私のクリニックでは、不妊や婦人科系の病気に悩む患者さんたちに、運動療法と栄養療法を柱とした治療を行っています。しかし「適度な運動をしましょう」と言っても「適度な運動って具体的になんでしょう?」と言われます。そこでお勧めなのが「骨盤リセット」です。【解説】出居貞義(大宮レディスクリニック院長・医学博士)
解説者のプロフィール
出居貞義(いでい・さだよし)
大宮レディスクリニック院長・医学博士。信州大学医学部卒業後、自治医科大学産婦人科学教室に入局。産科、婦人科などを経て、2004年、大宮レディスクリニックを開業。妊娠しやすい体を他力本願ではなく自己実現する不妊治療で、なかなか妊娠できない女性が簡単に妊娠できるようにするとともに、女性のライフクオリティーの向上と、安全な出産や産後の母子の健康づくりを進めている。
▼大宮レディスクリニック(公式サイト)
▼研究論文と専門分野(CiNii)
骨盤内の冷えが万病の原因
昔に比べて何事も便利になった現代社会ですが、体を動かさなくなる生活は、病気になるリスクも高めています。
健康を維持するためには、「適度な運動」が必須です。実は、不妊治療にも適度な運動は欠かせません。私のクリニックでは、不妊や婦人科系の病気に悩む患者さんたちに、運動療法と栄養療法を柱とした治療を行っています。
しかし、「適度な運動をしましょう」と言っても、「仕事や家事が忙しくて時間が取れません」とか、「適度な運動って具体的になんでしょう?」などと言われます。
そういったかたがたにお勧めなのが、「骨盤リセット」です。骨盤リセットは、朝晩のちょっとした時間で取り組めるうえ、誰でも簡単に行うことができる効果的な運動です(詳しいやり方は別記事参照)。
別記事:「骨盤リセット」のやり方→
骨盤リセットを習慣化することで、骨盤内の血流が改善され、骨盤の機能を高め、妊娠しやすい体になることが期待されます。
不妊に悩む女性の多くは、緊張しやすい性格です。そのため、体が硬くなっています。
“体が硬い”とは、筋肉が硬いということです。筋肉の中にはたくさんの血管が通っていて、筋肉が動かされて伸び縮みするポンプ作用によって、血液が全身に行き渡ります。
しかし、筋肉が硬くなることで、ポンプ作用が働かず、全身の血流が滞り、多くの不調が現れるのです。
骨盤は、腸腰筋や腹横筋、大腿四頭筋といった、体の中でも最大の筋肉群に囲まれています(下図)。骨盤リセットは、簡単な動きで、この大きな筋肉群を無理なく動かせます。
さらに、骨盤を動かすことで、全身の骨格と筋膜が調整されて、固まっていた筋肉がどんどん柔軟になります。その結果、骨盤内の血流はもとより、全身の血流がよくなっていくのです。
私の専門である不妊に関して言えば、骨盤内の血流が改善されると、子宮内膜が厚くなります。そうなると、卵子が着床しやすくなります。
また、不妊の人は骨盤内が冷えて、卵巣が機能低下していることが多く、そのため妊娠に必要なホルモンが分泌されにくい状態にあります。骨盤内の血流がよくなり、温まることで、これも解消されます。
骨盤リセットで生理不順が改善
骨盤リセットで筋肉が柔らかくなり、温まってくると、リラックス効果も期待できます。それによって、緊張も緩和されていきます。
不妊治療中の女性は、過大なストレスを感じている人が少なくありません。仕事や家事のストレスに加えて、夫の家族の妊娠を期待する言葉なども大きなストレスとなります。
このストレスがさらに妊娠を妨げているわけですが、ストレスを解消させれば、神経系、ホルモン系の働きが安定化し、生殖機能の向上につながります。
骨盤リセットは、不妊に限らず、重い生理痛や子宮内膜症(※1)、子宮筋腫(※2)などといった婦人科系の病気の改善にも有用です。
※1)子宮内膜組織が、子宮以外の場所で増殖、剥離を繰り返す病気
※2)子宮壁にできるこぶのような良性の腫瘍
これらの症状は、骨盤内の冷えが大きな原因です。骨盤リセットで骨盤内の血流がよくなれば、冷えが取れて温まるので、生理不順や生理痛などの不調や卵巣・子宮の病気も速やかに解消していきます。
当クリニックでは月に2回、骨盤リセットの講座を開催しています。参加者の多くが、不妊や婦人科系の病気、痛みやこり、ダイエットなどに効果を得ています。
ある人は、毎月重い生理痛に悩んでいたのですが、たった1回骨盤リセットを行っただけで、翌月から生理が軽くなりました。また、長年不妊に悩んでいたのに、自然受精に成功し、出産されたかたもいます。
そのほか、冷え症、肩こり、腰痛、便秘、むくみ、貧血、O脚の改善・解消や、下腹、ウエスト、ヒップ、太もものシェイプアップなどにも効果が出ています。
腰痛、肩こり、生理痛、冷えが大改善!
《骨盤リセットを実践して3カ月後の変化》
協力者:32名(平均年齢38.9歳、26〜50歳。一般不妊治療18名、ART14名)
骨盤リセットに参加されたかたの声を集めたのが、上のグラフです。こうしたデータは、茨城県立医療大学の長岡由紀子准教授と当院の不妊症看護認定看護師の塩沢直美らが共同でまとめ、日本受精着床学会総会で複数回発表してきました。
骨盤リセットは、とても効率よく筋肉を動かし、血流と代謝をアップさせる理想の運動です。