に張った水に顔を入れて行う方法はお勧めしません。洗面器についている雑菌が、鼻に入る可能性が高いからです。
鼻うがいをする際には、必ず清潔な器具で、専用の洗浄液か生理食塩水(濃度が0.9%の食塩水)を用いて行います。いずれも薬局で購入することができます。
また、鼻の下にメントール入りのリップクリームを塗る方法も知られていますが、これも逆効果です。メントールが鼻の粘膜を強く刺激するので、炎症を悪化させる可能性があります。
ただ、鼻の穴にワセリンを塗る方法が広まっていることには、私も責任を感じています。実は3年ほど前にテレビ番組に出演したときに、私がこの方法を紹介したのです。
鼻の穴が乾燥して不快ならば、ワセリンで保湿されて改善されます。しかし「ワセリンに花粉などがくっついて、鼻の奥に入らないから、花粉症が軽くなる」というのは真っ赤なウソです。ワセリンを塗っても思いっきり息を吸えば容易に鼻腔内に入ります。
×間違った鼻のセルフケア ×
・点鼻薬の使い過ぎ→鼻の粘膜が腫れて厚くなる肥厚性鼻炎を引き起こし、かえって鼻づまりなどの症状が悪化する
・洗面器で鼻うがいをする→洗面器についた雑菌が鼻に入る可能性が高い。必ず、専用の器具を使う
・鼻の下にメントール入りのリップクリームを塗る→鼻の粘膜を強く刺激し、炎症が悪化する
・鼻の穴にワセリンを塗る→花粉が吸着されて、鼻の奥に入らないというのはウソ。鼻の穴の乾燥は軽減される
ストレスもアレルギーを悪化させる原因になる
患者数の増加と関係しているのか、市販の鼻炎薬の種類が増え、自己流のケアも世の中には広まっているようです。
しかし、副鼻腔炎は市販薬では治せないし、好酸球性副鼻腔炎にいたっては、対処が遅れれば喘息の発作を引き起こす可能性が高くなります。
鼻水が黄緑色で粘っこくなっていたり、片側だけの鼻詰まりが長く続いていたりする場合は、速やかに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
また、心の状態は体の状態と結びついていて、ストレスで鼻詰まりが起こったり、アレルギーが悪化したりすることがわかっています。
リラックスする時間を作るために、ふだんの生活にヨガや呼吸法などを取り入れることもお勧めします。
ここでは私が考案した「筋膜ヨガ」をご紹介します。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などによる、鼻づまりや鼻水などでお困りのかたは、ぜひお試しください。
日常の何気ない癖で筋膜はねじれてしまう
鼻づまりや鼻水を一気に軽減する「筋膜ヨガ」の一つを紹介しましょう。この方法は、テレビで放映され大反響を呼びました。
筋膜とは、筋肉を包んでいる膜で、筋肉を構成する筋線維の表面をおおっています。メンタイコでたとえれば、表面を覆う薄い膜が筋膜、中の赤い粒々が筋肉ということになります。
ネコ背になる、寝たっきりになるなど、何気ない動作が続くと筋膜は硬くなってしまいます。
筋膜は全身にくまなく張り巡らされているため、1カ所でも硬くなると悪影響は関節を飛び越えて他の部分の筋肉にも及びます。
そして、肩がこったり、ネコ背がひどくなったり、体が動く範囲が狭くなり、痛みも生じることがあります。
実は上半身の筋膜の裏には、鼻の状態に関係する自律神経に影響を及ぼします。
意志とは無関係に体をコントロールする自律神経には、交感神経と副交感神経がありますが、上半身の筋膜を伸ばして緊張させれば交感神経が優位になります。
副交感神経が優位のときには、鼻の中の血管でうっ血が起こり、粘膜が腫れて鼻詰まりが起こりやすくなります。鼻水も、副交感神経が優位になると大量に出やすくなります。
筋膜ヨガでは、小指から腕、肩を通って首にまでつながる上半身の筋膜を伸ばすことで、交感神経を刺激し、鼻水と鼻詰まりを解消させます。
やった直後に鼻の通りがよくなるので、「マジックですか」と驚かれることもありました。短時間で症状が解消するでしょう。
TVで大反響!鼻水・鼻づまりが解消する「筋膜ヨガ」のやり方
❶イスに浅く腰かける
❷両手を後ろに回して、小指・薬指くらいをからめる
❸組んだ手のひらをひっくり返して、手のひらを外側に向け、親指が上、小指が下側にくるようにする
❹親指を立てて、手のひらを外側に突き出しながら、両わきをギュッと締める
❺両わきを締めた状態で両腕をゆっくりと持ち上げ、あごを上げて首を反らして20秒キープする
※肩甲骨の間で後頭部を挟むようなイメージで行う
※痛みを感じたときは無理をせず、気持ちよくできる範囲で行う
※肩や首のこりの解消にも効果がある
※効果は、やった時間の5倍くらい持続する