東洋医学の考え方に「経脈」というものがあります。逆流性食道炎の症状に悩む人を施術していると、鎖骨の下から胸の上の辺りが、こわばったり、かたくなったりしている場合が多く見られます。これは、胃経や腎経の流れが滞っていることを示しています。【解説】盛英輔(動坂指圧「和み」院長)
解説者のプロフィール
盛英輔(もり・えいすけ)
動坂指圧「和み」院長。あんまマッサージ指圧師。日本指圧専門学校卒。2003年に「和み」を開院。20年以上の豊富な施術経験がありさまざまな症状や慢性疾患に対応。指圧を通して「体と心の健康」についての研究を重ね続けている。
逆流性食道炎の患者は鎖骨の下がこわばりがち
近年、逆流性食道炎を含む胃食道逆流症に悩む人が増えているそうです。実際に私も、患者さんの治療を通じて、そう感じています。
私は、指圧治療院を営んでいます。消化器系の病院ではないので、逆流性食道炎の症状だけで来院する人は、ほとんどいらっしゃいません。
しかし、施術中によくよく話を聞くと、胃酸の逆流による痛みや不快感、胸やけ、胃もたれなどの症状に悩んでいる人が、案外多くいらっしゃるのです。
そこで、そうした症状の改善に有効な指圧・マッサージ法を検討し、治療に取り入れたところ、好評をいただくようになりました。
なかでも、鎖骨の下の辺りをなで下ろす「鎖骨下ろし」は、ご自身で行っても効果が望めるため、セルフケアとして患者さんに勧めています。
鎖骨は、胸の上部にあり、のどの下と肩の前部を結んでいる長い骨です。やり方は、下の図解を参照してください。
では、なぜこの鎖骨下ろしが、逆流性食道炎の症状に効果をもたらすのでしょうか。
東洋医学の考え方に、「経脈」というものがあります。これは、「気血」という、一種の生命エネルギーが体内を巡るための道のようなものです。
主要な経脈は14本あり、そのほとんどは、特定の臓器と関係があります。例えば、「肺経」なら肺と、「肝経」なら肝臓と、深くかかわっています。
こうした考え方を踏まえて、鎖骨の下を見てみましょう。
鎖骨の左右中央辺りから、胸の乳頭に向かって下がるように「胃経」が流れています。胃とかかわりがあり、胃につながる経脈です。
また、鎖骨の、のどに近い側にある出っ張りを胸鎖関節といいますが、この下の辺りを起点として始まるのが、「腎経」です。腎臓とかかわりがありますが、それだけではありません。
東洋医学でいう「腎」は、生命活動を包括します。まさに、元気の源です。体液や水分の代謝を調節したり、呼吸機能を維持したりする役割もあります。
逆流性食道炎の症状に悩む人を施術していると、鎖骨の下から胸の上の辺りが、こわばったり、かたくなったりしている場合が多く見られます。これは、胃経や腎経の流れが滞っていることを示しています。
この付近をさすって、ほぐすようにすると、その刺激により胃経や腎経の流れが改善。同時に胃の症状が治まり、生命力が高まるのです。
逆流性食道炎の症状は、胃を端に発するため、ストレスや疲労感も関係が深いといわれています。文字どおり、胸をなで下ろすことで、精神的な落ち着きを得て、症状が改善に導かれるのでしょう。
鎖骨下ろしのやり方
※1日に何度行ってもよい。ふだんから行うと予防になり、食後に行うと即時的な効果が望める。
※直接肌に触れたほうが効果的。指が滑りにくいようなら、服の上からなでてもよい。
❶左の鎖骨の、のどに近い出っ張りの下側に、右手の指先を当て、引き下げるようなイメージで2〜3回軽くなでる。
❷鎖骨に沿って、肩先のほうへ少しずつ位置をずらしながら、30秒ほどなでる。右の鎖骨も同様に行い、左右合計で1分程度行う。
胃カメラ検査を受けたら食道の炎症が治っていた
鎖骨下ろしをセルフケアとして実践することで、逆流性食道炎の症状が改善した患者さんも実際にいらっしゃいます。
70代の女性は、横になると胃酸がのどに上がってくる不快感に悩まされていました。夜も安眠できないため、病院を受診したところ、逆流性食道炎と診断されたそうです。「処方された薬を飲んでも、なかなか治らない」と話されていたので、鎖骨下ろしをお教えしました。
実践していただいたところ、症状が徐々に改善。しばらくして胃カメラの検査を受けたら、食道の炎症はすっかり治っていたそうです。
また、40代の男性は、揚げ物が大好物。暴飲暴食がたたり、数年前から、ひどく胸やけするようになりました。施術したところ、胸部の胃経に沿ったラインが、かたくなっていました。
そこで、和食中心の食事を勧め、鎖骨下ろしをセルフケアとして行ってもらったところ、症状がだんだんよくなってきたそうです。
鎖骨下ろしを、薬の服用や食生活の改善と並行して実践することで、より早期の症状改善が見込めます。いつでも手軽に行うことができる鎖骨下ろしを、ぜひお試しください。