耳の下もみは、ドライマウスや歯周病だけでなく逆流性食道炎にも効果を発揮します。耳下腺という唾液腺が刺激されて唾液の分泌が促され、リラックス効果のある完骨というツボを刺激することで副交感神経が優位になり、胃酸の逆流が抑えられます。【解説】齋藤道雄(齋藤ファミリーデンタル院長・医学博士)
解説者のプロフィール
齋藤道雄(さいとう・みちお)
齋藤ファミリーデンタル院長。歯科、口腔外科、小児歯科を中心に治療。口腔疾患に関する統合医療などの予防医学の復旧のため、執筆や講演の活動に積極的に取り組む。
唾液の量が多いほど逆流した胃酸が中和する
私が考案し、患者さんに好評を博しているセルフケアが、「耳の下もみ」です。
この耳の下もみは、ドライマウスや歯周病など口腔内の疾患改善だけでなく、全身の慢性疾患にも効果を発揮します。なかでも有効なのが、逆流性食道炎です。
逆流性食道炎は、胃から食道へ逆流した胃酸によって、食道粘膜が炎症を起こす病気です。処方された薬を服用しても、あまり改善が見られないケースも見受けられます。そこで私は、そうした患者さんに耳の下もみを試してもらい、大いに役立ったと喜ばれています。
その理由については、唾液を中和させる作用と、ストレス軽減の効果が考えられます。
まずは唾液についてお話ししましょう。逆流性食道炎に罹患すると、胃酸が食道へ向かって逆流します。胃酸は、酸性・アルカリ性の度合いを示すpHでいうと、1.0~1.5と非常に強い酸性を示します。
ちなみに、pHは、0~14までの値で示され、7を中性とし、それ未満は酸性とします。胃酸がいかに強い酸性であるか、これでおわかりいただけるでしょう。
この強い酸性を持つ胃酸が逆流すれば、食道の粘膜が激しく傷つけられてしまいます。
これに対抗して、食道を守る効果をもたらすのが唾液です。なぜなら、唾液のpHは、平均6.8と中性に近いからです。また、唾液の量が多いほどpHは高くなります。その分泌量が増えれば増えるほど役に立つのです。
唾液の分泌量の少なさを見分ける目安としては、「食パンが食べにくい」「発音がしにくい」「飲み込みが悪い」といったことが挙げられます。
耳の下もみを行うと、特に耳の下辺りにある耳下腺という唾液腺が刺激されて、唾液の分泌が促されます。多量の唾液が食道を逆流する胃酸を中和し、その害を和らげてくれます。
ストレスが原因の症状がすっかり改善!
次に、逆流性食道炎の有力な原因となるストレスについてお話しします。
ストレスがかかることによって胃の働きが悪くなり、胃酸が逆流しやすくなるのです。その点、耳の下もみは、ストレス解消にも大いに役立ちます。
これは、耳の後ろの完骨というツボを刺激することで発揮される働きです。耳の後ろを指で触ると、出っ張った骨(乳様突起)があります。その下端の後ろ側にあるくぼみに、完骨というツボがあるのです。
完骨に指を当てて、回すように刺激しましょう。もんでいるうちに、ふっと体が緩むような感じがあれば、効いている証拠です。
自律神経は、私たちの意志とは無関係に働き、内臓や血管の調整を行っています。
自律神経には、昼間に優位となって心身を活動的にする交感神経と、夜間に優位となって休息に役立つ副交感神経があり、両者は拮抗しながらバランスを保って働いています。
ストレスがかかると交感神経優位の状態になります。消化器の働きが鈍って逆流性食道炎が起こりやすくなり、症状も改善しません。
耳の下もみを行って、特にリラックス効果のある完骨を念入りに刺激すれば、副交感神経が優位になり、胃酸の逆流が抑えられます。
胃酸の出やすい食後や就寝前に、毎日きちんと耳の下もみを続けてください。根気よく続けていれば、逆流性食道炎に伴う症状が改善されるでしょう。
「耳の下もみ」のやり方
ごく最近、耳の下もみが効果をもたらした症例をご紹介します。60代の女性Aさんは、長らく逆流性食道炎を患っていました。少し持ち直したかと思うと悪くなる、ということをくり返すばかりで、なかなか改善しない状況が続いていました。
Aさんの主な原因はストレスでした。家庭内に心配ごとがあり、その影響から胃酸が逆流してしまっていたのです。そこで、耳の下もみを続けてもらったところ、ストレスによる緊張が和らぎ、症状がすっかり改善したと、非常に喜んでおられました。
耳の下もみは、いつでもどこでも、とても簡単できる健康法です。早速今日から試してみてください。
【刺激する場所】
【やり方】
※(1)と(2)を気づいたときに行う。
❶目を閉じ呼吸を整え、両耳の斜め下にある耳下腺のポイントを指先で回すようにしてもむ。10回行う。
❷目を閉じ呼吸を整え、両耳の後ろにある完骨のツボを指先で回すようにしてもむ。10回行う。