【慢性心不全予備軍】高血圧や糖尿病の場合のお風呂の入り方

美容・ヘルスケア

入浴中の突然死の最大の原因は、「ヒートショック」です。ヒートショックとは、急激な温度の変化によって起こる健康被害のこと。急激な温度差があると血圧が大きく変動し、それが死に直結する病気を引き起こします。【解説】村松俊裕(埼玉医科大学国際医療センター心臓内科診療部長)

解説者のプロフィール

村松俊裕(むらまつ・としひろ)
埼玉医科大学国際医療センター心臓内科診療部長。難治性心不全治療センター長、急性心血管センター長。重症の心疾患の治療に取り組み、治療に難渋する患者や、薬物療法で効果が見られない患者に対し、和温療法を行い、補助療法としての和温療法の可能性を高く評価している。

入浴中の死亡者は交通事故死の4倍

冬になると、入浴中に死亡する事故が急増します。2014年の入浴中の死亡者数は、1万9千人。この数は、なんと、交通事故による死亡者数の約4倍にあたります。

入浴中の突然死の最大の原因は、「ヒートショック」です。
ヒートショックとは、急激な温度の変化によって起こる健康被害のこと。急激な温度差があると血圧が大きく変動し、それが死に直結する病気を引き起こします。

冬場、暖かい部屋から寒い浴室の脱衣所に移動すると、熱を奪われまいとして血管がキュッと縮みます。そのとき、血圧が急激に上がります。また、その状態で温かい湯に入ると、今度は血管が拡張して急激に血圧が下がります。

こうした急激な血圧の変化によって起こる突然死には、二つのパターンがあります。

一つは、もともと血圧が高かったり、動脈硬化や狭心症のある人が、急激な血圧上昇によって心筋梗塞や脳血管障害(脳梗塞、脳出血)を起こすもの。もう一つは、入浴中に急激に血圧が低下して失神状態になり、溺死するものです。

入浴中の事故で亡くなる人の9割は、65歳以上の高齢者です。私たちはふだん忘れがちですが、心臓は四六時中休みなく働いており、加齢とともに当然ながら疲弊していきます。

そこに動脈硬化や高血圧が加わると、入浴中の突然死のリスクも高くなります。それをさらに加速させるのが、冬場の入浴やトイレによって起こるヒートショックなのです。

心臓病の人にとってお風呂はとても危険

私の専門は心臓病ですが、心臓の悪い人にとって、入浴はヒートショック以外にも、たくさんの危険をはらんでいます。それは、次のようなことです。

(1)水圧
風呂に入ると、体に水圧がかかります。中肉中背(身長165cm、体重48kg程度)の人の場合、水深1cmで、体表に1g/cm²水圧がかかりますから、50cmの深さの風呂に浸かると、計算上では750kgの水圧がかかることになります。これは、かなりの圧力です。

もちろん、水には浮力がありますから、これで圧死するようなことはありません。しかし、足から風呂に入るので、水圧が足から血管を押し潰すようにかかり、下半身の血液を心臓のほうに流していきます。すると、心臓に戻ってくる血流が増えて心内圧が急激に上昇し、非常に危険な状態になります。

また、呼吸をするときに動く横隔膜にも水圧がかかるので、呼吸が抑制されて息苦しくなってきます。

(2)温度
風呂の温度によって、自律神経のバランスが変わってきます。温度が41℃までなら、心臓の働きを活発にする交感神経と、心臓を休ませる副交感神経のバランスがうまく保たれています。

ところが42℃以上になると、交感神経の働きが活発になって血圧や脈拍数が上がり、心臓への負担が大きくなります。また、交感神経が活発になって汗をかくと、血液粘度(ドロドロ度)が上がって血栓(血液の塊)ができやすくなります。

(3)運動量
入浴は、意外に体力を使います。衣類を脱ぐ、風呂に浸かる、体を洗う、衣類を着るという一連の作業の運動強度は、安静時の4〜5倍。速歩きや2~3階の階段の上り下り、ソフトボールやドッジボールなどの運動量に匹敵します。心臓の悪い人には、かなりの負担です。

以上のことから、私たちは重い心臓病の人に入浴やサウナを勧めていません。むしろ、禁じています。

とはいえ、入浴自体はとても体によいものです。適温の風呂に入れば血流がよくなり、心身がリラックスします。患者さんに聞くと、お風呂に入りたいという希望がたくさんあります。

そこで、重症の心不全の患者さんのために私たちが導入したのが、「和温療法」という温浴療法です。

治療効果が大幅に上がる、全身を温める和温療法

これは、60℃の乾式サウナに15分間入り、その後ベッドで30分安静保温するというもので、患者さんの体に負担をかけず、しかも治療効果も実証されているという画期的な治療です。

《心不全に対する和温療法の予後改善効果》

上のグラフを見てわかるように、和温療法を薬物療法に併用すると、死亡や再入院が薬物療法の群の半分以下に抑えられるのです。

次の項では、和温療法と家庭でできるやり方について、詳しくご紹介します。

死ぬ前に1度でいいから温泉に入りたい

私が勤務する埼玉医科大学国際医療センターは、心臓移植の認定施設で、重症の心不全の患者さんがおおぜい来られます。

心不全とは、さまざまな原因によって心臓のポンプ機能が低下し、全身に血液を送り出せなくなってしまう病気です。重症になると、くり返し心不全の症状を起こします。

そういう重症心不全の患者さんのために、私たちが2009年に導入したのが、「和温療法」です。

これは、霧島リハビリセンターに在職されていた鄭忠和先生(元鹿児島大学大学院・循環器呼吸器代謝内科教授)が、「死ぬ前に1度でいいから温泉に入りたい」と切望する重症心不全の患者さんのために、さまざまな基礎研究と臨床試験を積み重ね、開発した温浴療法です。

和温療法では、60℃の乾式サウナに15分間入り、30分間毛布にくるまって保温した後、発汗した分の水を飲みます。

これを毎日(週5回)行って2週間続けるのが、ワンクールの治療です。

この治療の効果は医学的に実証されており、心不全の治療のガイドラインにも、最初に選択されるべきクラス1の補助療法として推奨されています。

当院でも、重い心不全の患者さんに和温療法を勧め、非常に良好な結果を出しています。

Yさん(60代男性)は心筋梗塞を起こし、救急車で運ばれ、即入院・手術となりました。その後、1年間に4回も心不全で入院をし、他院ではもう治療法がないと言われ、わらにもすがる思いで当院の和温療法を受けに来られました。

和温療法を始めてからは、心不全で入院することもなくなっています。Yさんは和温療法で心身ともに温まると、とても気に入っておられます。

血流量を増やし動脈硬化を防ぐ効果

このように和温療法が心不全に効果があるのは、次のような理由からだと考えられます。

一つは、血管が広がって血流がよくなることです。心不全では、心臓の働きが悪いので、体に十分な血液が送り出せず、血液がスムーズに流れないので、体に水分が溜まりやすくなります。

ところが血管が広がればらくに血液が戻り、らくに出て行きます。それだけ心臓にかかる負担が減ります。

もう一つは、血管の内皮機能が改善することです。和温療法を続けていると、血管内皮細胞から産生される一酸化窒素(NO)が増えることがわかっています。

NOには血管の収縮・拡張をコントロールしたり、血小板の凝集を抑制して動脈硬化を防ぐなど、血管を健康にする働きがあるのです。

和温療法は副作用がほとんどなく、何歳のかたでも受けられます。また万が一、治療中に不都合が起きても、治療を止めれば大事に至ることはありません。

安全なうえに入浴の気持ちよさも味わえるので、患者さんにはとても喜んでいただいています。

自宅で行う「和温療法」のやり方

自宅で応用する場合は、下にあるように41℃のお風呂に入浴します。41℃までなら、10分間入浴しても内部体温が1〜1.2℃上昇するだけです。

この体温上昇なら、自律神経のバランスが保たれ、心臓に負担がかかりません。42℃以上になると交感神経が活発になって血圧や心拍数が上がりますから、気をつけてください。

この入浴法は、健康な人はもちろん、慢性心不全の予備軍である高血圧、糖尿病、脂質異常症などのあるかたなどにお勧めします。

軽い心臓病、ペースメーカーを入れているかたでも可能ですが、重症の心不全のかたは危険ですから、絶対に行わないでください

脱衣所は、裸になっても寒くないほどに温めておく。浴室との温度差がないようにする。

浴槽は、あらかじめ41℃のお湯をはり、半身浴、または体を伸ばした姿勢で10分間浸かる。肩が冷えるようなら、タオルなどをかける。

浴槽から出たら体をよくふいて衣服をつけ、毛布などで体を温めて30分間休む。

のどの渇きを潤す程度に、水を飲む。

この記事は『安心』2019年4月号に掲載されています。

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特選街web編集部

1979年に創刊された老舗商品情報誌「特選街」(マキノ出版)を起源とし、のちにウェブマガジン「特選街web」として生活に役立つ商品情報を発信。2023年6月よりブティック社が運営を引き継ぎ、同年7月に新編集部でリスタート。

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