【実験で判明】たくあん漬けは血圧を上げない食べ物 腎機能を改善する効果も確認

美容・ヘルスケア

塩分を気にして、漬物を食べるのを控えている人も多いでしょう。現在では冷蔵技術が進み、味付けにも工夫がされて、漬物の塩分量がかなり減ってきています。野菜を漬物にする過程で、ストレスを緩和して血圧降下作用も持つγアミノ酪酸(GABA)という物質が増えることがわかっています。さらに、私が行った実験では、タクアン漬けを摂取することで血圧上昇が抑えられて、腎機能が改善する効果も認められました。【解説】松岡寛樹(高崎健康福祉大学教授)

解説者のプロフィール

松岡寛樹(まつおか・ひろき)
高崎健康福祉大学教授。1992年、宇都宮大学農学部農芸科学科卒業。97年、東京農工大学大学院連合農学研究科修了、博士(農学)取得。群馬女子短期大学専任講師、高崎健康福祉大学短期大学部生活学科食物栄養専攻専任講師、高崎健康福祉大学健康福祉学部健康栄養学科助教授等を経て、2010年より現職。同大学大学院健康福祉学研究科食品栄養学専攻教授、17年、同大農学部設置準備室長を経て、19年より同大学農学部生物生産学科教授を兼担。

漬物にする過程で血圧降下物質が増える

塩分を気にして、漬物を食べるのを控えている人も多いのではないでしょうか。

減塩運動が活発だった1970年代に、漬物は塩分が多い代表的な食べ物として、できるだけ食べないように指導されていました。その影響で、いまだに漬物を食べるのに抵抗があるというケースも見受けられます。

しかし現在では冷蔵技術が進み、味付けにも工夫がされて、漬物の塩分量がかなり減ってきています。

加えて、発酵食品としての栄養効果も注目を集めるようになりました。野菜を漬物にする過程で、ストレスを緩和して血圧降下作用も持つγアミノ酪酸(以下GABA)という物質が増えることがわかっています。

さらに、私が行った実験では、タクアン漬けを摂取することで血圧上昇が抑えられて、腎機能が改善する効果も認められました。血圧や腎機能が気になるからといって、タクアン漬けを避けなくてもよいことが示されたのです。

もともと私は、タクアン漬けの材料である大根の機能性について研究していました。アミラーゼやプロテアーゼ、リパーゼなどの消化酵素が含まれていることは有名ですが、私はグルタミンに注目しました。

グルタミンは小腸のエネルギー源になるため、大根を食べてグルタミンを摂取することで、消化吸収が促されます。こうして栄養が効率よく吸収されるようになることが、健康効果を発揮すると考えたのです。

この大根をタクアン漬けにする過程で、グルタミンからできたグルタミン酸がGABAに変化します。このGABAに注目して、実験を行いました。

実験に使ったのは、加齢によって自然に高血圧が発症するラット(本態性高血圧ラット)です。ラットにタクアン漬けを与えて飼育し、血圧などの変化を調べました。

タクアン漬けについては、漬ける前に大根を脱水する方法として「日干し」と「塩押し」の2つがあります。日干しは文字どおり日光に当てることで、塩押しは大根に塩を振って重石を載せることです。

腎臓の排泄機能を反映するBUN値が低下

実験では、日干しタクアン漬けと塩押しタクアン漬けを使ったエサと、GABAを含むエサ、タクアン漬けを含まないエサを、それぞれラットに与えました。なお、エサの塩分濃度とGABAの含有量は一定にしています。

その結果、すべてのラットの最高血圧(収縮期血圧)は上昇していきますが、およそ200mmHgまで上昇した辺りで違いが現れました。タクアン漬けを与えたラットの血圧の上昇が、明らかに抑えられたのです。

また、血液を検査したところ、タクアン漬けを与えたラットのBUN(尿素窒素)値が低下していました。BUN値は、腎臓の排泄機能を反映しています。ですから、腎臓機能が改善していることが示されたわけです。

タクアンを与えた本態性高血圧自然発症ラットの血圧上昇が抑制された

さらに興味深いことに、GABAを含むエサを与えたラットよりも、タクアン漬けを与えたラットのほうが、ACE(アンジオテンシン変換酵素)活性が低いという結果が出ました。

ACEは、血管を収縮させたり、腎臓でナトリウムや水分が排出されるのを抑えたりして血圧を上げる物質(アンジオテンシンII)の生成を促す働きがあります。ですから、ACE活性が低くなれば、血圧は下がるわけです。

以上のことから、GABAのほかにも血圧を下げる作用がある物質が、タクアン漬けには含まれている可能性があるとわかりました。

この実験結果をまとめた論文は、イギリス王立化学協会が出版している学術誌『Food and Function』に掲載され、日本でも注目を集めました。

血圧降下や腎臓機能の改善効果が見られたラットが食べたタクアン漬けの量を、人間の大人の摂取量に当てはめた場合、1日当たり、日干しタクアン漬けなら60~85gで、塩押しタクアン漬けだったら62.5~125gになります。

もちろん、無理をしてタクアン漬けを食べなさいと言っているわけではありません。

ただ、タクアン漬けが好きなのに、塩分が高く、血圧や腎臓に悪そうだというイメージで敬遠している人がいれば、その必要がないことをお伝えできればと思います。

タクアン漬けをはじめ漬物は、日本の伝統食であると同時に、野菜の重要な摂取源でもあります。ぜひ、おいしく味わって食べてください。

この記事は『安心』2019年8月号に掲載されています。

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