サバ缶とタマネギを組み合わせると、高血圧や糖尿病をはじめ、非常に幅広い病気に効能が得られます。重要なことは、同じ効能がタマネギとサバではまったく違う成分によって得られることです。それが総合的にすばらしい健康効果を発揮するのです。【解説】齋藤嘉美(元東京大学医学部講師・介護老人保健施設むくげのいえ施設長)
解説者のプロフィール
齋藤嘉美(さいとう・よしみ)
元東京大学医学部講師・介護老人保健施設むくげのいえ施設長。1932年東京生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部講師を退官後、西新井病院内科医師などを経て、現職。タマネギの健康効果研究の第一人者。
タマネギとサバで効果が倍化!
長年、私は食品の健康効果を研究してきましたが、タマネギとサバ缶の組み合わせほど最強な食べ物はないと考えております。
どちらも優れた有効成分を持ち、それぞれが互いに補完し合って、効果を倍加しています。 その健康効果は、がんや生活習慣病のほとんどに有効です。
ではまず、タマネギから見てみましょう。
タマネギの効能は、有機硫黄化合物とケルセチンの二大成分によってもたらされます。有機硫黄化合物はネギ属に共通の成分で、なかでもタマネギには、量も種類も豊富に含まれています。
中でも多いのが、イソアリインという有機硫黄化合物です。これは細胞の中の原型質に存在しており、タマネギを切って細胞が破壊されると、アリナーゼという酵素と反応して別の成分に変わります。それが、チオスルフィネートという新しい有機硫黄化合物です。
この成分が、がんやぜんそくを抑えたり、血液をサラサラにしたり、血糖値を低下させたり、殺菌や抗炎症作用があったりなど、さまざまな効能をもたらします。
また有機硫黄化合物には、タマネギを切ったときに生じる香り成分もあります。その中でいちばん多いサイクロアリインにも、がん抑制、血糖降下、脂質低下、血流改善などの作用があります。
老化やがん、動脈硬化を抑制し骨を丈夫にする
次に、二つ目の成分であるケルセチンは、フラボノイドの一種です。ケルセチンは活性酸素を除去する抗酸化作用が強く、老化やがん、動脈硬化を抑制する効果があります。
また女性ホルモン様作用があり、骨粗鬆症の予防にも有効です。最近では、認知症の予防になることもわかってきました。
有機硫黄化合物もケルセチンも熱に強い物質なので加熱調理しても効能は変わりません。
ただし、酵素のアリナーゼは熱で活性が失われるので、加熱調理する場合はタマネギを切って20〜30分置き、イソアリインとアリナーゼを十分反応させてチオスルフィネートを産生させてから、調理するといいでしょう。
また、有機硫黄化合物は水に溶けやすいので、タマネギを水にさらすと失われてしまいます。
悪玉コレステロールを正常化するDHAが豊富
一方のサバですが、サバには、タマネギにはない成分が豊富です。
まずたんぱく質です。サバは体内で作ることができない必須アミノ酸のバランスが非常によく、その指標となるアミノ酸スコアが99点もあります(100点が理想)。しかも、筋肉をつくる必須アミノ酸が豊富です。
二つ目は、脂肪です。サバには、魚の脂肪に多いDHAとEPAが豊富で、特にDHAを多く含みます。これらの脂肪は、さまざまな効能を持っています。
よく知られているのは、LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪を減らしたり、血栓を防いで血流をよくしたりする作用でしょう。
近年わかってきたのは、LDLも体に必要なコレステロールで、本当の悪玉は、「スモールデンスLDL」という、小形のLDLだということです。
DHAは、この悪玉の小形LDLを大きくして、正常のLDLにする働きがあるのです。
また、善玉と呼ばれるHDLコレステロールにも粒子の違いがあり、大きい粒子のHDLには心臓血管系の病気を予防する働きのあることがわかりました。
DHAは、大きい粒子のHDLを増やす作用もあるのです。同じ魚油でも、EPAにはこうした働きはありません。
DHAやEPAには、ほかにも、血圧を下げたり、脂質代謝を改善したり、炎症やがんを抑えたりする作用があります。またDHAは脳に多く、認知機能を改善する作用があります。
サバ缶は、脂ののった旬のサバを丸ごと冷凍し、後から調理したものですから、サバの栄養価はほとんど失われません。むしろ骨ごと入っているので、カルシウムの補給にもなります。
このサバ缶とタマネギを組み合わせると、高血圧、糖尿病、脂質異常症、脳梗塞や心筋梗塞、がん、骨粗鬆症、便秘、ぜんそくなど、非常に幅広い病気に効能が得られます。
重要なことは、同じ効能がタマネギとサバではまったく違う成分によって得られることです。それがさまざまな面でプラスに働き、総合的にすばらしい健康効果を発揮するのです。
食べる量の目安ですが、サバ缶は2分の1缶(100g)、タマネギは中4分の1個(50g)くらいでいいでしょう。サバ缶には塩分が0.9gほど含まれているので、そのまま召し上がるか、少量のポン酢で味つけするのがお勧めです。
※この記事は『安心』2019年8月号に掲載されています。