股関節は常に体重がかかる関節なので、すり減った軟骨が再生するのは難しいと考えられています。しかし、原因となっている筋肉をほぐすことで、股関節にかかる圧力が減り、血液やリンパ液の循環がよくなれば、軟骨自体も再生します。【解説】平野薫(ひらの整形外科クリニック院長)
解説者のプロフィール
平野薫(ひらの・かおる)
ひらの整形外科クリニック院長。1987年、九州大学医学部卒業。新日鐵八幡記念病院整形外科主任医長・リハビリテーション科部長などを経て、2010年より現職。東洋医学や天城流湯治法などを治療に取り入れ、成果を上げている。
筋肉や腱がかたくなると股関節の軟骨がすり減る
私は2016年から、患者さんの治療に「天城流湯治法」を取り入れています。
天城流湯治法とは、健康プロデューサーの杉本錬堂氏が考案した独自のメソッドです。その理論は、通常の現代医学とは全く異なります。しかも、すべてのメソッドが、セルフケアとして、患者さん自身で取り組めるものになっています。
まずは、変形性股関節症に対する一般的な現代医学の考え方と、天城流湯治法の考え方の違いについて、説明しましょう。
変形性股関節症とは、一般的に、股関節の軟骨がすり減って骨が変形し、痛みを生じたり、動きが制限されたりする疾患です。
通常、整形外科では、レントゲン検査で軟骨がすり減っていることが確認されると、そこに対して治療をします。例えば、関節内に注射をしたり、股関節周りの筋力訓練をしたり、痛みが取れなければ手術をしたりという具合です。
一方、天城流湯治法は、軟骨がすり減って痛みが出ているとしたら、軟骨をすり減らした「そもそもの原因」に目を向けます。
天城流湯治法では、体を部分ではなく、一つのつながりとしてとらえます。そのため、股関節につながっている筋肉や腱がかたくなると、そこから骨が引っ張られて股関節に圧力がかかり、軟骨がすり減ると考えるのです。
筋肉の中には血液やリンパ液も流れているので、筋肉がかたくなると、それらの循環も悪くなります。これも、軟骨がすり減る一因と考えられます。
軟骨の再生をレントゲンで確認!
では、股関節痛を引き起こすのは、どこの筋肉・腱が原因なのでしょうか。
錬堂氏によると、まず、股関節につながる骨を下から引っ張っているのが、ひざ裏にある「長腓骨筋」という筋肉。それから、内くるぶしの下にある「後脛骨筋」「長趾屈筋」「長母趾屈筋」という三つの筋肉の腱だといいます。
そして、上から股関節につながる骨を引っ張っているのが、「大胸筋」と「小胸筋」です。
実際、これら3ヵ所の筋肉・腱を「骨はがし」でほぐすことで、股関節にかかる圧力を軽減し、痛みを和らげることができるのです。具体的なやり方は、下記をご覧ください。
いずれも、股関節に痛みのある側の筋肉・腱をほぐしてください。重要なのは、「もむ」のではなく、「筋肉や腱を骨からはがす」感覚で行うこと。もむと、筋肉は逆にかたくなってしまいます。
ほぐす時間や回数に決まりはありません。かたい部分をやわらかくすることを目標に、1日何回でも行ってください。もちろん毎日行うことが理想です。
筋肉がかたくなり過ぎている人は、ほぐすことで、まれに内出血したり、青アザができたりすることがあります。その場合は1日休むか、小分けにして行いましょう。
筋肉がやわらかくなってくれば、並行して股関節の痛みも和らいできます。最低1ヵ月続ければ、違いを実感していただけるはず。痛みが取れても、再発を防ぐために、習慣として続けることをお勧めします。
股関節は常に体重がかかる関節なので、すり減った軟骨が再生するのは難しいと考えられています。しかし、原因となっている筋肉をほぐすことで、股関節にかかる圧力が減り、血液やリンパ液の循環がよくなれば、軟骨自体も再生します。
私のクリニックでは、レントゲンで軟骨の再生を確認できている人が、現時点で数名おられます。皆さんもあきらめずに、ぜひ実践してください。
「骨はがし」のやり方
※行うのは痛みのある側。両方痛む場合は両側行う。
※1日何回行ってもよい。毎日行う。
【ひざ裏】
ひざの裏側、やや外側寄りを、手の親指を外側に動かし、筋肉を骨からはがすイメージでほぐす。股関節が痛む人は、この辺りがかたくなっていることが多い。
【内くるぶし】
後脛骨筋・長趾屈筋・長母趾屈筋の腱が通っているところを、骨からはがすようにほぐす。内くるぶしの下に手の親指の先をグッと押し込み、かかとへ向かって、骨の表面を押しはがすようにする。
【胸】
わきの下の肋骨部分に、反対の手の親指以外の4本指を当てる。肋骨と大胸筋の間に指を入れる感じで大胸筋をつかみ、骨からはがすように内側に動かす。指を少しずつ下にずらし、バストの下辺りまではがす。