百会は五つの経絡とつながっている非常に重要な「交会穴(複数の経絡が交わるツボ)」で、位置を覚えやすく、押しやすく、1点でいろいろな症状を改善してくれるとても重宝なツボです。そんな百会の効果をさらに高めることができる刺激法が「百会のずらし指圧」です。【解説】田中勝(田中鍼灸指圧治療院院長)
解説者のプロフィール
田中勝(たなか・まさる)
田中鍼灸指圧治療院院長。1948年北海道出身。鍼・灸・あん摩マッサージ指圧師。治療にとどまらず、鍼温灸や経絡あん摩、関節運動法講習会を開催するなど、精力的に活動している。DVD『よくある症状への手技療法』(医道の日本社)が好評発売中。
一つで多数の経絡を刺激できる重宝なツボ
左右の耳の上端を結んだ線と、顔の正中線を結んだ線が交わる頭頂部に、少しくぼんだ部分があります。
くぼみの周辺1cmくらいの範囲を、指の腹でぐっと押してみてください。ひときわズーンと響くような、「痛気持ちいい」と感じるポイントが見つかるはずです。
その場所こそ、今回ご紹介する「百会(ひゃくえ)」のツボ(経穴)です。
百会は督脈という経絡に属するツボです。経絡とは気の通り道、ツボは経絡上で特に反応が強い場所のことです。経絡には12の正経と、八つの奇経の合わせて20あります。
東洋医学では、体の中には気と呼ばれる生命エネルギーが流れていて、気の流れがスムーズであれば、健康を保つことができると考えられています。
百会というツボ名の由来は「百(多数)の経絡が会する(集まる)場所」であるからとされています。
百会は、督脈に属しますが、督脈のほかにも手の少陽三焦経、足の少陽胆経、足の太陽膀胱経、足の厥陰肝経の五つの経絡とつながっています。非常に重要な「交会穴」(複数の経絡が交わるツボ)なのです。
つまり百会を刺激すると、これら五つの経絡が支配する内臓や筋肉、神経、血管、リンパなどに広く働きかけることができるということです。
そのため、百会は耳鳴り、めまい、頭痛、視力低下、目の充血、鼻づまり、頭痛、抜け毛など頭部の症状から、胃下垂や痔といった消化器の症状、高血圧など循環器系の症状、神経や精神的症状にまで、幅広く効果があるツボとして知られています。
このように百会は位置を覚えやすく、押しやすく、1点でいろいろな症状を改善してくれる、とても重宝なツボです。
私は、そんな百会の効果をさらに高めることができる百会の刺激法を考案しました。それが「百会のずらし指圧」です。
ずらして押すことで全ての経絡に響く
百会をまっすぐに指で指圧してから、そのまま指を頭皮が動く範囲(5~10mm)で、前後左右斜めの8方向にずらして押すという方法です。
この方法は、私が中国鍼で治療をしているときに発見しました。
頭頂部のツボは、頭蓋骨があるため、垂直に鍼を入れることができません。斜めに刺したりもしていましたが、それなら指で押しながらずらしてもいいのではないかと思ったのです。
また、鍼を使わないなら、患者さんご自身でも安全に、効果を得ることができるはずです。そこで、来院される患者さんたちに、この百会のずらし指圧で施術するようにしてみました。
すると、さまざまな体の不調や悩みに対して、すばらしい改善効果をもたらすことができたのです。
例えば、ひどかった肩こりが軽快したり、視野が広がったり、ひざの痛みが軽減したり、鼻がすっと通ったり、耳の聞こえがよくなったり、生理痛の痛みがらくになったりなど、その場でさまざまな症状が改善したのです。
また、継続して施術を行ううちに、長年悩んでいたアトピー性皮膚炎や腱鞘炎、花粉症、がんこな便秘や痔などが治ったかたもいました。
このような多様な効果が得られるのは、どうしてでしょうか。おそらく、ずらし指圧をすることで、百会に集まる五つの経絡だけでなく、20すべての経絡に響くようになるからではないかと私は考えています。
「百会のずらし指圧」のやり方
それでは、簡単にできて効果の高い、百会のずらし指圧のやり方をご紹介しましょう。
【百会の位置】
耳の上端を結んだ線と顔の正中線の交点でわずかにくぼんだところ
【押し方】
両手の中指を重ねて押すのが基本だが、親指の第一関節などで指圧してもよい
❶ずらしたときに強い痛みを感じる方向と、下記の一覧を参考に効かせたい部位のある方向を選び、多くて4方向に対して指圧をします。
指をずらす方向は、8方向があります。全方向に向けて行う必要はありません。
❷頭頂部にある百会に、両手の中指を重ねて、まずは垂直にまっすぐ30秒ほど指圧します。そして、押したまま指を5~10mmの範囲でずらし、さらに30秒から1分指圧します。
百会から10mm以上ずらすと、ツボから外れてしまうので、頭皮のゆるみの範囲でずらすのがコツです。押し終わったら百会に指を戻し、(1)で選んだ別の方向に向けて同様にずらして30秒押すのをくり返します。
押しているうちに指の位置が百会から外れてしまったら、いったん指を百会の位置に戻してからずらし指圧を続けてください。
百会を押したときのズーンとくる痛みが軽くなるまで、トータルで3~5分ほど、ずらし指圧を続けるといいでしょう。
【ずらす方向と効果の上がる部位一覧】
前ずらし
鼻、のど、胸~上腹部、下腹部、尿道口、膣
後ろずらし
後ろ首、背骨~仙骨、肛門
右ずらし
右耳、右奥歯、右肩、右わき腹、右股関節、右足太もも(側面)、右ひざ外側、右手足の薬指(第4指)
左ずらし
左耳、左奥歯、左肩、左わき腹、左股関節、左足太もも(側面)、右ひざ外側、左手足の薬指(第4指)
右斜め前ずらし
右目、右こめかみ、右ほお、右胸~腹部、右足の前面、右ひざ、右足の第2・第3指、右手の人さし指
左斜め前ずらし
左目、左こめかみ、左ほお、左胸~腹部、左足の前面、左ひざ、左足の第2・第3指、左手の人さし指
右斜め後ろずらし
右耳(後ろ側)、右ふくらはぎ外側、右座骨神経
左斜め後ろずらし
左耳(後ろ側)、右ふくらはぎ外側、左座骨神経
ちなみに百会のずらし指圧を行っていると、腸がグルグルと鳴り出す患者さんが多くいます。これは、腸に指圧の刺激が届いている証拠です。腸がグルグルと鳴り始めたら、鳴らなくなるまでを指圧時間の目安とするとよいでしょう。
簡単で効果の高いセルフケアができる方法ですので、ぜひ皆さんも試してみてください。