黒酢の健康効果については、栄養学を研究する私も知れば知るほど「どうしていろいろな効果を持っているのだろう?」と不思議に思うほどです。では、黒酢と普通の「酢」では、いったい何が違うのでしょうか。【解説】叶内宏明(大阪府立大学大学院地域保健学域総合リハビリテーション学類栄養療法学専攻准教授)
解説者のプロフィール
叶内宏明(かのうち・ひろあき)
管理栄養士。農学博士。大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科栄養支援系領域准教授。鹿児島大学に在籍中、黒酢の機能性に注目し、黒酢の認知症予防やがんの有効性について研究。黒大豆と黒米から作る「サツマ黒味噌」の開発にも携わる。
黒酢の健康効果
炎症を抑制
黒酢の健康効果については、これまでテレビや雑誌などで全国的に紹介されていますが、その多岐にわたる効果は、栄養学を研究する私も知れば知るほど「どうしていろいろな効果を持っているのだろう?」と不思議に思うほどです。
動物実験のレベルではありますが、これまで発表されている研究を見ると、血糖値を下げる作用、大腸炎を抑制する作用、がんの発症を抑制する作用など、さまざまな論文が報告されています。
ヒトを対象とした実験は数こそ多くはないものの、抗疲労効果や血圧を下げる効果、内臓脂肪が減ったなどの報告もあります。
これらは、酢の主成分である「酢酸」による効果だと考えられています。
酢酸は、黒酢に限らず、穀物酢や米酢、フルーツ酢など、およそ「酢」と付くものに含まれていて、酢の値段によらず、同様の効果をもたらします。
では、黒酢と普通の「酢」では、いったい何が違うのでしょうか。
黒酢と普通の「酢」の違い
実を言うと、この辺りは、はっきりとした研究結果はまだ出ていません。しかしながら、黒酢と酢の違いを挙げるとすると、次のことが考えられます。
(1)ビタミン、ミネラル、たんぱく質(アミノ酸)が含まれる
米酢が精白米を原料としているのに対し、黒酢は薄皮を残した玄米に近い米を原料としています。ぬかには、ビタミンやミネラル、たんぱく質などが含まれます。
ただし、その含量は、酢以外の他の食品に比べて特に多いものではありません。黒酢が穀物酢や米酢とは大きく違う点は、発酵過程でDアミノ酸が含まれることです。
自然界に存在するアミノ酸のほとんどが、Lアミノ酸です。現在、Dアミノ酸は美肌に効果があるとして、化粧品会社でも研究開発が進んでいる注目の成分です。
(2)抗酸化作用を持つフェルラ酸が含まれる
米ぬかに含まれるフェルラ酸は、「コメのポリフェノール」と呼ばれ、体を酸化させる活性酸素による悪影響を抑制する作用があります。
(3)壺に生育する多様な微生物が発酵にかかわっている
一般的な米酢は、ステンレス製のタンク内で米から麹や酵母の力を利用してエタノールを造った後、そこに酢酸菌を含む酢種を入れて、効率よく酢酸発酵を起こし、酢を醸造しています。
それに対して、私が研究対象として使用していた鹿児島県の黒酢は、壺の中に蒸し米、米麹、地下水の原料を入れるだけです。
後は自然の環境に任せて、太陽熱だけで発酵させるのです。壺のすき間にすみついている微生物がうまく協調して発酵が進み、酢ができます。その後、壺内で熟成が進み、色が褐色に変化して、黒酢となります。
私は、黒酢の発酵過程によって前述のフェルラ酸やアミノ酸から、新たな機能性成分ができている可能性があるのではないかと期待し、黒酢の研究を行っています。
「垂水研究」でわかってきたこと
酢と血圧の関係
鹿児島県垂水市では「垂水研究」という、高齢者を対象にした疫学調査が2018年からスタートしました。
これは、鹿児島大学の先生が中心となり、歯科医師、看護師、管理栄養士などのさまざまな分野の研究家が参加しています。
まだ始まったばかりではありますが、そこでは、降圧剤を飲んでいない男性(218名・平均年齢68歳)で、酢を副菜で最低でも週に1回食べている群と、まったく酢の物を食べていない群を比較した調査がありました。
結果は、酢の物をまったく食べない群では、週に1回食べる群に比べて、拡張期(最小)血圧が85mmHg以上になる確率が2.5倍高くなるという結果が出ています(最小血圧の正常値は90mmHg以下)。
酢の物を1品プラスするだけでよい
ちなみに、この研究では、サラダの摂取頻度と血圧の関係も調べましたが、サラダと血圧では有意な相関関係はみられませんでした。
血圧が高くなると、まずは生活習慣の改善が必須となります。私は、そういったかたがたには週1回、酢の物を食べてみるように勧めています。「黒酢ラッキョウ」の場合は、ラッキョウの漬け汁も一緒に飲むと、さらなる健康効果を期待できるのではないかと思っています。