ストレス・イライラが止まらない時に効果的な「手のツボ押し」

美容・ヘルスケア

最も脳に刺激が伝わりやすいツボ「合谷」は、親指の骨と人さし指の骨が交わるところにあり、いろいろな症状に効くため「万能ツボ」とも言われます。合谷と合わせて押すとよいのが、合谷の裏側にある「母指球」です。【解説】安野富美子(東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授)

解説者のプロフィール

安野富美子(やすの・ふみこ)
お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。鍼灸師、理学博士。専門は鍼灸学、レディース鍼灸。20代後半のときに初めて鍼灸治療を受け、長年続いた体調不良が消えたことがきっかけで鍼灸師を目指す。資格取得後、東京大学医学部老年病学教室、財務省印刷局東京病院東洋医学センターなどを経て、2009年より東京有明医療大学保健医療学部教授に就任。著書に『ヘルシー・エイジングをもたらす鍼灸のちから』(医学と看護社)など。

脳のα波が高まると実験で判明!

全身には365ものツボがあります。それらのツボの中で、最も脳に刺激が伝わりやすいツボが「合谷」です。

合谷は、親指の骨と人さし指の骨が交わるところにあり、いろいろな症状に効くため、「万能ツボ」とも言われます。人体の機能を高めるツボとしても有名です。実際に、治療の現場で多く活用されています。

合谷を刺激すると、肩や首のこり、眼精疲労、頭痛、頭重感、倦怠感、慢性疲労、不眠、歯の痛み、鼻づまり、花粉症、便秘、下痢などの症状によい効果をもたらします。最近では、長時間パソコン操作をすることによる、手や指の疲労や痛みにも合谷が使われます。

また、メンタル面でも、ストレスや神経過敏、集中力がない、うつっぽい、気分の落ち込み、イライラ、やる気が起きないなどの症状があるときに合谷を刺激すると、症状が緩和されます。

合谷は最も脳に刺激が伝わりやすいツボと言いましたが、実際に合谷を刺激すると、リラックス時に多く発せられる脳波のα波が高まるという実験報告があります。

また、これは私が行った実験ですが、合谷を刺激する前と後とで、顔面の血流の状態を見ると、明らかに血流が増加していることがわかりました(下の写真参照)。

合谷を刺激することで、手と遠く離れた頭や目、鼻、口の不調にも効果があることが、これで証明されたことになります。

合谷を刺激する前→顔の中心から血行がよくなった

ストレスやイライラを吐き出すイメージ

合谷のツボ押しは、反対の手の親指の腹を当てて、人さし指(手の内側)に向かって垂直に押します。ツボの位置は、人によって微妙に違います。したがって、写真で示した合谷の位置を点で押すというよりは、人さし指と親指のつけ根のあたりをまんべんなく押しもみするほうがよいでしょう。

呼吸もたいせつです。口から息を吐きながら3秒かけてゆっくり押し、3秒止めて、鼻から息を吸いながら3秒かけてゆっくり戻します。気持ちいいと思える程度の強さで3〜5回繰り返します。反対の手も同様に行ってください。

合谷のツボ押しはいつやってもかまいません。寝る前に行うときは、ゆるめに押すと副交感神経(※1)が優位になり、入眠しやすくなります。逆に朝は、少し強めに押すと、交感神経(※2)が優位になり、スッキリと目が覚めるようになります。

ストレスやイライラ、うつっぽい気分のときは、息を吐くときにそれらを口から吐き出すイメージで行うとよいでしょう。

合谷と合わせて押すとよいのが、合谷の裏側にある「母指球」です。手のひら側の親指のつけ根の盛り上がった部分で、手のひらと甲の境目の色が変わったところです。ここを押すと気持ちよく、リラックスできます。

東洋医学的には、母指球はセキや発熱、のどの痛みなど、肺の症状の改善に用いられます。筋肉痛にも効果的で、腕や胸の筋肉の痛みに効果があります。

母指球を押すときには、母指球の中央に親指の腹を当てて、気持ちのいい強さで、合谷と同様に押します。母指球も点で押すのではなく、全体をもみほぐす感じで刺激するのがよいでしょう。

東洋医学では、全身は「経絡」でつながっていると考えます。経絡とは、生命エネルギーの通り道です。その経絡上に、ツボが存在します。ツボは生命エネルギーの出入り口です。

主要な経絡は14本あり、合谷は「大腸経」という経絡が通っています。一方、母指球は「肺経」という経絡が通っています。合谷と母指球をセットで刺激すると、上半身のほとんどを網羅することができます。

合谷と母指球は、ツボの中でも特に刺激しやすい場所にあるため、仕事の合間や外出先、入浴中でも、いつでもどこでも押すことができます。効果も身体症状から精神症状まで広く、大きいので、忙しい現代人にお勧めのツボと言えるでしょう。

「手のツボ押し」のやり方

※強く押し過ぎないこと
※食事の直後や極度の空腹時、飲酒後や手にケガをしているときは行わない

「合谷もみ」
合谷は「万能ツボ」と言われ、便秘や目の疲れのほか、多くの症状に効果がある

【合谷の位置】
親指と人さし指の骨が交差する位置にある

【 やり方 】
合谷とその周囲を全体的にもみほぐす。口から息を吐きながら3秒かけてゆっくり押し、3秒止めて、鼻から息を吸いながら3秒かけてゆっくり戻す。気持ちいいと思える程度の強さで3〜5回繰り返す

「母指球マッサージ」

【母指球の位置】
手のひら側の親指のつけ根のふくらんだ部分

【やり方】
母指球全体をもみほぐす。口から息を吐きながら3秒かけてゆっくり押し、3秒止めて、鼻から息を吸いながら3秒かけてゆっくり戻す。気持ちいいと思える程度の強さで3〜5回繰り返す

この記事は『ゆほびか』2019年7月号に掲載されています。

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