【帯状疱疹の最新治療】ワクチンで予防は可能?副作用が少なく鎮痛効果が持続する新薬も登場

美容・ヘルスケア

大人になってから水痘ワクチンを改めて接種することで、帯状疱疹を予防できます。年齢とともに弱まってしまう免疫力をワクチンによって再強化するわけです。免疫機能に異常のある患者さんにも接種できる新しい帯状疱疹ワクチンも登場しています。【解説】本田まりこ(まりこの皮フ科院長)

解説者のプロフィール

本田まりこ(ほんだ・まりこ)
まりこの皮フ科院長。東京女子医科大学医学部卒業。2006年東京慈恵会医科大学大学院教授、東京慈恵会医科大学附属青戸病院皮膚科教授に就任。2014年にまりこの皮フ科を開院。ウイルス性皮膚疾患(水痘、単純ヘルペス、帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、ウイルス性疣贅など)の診療を得意とする。『帯状疱疹の痛みをとる本』(講談社)など著書多数。

皮膚症状が治まった後にも長期間痛みが続く

皮膚に帯状に水ぶくれが現れて、強い痛みが生じる「帯状疱疹」は、水ぼうそう(水痘)と同じウイルスによって引き起こされる病気です。日本人は20歳までに9割がこのウイルスに感染していて、免疫力(体の防御機構)が低下したときに帯状疱疹を発症し、治癒後もしつこい神経痛が残る場合があります。

近年、中高年の帯状疱疹の発症率が急激に上昇しています。その原因として、2014年に幼児の水痘ワクチンが定期接種化され、水ぼうそうの発症が減少したことがかかわっていると考えられています。それは一体なぜか?帯状疱疹の治療法や予防法は?

帯状疱疹に詳しい皮膚科医の本田まりこ先生にお話をうかがいました。

[取材・文]医療ジャーナリスト 山本太郎

──帯状疱疹とはどのような病気なのでしょうか?

本田 帯状疱疹は「水痘・帯状疱疹ウイルス(以下VZウイルス)」による感染症です。VZウイルスは感染力が強く、多くの人が主に子どもの頃に感染して、水ぼうそうにかかります。

ただし、水ぼうそうが治った後でも、VZウイルスは体内からいなくなることはなく、神経節(神経が集合して太くなった部分)に潜んでいます。日本人の成人の9割以上が、VZウイルスに感染していると言われています。

普段は免疫の働きによってVZウイルスの活動は抑えられていますが、加齢やストレス、ほかの病気の影響などで免疫力が低下すると、潜伏していたVZウイルスが再び活性化します。

再活性したVZウイルスは、潜伏していた神経節から神経を伝って、皮膚表面へと移動します。そのさいに神経や周辺の組織が傷つけられて、強い痛みを起こすのです。

VZウイルスを含んだ水ぶくれを伴う発疹が、神経に沿って皮膚に帯状に現れるため「帯状疱疹」と呼ばれます(下の写真参照)。

神経に沿って帯状に、痛みと水ぶくれを伴う発疹が起こる

症状は、体の左右のどちらかで、腕や胸、背中、首、顔など上半身に現れることが多いですが、下半身に現れることもあります。耳や目の周辺で発疹が重症化すると、顔面マヒや難聴、失明の原因にもなるため、早期の対処が重要です。

通常、発疹が治まるとともに痛みも軽くなっていきますが、VZウイルスの移動時に神経の損傷が強く起こると、皮膚の症状が治まった後にも、長期間にわたり激しい痛みが続くことがあります。

これが「帯状疱疹後神経痛」です。帯状疱疹を発症した人のうち5~30%程度が、この神経痛に移行すると言われています。さらにそのうちの3割くらいの人は1年以上も痛みが続き、つらい思いをしているのです。

追加免疫効果が大人の帯状疱疹の発症を防いでいた

──近年、帯状疱疹の発症率が急激に増加していると聞きますが、それはどうしてですか?

本田 簡単に言うと、「予防接種が普及し、水ぼうそうの子どもが身の回りにいなくなったため、大人の帯状疱疹が増えた」のです。順を追って、ご説明しましょう。

わが国では2014年に「水痘ワクチン」が定期接種(自治体が主体となって実施し、公費で受けられる予防接種)になりました。

水痘ワクチンは世界に先がけて、日本で開発されたワクチンですが、以前は任意接種(自己負担で受ける予防接種)で、接種率は20~40%とあまり高くなかったのです。

一方、米国をはじめ諸外国では積極的に水痘ワクチン接種が導入され、水ぼうそうの発症数を大幅に減らす成果を上げました。そこで他国の実績を踏まえて、遅まきながら日本でも定期接種が認められました。

《帯状疱疹と水ぼうそうの年度別・1ヵ月当たりの平均例数》

水ぼうそうの減少とともに帯状疱疹の発症が増加

ところが、定期接種によって乳幼児の水ぼうそうの発症数は激減した一方、成人の帯状疱疹患者数が増えました(上のグラフ)。米国など諸外国でも、同様の結果が出ています。私のクリニックでも、数年前まで帯状疱疹の患者さんは週に数名でしたが、今は1日3名くらいと明らかに増加しています。

実は、水ぼうそうを発症した子どもが身近にいることで、VZウイルスに対する免疫を高める効果(追加免疫効果)があり、大人の帯状疱疹の発症を防いでいたという側面があるのです。

体内に潜むウイルスを抑え込む働きには、「メモリーT細胞」という免疫細胞が大きくかかわっています。この細胞は、いったん体内で悪さを働いたウイルスを記憶しておき、悪さをしないように封じ込めているとイメージすると、わかりやすいでしょう。

しかしながら、VZウイルスの記憶を持つメモリーT細胞は時間とともに少なくなり、20年ほどでほとんどなくなってしまいます。

以前、私たちが東京慈恵会医大で研究した結果、帯状疱疹が発症する年齢は20代で低いピークがあり、30~40代で減少し、50代から急激に増加するという二つの山があることがわかりました。

子どものときに水ぼうそうにかかって獲得した免疫が時間の経過とともに弱まり、20代でいったん発症数が増えます。それが、30代~40代で発症数が減るのは、ちょうどこの年代が子育て世代だからです。

身近に水ぼうそうの乳幼児がいると、親は意識せずにVZウイルスを体内に取り込みます。親はすでに子どもの頃に水ぼうそうの免疫を獲得しているため、発症はしません。

けれども体内ではVZウイルスの記憶を持つメモリーT細胞が再び増え、免疫力が高まるのです。

50代以降に2回目の発症ピークが来るのは、30~40代で高められたメモリーT細胞がまた時間経過とともに減少してくるとともに、この年代では乳幼児と接する機会も減ってしまうことが影響していると考えられています。

《帯状疱疹の発症と追加免疫効果》

ワクチンの再接種で発症と後遺症のリスクを減らせる

さて、予防接種の普及によって水ぼうそうになる子どもが周りにいなくなれば、追加免疫効果が起こりません。加えて、加齢によって全般的な免疫力が低下するため、年をとると帯状疱疹を発症しやすくなってしまうというわけです。

現状では、80歳までに3人に1人が帯状疱疹を経験すると言われていますが、今後さらに増えていくと予測されています。

──帯状疱疹を防ぐ手立てはないのでしょうか?

本田 大人になってから水痘ワクチンを改めて接種することで、帯状疱疹を予防できます。年齢とともに弱まってしまう免疫力をワクチンによって再強化するわけです。

日本では2016年にようやく、水痘ワクチンの適応が「50歳以上の帯状疱疹の予防」にも拡大されました。任意接種として、7000円から1万円程度(医療機関による)で受けることができます。

さらに最近、新しい帯状疱疹ワクチンも登場しています。

従来の生ワクチン(ウイルスや細菌の毒性を弱めて病原性をなくしたものを原材料として作られる)は、ほかの病気で免疫不全があったり、免疫を抑制する薬を飲んだりしている患者さんには使用できませんでした。

それに対して、2018年に新たに認可された「サブユニットワクチン」と呼ばれる帯状疱疹ワクチンは、免疫機能に異常のある患者さんにも接種できるのが長所です。

臨床試験の結果では、予防効果も従来の生ワクチンより高いとされています。ただ、2回の接種が必要で、費用は3万円前後と高くなる見込みです。

いずれにせよ、帯状疱疹がワクチン接種によって予防可能であることを広く知ってもらい、ワクチンの普及を促すことが現在の重要な課題です。

発症してから3日以内の治療開始が推奨される

──帯状疱疹になった場合、治療はどのように行われるのですか?

本田 帯状疱疹の急性期には、主にVZウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬と、痛みを抑える消炎鎮痛薬が処方されます。

抗ウイルス薬は早く飲むほど有効で、発症してから3日以内の治療開始が推奨されます。ですが、発症から4~5日たち、発疹や水ぶくれが広がり、痛みもひどくなってから病院に来る人が、実際には多いのです。

治療が遅れるほど、皮膚や神経にダメージが残りやすくなります。次のような自覚症状がある場合は、帯状疱疹が疑われますから、できるだけ早く皮膚科を受診してください。

(1)体の左右どちらかのある部位に、ビリビリした痛みや違和感がある
(2)痛みや違和感がある部分の痛みが徐々に強まる
(3)その部分の強い痛みが数日続いている
(4)痛みのある部分に赤い発疹が出た

通常、帯状疱疹は20日くらいで治りますが、その後に帯状疱疹後神経痛が残ってしまうと非常に厄介です。

帯状疱疹後神経痛はVZウイルスに神経線維が傷つけられて起こっているため、発疹が出ている間の痛みと違って消炎鎮痛薬は効きません。治療は非常に難しく、痛みの解消に時間を要します。

副作用が少なく鎮痛効果が長続きする新薬が登場

──帯状疱疹後神経痛には、どんな治療があるのですか?

本田 一般に、薬物療法として抗うつ薬、抗けいれん薬、痛みを取るための局所療法として神経ブロック注射などの治療が行われます。

治療薬では今年4月に発売されたばかりの新薬「ミロガバリン(商品名:タリージェ)」が注目されています。

末梢神経の終末で痛みにかかわる神経伝達物質が過剰に放出されるのを抑える作用があると考えられ、従来の治療薬よりも副作用は少なく、鎮痛効果が長く持続すると期待されています。

ほかに私のクリニックでは「イオントフォレーシス」も行っています。

これは、薬剤(麻酔薬)を浸したパッドを皮膚に当てながら弱い電流を流し、電気分解によりイオン化した薬剤を皮膚の表面から浸透させて、痛みを和らげる治療法です。

帯状疱疹後神経痛は皮膚の表面に強い痛みが出るため、衣類がこすれるだけでつらいという人もいますが、イオントフォレーシスは痛みを引き起こしたり、副作用が起こったりする心配がないのが利点です。薬物療法との併用で、症状の改善が見られるケースが多くあります。

症例を紹介しましょう。
80代の男性Aさんが最初に来院されたのは、3年ほど前です。「痛みで寝られない、日常生活も満足に送れない」と訴えていました。

抗うつ薬と、神経の修復を図るためのビタミンB12を服用するとともに、イオントフォレーシスを2週間に1回、受けてもらって、少しずつですが痛みが軽快していきました。しだいに抗うつ薬も減らしていき、ついに服薬をやめても痛みがまったく起こらなくなったので、晴れて治療を「卒業」になりました。

帯状疱疹後神経痛の治療には時間がかかりますが、けっして治らないわけではありません。どうか、あきらめずに治療していただきたいと思います。

この記事は『安心』2019年7月号に掲載されています。

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