たっぷり寝ているつもりでも、実は質のよい睡眠が得られていない人は多いもの。それが高血圧の原因になっている可能性もあるので要注意です。睡眠の質を低下させる原因として、私が注目しているのは、寝ているときに口が開いた状態になる口呼吸です。【解説】今井一彰(みらいクリニック院長)
解説者のプロフィール
今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。日本病巣疾患研究会副理事長。さまざまな方法を駆使しながら、薬を使わずに体を治す独自の治療を行う。「あいうべ」による息育や「足指を伸ばす」ことによる足育の普及に力を入れている。著書に『自律神経を整えて病気を治す 口の体操「あいうべ」』(マキノ出版)、『足腰が20歳若返る 足指のばし』(かんき出版)など多数。
口が開いた状態で寝ると血圧の上昇を引き起こす
血圧が高くて、いろいろ試したけれどなかなか下がらないという人は、一度、睡眠を見直してみてはいかがでしょうか。
高血圧にはさまざまな要因がありますが、睡眠不足や睡眠障害もその一つです。一説には、「たとえ降圧剤を飲んでいても、徹夜すると薬1錠分の効果が無意味になる」といわれています。
通常、睡眠中は自律神経(意志とは無関係に内臓や血管の働きを調整している神経)のうち、体を休息モードにする副交感神経が優位になり、血管が拡張して、血圧が下がります。
ところが睡眠不足になると、副交感神経が十分に働かないため、自律神経が乱れて、高血圧へとつながるのです。
夜更かしや徹夜はもちろんのこと、睡眠の質も血圧に影響します。
たっぷり寝ているつもりでも、実は質のよい睡眠が得られていない人は多いもの。それが知らず知らずのうちに、高血圧の原因になっている可能性もあるので要注意です。
睡眠の質を低下させる原因として、私が注目しているのは、寝ているときに口が開いた状態になる口呼吸です。
口が開いた状態で、上を向いて寝ると、舌の根元がのどのほうへ落ち込みます。そのため、気道が狭くなり、空気の通りが悪くなります。その結果、イビキをかいたり、睡眠時無呼吸症候群(以下、睡眠時無呼吸症と記す)になったりするのです。
睡眠時無呼吸症は、寝ているときに、呼吸が一時止まってしまう病気です。
医学的には、一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の呼吸停止(無呼吸)が30回以上、あるいは睡眠中の1時間に無呼吸が5回以上ある場合、睡眠時無呼吸症と定義づけられています。
たびたび呼吸が止まると、当然、眠りの質は悪くなります。深い睡眠が得られないため、疲労が回復せず、副交感神経の働きが阻害されて、血圧の上昇を促すことになります。
また、睡眠中は唾液の分泌が減りますが、口が開いた状態で寝ていると、口の中の乾燥がよりいっそうひどくなることも問題です。
私たちの口の中は、唾液で潤うことでバリアができ、細菌の繁殖や炎症を防いでいます。乾燥すると、そのバリア機能が果たせなくなり、口の中で細菌が繁殖して炎症が起こります。
口の中にこうした慢性炎症(長く続く軽度の炎症)があると、睡眠の質が低下します。そのストレスが自律神経の乱れを引き起こし、結果として血圧が上昇するのです。
よくイビキをかく、就寝時に口の中が乾燥する、朝起きるとのどがカラカラ、口の中が粘ついている、そういう人は睡眠中に口が開き、口呼吸をしている可能性が大いにあります。
日中に眠けがある、寝ても寝ても寝たりない、朝起きるのがつらいという人は、睡眠時無呼吸症かもしれません。そのために高血圧を引き起こしている可能性が高いといえるでしょう。
すぐにでも口呼吸をやめて、良質な睡眠が得られるよう、口を閉じて寝られるようにすることをお勧めします。
それには、どうしたらよいのでしょうか。
まず私が提案するのは、「口テープ」です。口にテープを貼り、強制的に口を閉じた状態で寝るのです。
寝ているときに口を閉じてさえいれば、舌はのどのほうへ落ち込みにくくなります。それによって、イビキが軽減することや、睡眠時無呼吸症の指数が半減することもわかっています。
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【口テープのやり方】
口テープのやり方は簡単です。まず薬局で売られている医療用テープ(サージカルテープや絆創膏)を用意します。幅は特に指定していませんが、12mm前後がいいでしょう。
テープを5cmほどに切ったら、唇の中央に縦に貼るだけ。強く貼る必要はありません。これなら、鼻で呼吸ができずに苦しくなったとき、簡単に口を開けられるので安心です。
テープを貼ったまま寝て、朝起きたらはがします。できるだけ毎晩行いましょう。
【あいうべ体操のやり方】
そして、常に口を閉じた状態を維持するために、口の体操「あいうべ」を行うこともお勧めします。
口が開いて口呼吸になってしまうのは、口の周囲の筋肉(口輪筋、表情筋など)が衰えているからです。口の周囲の筋肉が衰えると、舌の筋肉も衰えるため、寝たときに舌の根元がより落ち込みやすくなります。
私が考案した「あいうべ」は、口の周囲の筋肉と舌の筋肉を鍛えるのに役立ちます。やり方は、次の四つの動作をくり返すだけです。
❶「あー」と、口を大きく開く。
❷「いー」と、首に筋肉のすじが浮き出るくらい、口を大きく横に広げる。
❸「うー」と、唇をとがらせて口を前に突き出す。
❹「べー」と、舌を思い切り突き出して下に伸ばす。
大げさなぐらい口を大きく動かし、(1)〜(4)を4秒前後かけてゆっくり行ってください。これを1回として、1日30回を目安に行います。何回かに分けて行ってもかまいません。
いつ、どこで行ってもかまいませんが、寒い屋外で行うと口の中が乾いてしまうので、避けたほうがいいでしょう。逆に、乾燥の心配がない入浴時に行うのはお勧めです。
口テープや「あいうべ」を実践して、イビキや睡眠時無呼吸症が改善し、高血圧が改善した人はたくさんおられます。
39歳の女性Hさんは、夫から「工事現場並みの大音響」といわれるほどイビキがひどく、血圧も高くて5種類の薬を服用していました。
そこで、「あいうべ」を勧めたところ、とても熱心に実践されました。1ヵ月後、イビキは寝息程度になったといいます。血圧も少しずつ低下・安定し、薬は3種類に減りました。
高血圧で、イビキや口呼吸に思い当たる人は、口テープと「あいうべ」をぜひお試しください。口を閉じて寝ることは良質な睡眠をもたらし、血圧の安定だけでなく、全身の健康につながります。