【長時間透析】睡眠中に行う「オーバーナイト透析」、自分の好きな時間に行う「在宅血液透析」をそれぞれ解説

美容・ヘルスケア

寝ている間に長時間透析を行うと、皆さんとても元気に朝を迎えられ、そのまま仕事や学校へ行く人も多くいます。なかには、透析治療を受けていることを職場に伝えていない人もいます。それくらい、普通の人と変わらない生活が送れるのです。【解説】坂井瑠実(坂井瑠実クリニック理事長・本山坂井瑠実クリニック院長)

解説者のプロフィール

坂井瑠実(さかい・るみ)

坂井瑠実クリニック理事長・本山坂井瑠実クリニック院長。岐阜県立医科大学卒業後、神戸大学医学部第2内科入局、腎臓グループに所属。住吉川病院院長などを経て、坂井瑠実クリニック開設。透析者の体調や生活の質を向上させるために、理想の透析医療を追究。在宅血液透析導入の第一人者。
▼坂井瑠実クリニック(公式サイト)
▼ 専門分野と研究論文(CiNii)

睡眠中に透析を行う「オーバーナイト透析」とは

時間をかけてゆっくり行う

透析治療で不自由なことは、やはり拘束時間の長さです。老廃物をしっかり除去しようと思えば、人によっては、かなり長時間の透析が必要になります。

そこで思いついたのが、寝ている時間を利用することです。誰でも6〜8時間は寝ているので、その時間を透析に当てれば、とても合理的だと考えました。

私のクリニックでは10年以上前から、病院に泊まって睡眠中に透析を行う「オーバーナイト透析」を取り入れています。

当院のオーバーナイト透析は、夜8時〜朝7時まで。この間に何時間透析をするかは、一人ひとりの希望や生活スタイルに合わせて決めてもらいます。

透析中は、患者さんを起こさないようモニターで監視し、途中で巡回して血圧を測ることはしていません。ですから、オーバーナイト透析は血圧が安定している人に限定しています。

しかし、時間をかけてゆっくり透析を行えば、血圧が下がり過ぎる心配はほとんどありません。

寝ている間に長時間透析を行うと、皆さんとても元気に朝を迎えられ、そのまま仕事や学校へ行く人も多くいます。

なかには、透析治療を受けていることを職場に伝えていない人もいます。それくらい、普通の人と変わらない生活が送れるのです。

今は、6時間以上の透析にも健康保険が適用されるようになり、オーバーナイト透析を実施する施設が増えてきました。時間を有効活用したい人は、ぜひチェックしてみてください。

※「(株)旅行透析」のホームページに「オーバーナイト透析を実施する全国施設一覧」があります。

オーバーナイトでしっかり透析できる

「在宅血液透析」は月10万円の費用削減にもなる

自分の好きな時間に好きなだけ透析をしたい人には、「在宅血液透析」を勧めています。医療施設に出向く必要がなければ、長時間透析はより実現しやすくなります。

在宅血液透析の場合は、毎日でも透析が可能。日数を増やすことができるので、1回当たりの時間は3時間でもOKです。

必要となるのは、装置と物品を置くスペース、それに初期工事費と、月5000円〜1万円増の水道・電気代です(金額は各家庭の状況、居住地域によって異なります)。透析装置などは、貸与で費用はかかりません。

施設で行う透析と比較すると、在宅血液透析は月10万円くらい、場合によってはもっと費用が抑えられます。

今、日本の医療費40兆円のうち、透析にかかる費用は1兆6000億円といわれています。在宅血液透析が普及すれば、こうした医療費の削減にもつながるでしょう。

しかしながら、国内の在宅血液透析の実施者は、全国でまだ700人程度。そのうち70人が当院の患者さんです。

在宅血液透析がなかなか普及しないいちばんの理由は、「一般の人が自分で透析を行うのは危険」という意識が根強いためです。けれども、決してそんなことはありません。

また、長時間透析をすれば、別記事(冒頭のリンク先参照)で述べたように、合併症のリスクが低くなります。

そのため、当院では「透析は2日空けないこと」というルールは、最低限守っていただいています。

機械の使い方などは事前にトレーニングを受けていただきます。単純作業なので、慣れれば誰でも簡単に在宅血液透析ができるようになります。トレーニング期間は2週間〜4ヵ月と、人によって異なります。

なお、現在は介助者がいないと、在宅血液透析は行えないルールになっています。

今後は独り暮らしの人でも在宅血液透析が行えるよう、訪問看護師の協力も含め、対応策を検討していく必要があるでしょう。

※「在宅血液透析研究会」のホームページに「在宅血液透析を実施する全国の施設一覧」があります。

普通の生活をあきらめる必要など決してない

「透析の父」と呼ばれる、米国のスクリブナー博士が「HDP(ヘモダイアリシスプロダクト)」という指標を提唱しています。

それによると、[1回の透析時間]×[1週間の透析回数の2乗]が72以上だと、「とても体調がよい」と感じる人が多いそうです(下の図参照)。

《血液透析の時間・回数と体調の関係》

計算式:1回の透析時間×1週間の透析回数×1週間の透析回数=HDP
(例:1回4時間の透析を週3回受けている人のHDP:4×3×3=36)
値が72以上が望ましく、「体調がよい」と感じる人の割合が高い。

当院の在宅血液透析患者さんのHDPの平均は125です。長時間透析でいかに体調が向上するか、おわかりいただけるのではないでしょうか。

サッカー選手でコーチでもある33歳の男性は、「透析なんて死んでもイヤ」といっていましたが、3年前、ついに透析に踏み切りました。

それでも長時間透析のおかげで、今もサッカーを続けることができ、透析後はランニングして帰るほど元気に過ごしておられます。

また、60歳の男性は、4時間×週3回の透析を受けていましたが、満足に働けなくなり、辞職を決意していました。ところが、在宅血液透析を始めてからぐんと体調がよくなり、今も辞めずに熱心に仕事に打ち込まれています。

透析になったからといって、普通の生活をあきらめる必要など決してないのです。そして、それを実現できるのが長時間透析だと、私は確信しています。

この記事は『壮快』2019年5月号に掲載されています。

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