少人数世帯の増加に伴い炊飯器のトレンドが変わりつつある。最近は「少量をおいしく作りたい」というニーズが上昇。炊飯器にもその波が及んでいる。今回は「少量炊き」をコンセプトに多彩な製品をセレクトし、実際に試してみた。
目指せ!家電選びの達人今回の家電は「少量炊き炊飯器」
「たくさん炊いて、皆で食べる」から、「少量でもおいしく」へ。少人数世帯の増加に伴い、炊飯器のトレンドが変わりつつある。新米の季節を前に、炊飯器の売れ行きが伸びるこの時期。今回は、「少量炊き」をコンセプトに多彩な製品をセレクトし、実際に試してみた。
監修者のプロフィール
中村剛
TVチャンピオン」スーパー家電通選手権で優勝の実績を持つ家電の達人。家電製品総合アドバイザー、消費生活アドバイザー。東京電力「くらしのラボ」所長。現在、暮らしに役立つ情報を動画(Facebook)で配信中。
炊飯器へのニーズの変化
■少人数世帯が増え、「少量炊き」へとシフト
厚生労働省の調査(2018年)によると、全国における単身者・二人暮らしの少人数世帯は、全体の約60%を占めるという。その流れに沿うかのように、調理家電に求められるものも変わってきた。
かつては、一度にたくさんの料理を作れる製品が多かったが、最近は、「少量をおいしく作りたい」というニーズが上昇。炊飯器にも、その波が及んでいる。
実際、炊飯器の主力は、IH方式を採用した5.5合炊きモデルだが、それらの中に「少量炊き」をうたう製品が登場しているのは興味深い。また、「1.5合炊き」という廉価モデルも目立ってきた。
少量でもおいしく炊ける高性能なモデルから、手軽に使えるコンパクト機種まで、選択肢はずいぶんと拡大しているのだ。
今回は、それらの中から8機種を集めてみた。いずれも1合で炊飯し、使い勝手や炊き上がりもチェックした。参考にしてほしい。
※今回の炊飯では、新潟産コシヒカリを使用しました。
4合~5.5合炊きモデル
■少量を炊く専用コースを備える製品も登場
前述したように、最近の新しい動きは、5.5合炊きの定番モデルが、少量でもおいしく炊ける機能を強化していること。ふだんは1〜2合で十分だが、子供や友人などの来客時に備えて、5合を炊ける環境も残しておきたいというニーズに対応している。
そもそも、なぜ5.5合炊きで1合をおいしく炊けないのかというと、少量炊飯時は釜の中の上部空間が広くなって、熱効率などが最適になりづらいため。米一粒一粒に熱が均等に伝わりにくいと、甘みや弾力が乏しくなるのだ。
この“空間”の問題を、“熱”で解消したのが、日立の最新型。少量炊飯モードでは、スチームと側面ヒーターによる加熱で、上部空間の温度低下を抑制している。
スチームは、炊飯時に発生した蒸気を利用しており、うまみも還元されて一石二鳥。また、少量モードでも、3段階の食感の炊き分けに対応しているのも特徴だ。
ちなみに本機は、京都の米料亭総料理長の炊飯メソッドを取り入れ、銀シャリの理想である「外硬内軟(粒が張り、中はふっくら)」を実現していることが売りになっている。少量モードで1合を炊いてみると、多めに炊いたときよりやや水っぽさを感じたものの、「外硬内軟」は健在だった。
京の米老舗の炊飯メソッドを基に、一粒一粒を丁寧に炊き上げる新方式を開発。粒の輪郭と甘みが際立つ「外硬内軟」を実現した。
■日立
ふっくら御膳 RZ-W100CM
実売価格例:8万5190円
ふっくら御膳
RZ-W100CM
甘みが際立つ「外硬内軟」を実現
京の米老舗の炊飯メソッドを基に、一粒一粒を丁寧に炊き上げる新方式を開発。粒の輪郭と甘みが際立つ「外硬内軟」を実現した。
内釜の特徴
鉄とアルミを合わせた多層釜。底面の凸底形状で、発熱面積の拡大と泡の発生を実現。790グラムと軽量なのもポイントだ。
コース・ボタン
表示部は、明るくて文字が見やすい大型液晶。操作ボタンも大きくて、「少量」キーも目立つ場所に配置されているため、日常的に使いやすい。
炊き上がり
「少量」モードを「ふつう」の食感で約50分炊飯。今回は、少し水っぽさがあったが、しっかりと粒感があり、のどごしも心地いい。
タイガーは、専用の中ふたを採用することで、容積の問題を物理的に解消している。これにより、ベストな炊飯空間で1合の炊飯が可能になった。
中ふたは、内釜と同じ土鍋素材。高い蓄熱性と遠赤効果で、全方位から包み込むように加熱する。土鍋は、炊飯中に気泡が発生するため、沸騰時に米どうしがぶつからず、うまみを閉じ込めた、ハリのあるご飯を炊くことができる。
実際、「一合料亭炊き」モードで炊いた1合のご飯は、味、食感ともに文句のつけようがない、ハイレベルな炊き上がりだった。
■タイガー
炊きたて JPG-S100
実売価格例:11万460円
炊きたて
JPG-S100
土鍋炊飯の特性を生かした一台
炊飯時に気泡が発生する土鍋炊飯の特性を生かし、お米の表面を傷つけずにうまみをキープ。甘みがたっぷりで艶やかなご飯を炊き上げる。
内釜の特徴
伝統工芸品「四日市萬古焼」を使用した本土鍋。最高約280℃の遠赤効果による輻射熱で、うまみをじっくりと引き出す。
コース・ボタン
モーションセンサーを搭載し、人が近づくと表示が点灯するハイテク仕様。モードはパネルに直接タッチして選べるので、直感的な操作が可能。
炊き上がり
専用ふたを使う「一合料亭炊き」で約50分。ハリがあって、もっちりとしたかみ心地。水っぽさはなく、味が濃くて上質な炊き上がり。
象印では、昨年発売以来好調の「炎舞炊き」シリーズに、小容量の4合炊きタイプを追加した。炎舞炊きは、複数のIHヒーターでかまどの炎のゆらぎを再現し、甘みとうまみの強いご飯が炊ける人気機種だ。
1合を炊飯したところ、味わい豊かなご飯が炊けたが、少量の専用コースがないためか、やや軟らかめの炊き上がりとなった。
ただ、高性能機は炊き分け機能が優秀という強みがある。特に炎舞炊きは、しゃっきりからもちもちまで5段階に調整できるほか、81とおりから最適な食感を見つけ出す「わが家炊き」機能も装備。好みの味を見つけやすくなっている。
これらの3機種は、いずれも圧力IH式。近年のトレンドである、甘くてもちもちと、かみごたえのあるご飯を炊くことができる。
■象印
炎舞炊き NW-ES07
実売価格例:10万7780円
炎舞炊き
NW-ES07
二つのIHで、かまどの炎のゆらぎを再現
二つのIHヒーターを独立制御する新構造で、かまどの炎のゆらぎを再現。従来品の4倍以上の大火力で、甘みともちもち感を引き出す。
内釜の特徴
鉄をアルミとステンレスの間に挟んだ、話題の「豪炎かまど釜」。蓄熱性・発熱効率・熱伝導率のバランスに優れている。
コース・ボタン
視認性のいい「オレンジくっきり液晶」を採用。時間をかけてうまみを引き出す「熟成」や、おかゆに近い食感の「やわらか」など、メニューが豊富にそろっている。
炊き上がり
「ふつう」コースで1合を約50分炊飯。多めに炊いたときよりも、しっとりして粘度が高い印象。甘みやうまみが強く、味わい深い。
1.5合~3合炊きモデル
■圧力なしでもしゃっきり。小型モデルは扱いが楽
その一方で、圧力をかけず、さっぱり、しゃっきりとしたご飯を炊く少量モデルも人気だ。
バーミキュラのライスポット ミニは、5合炊きモデルのヒットを受けて登場した。人気の無水ホーロー鍋を炊飯器にしたもので、底面のIHと側面のアルミヒーターにより、鍋を包み込むように鍋を加熱。ホーローから強い遠赤外線を発生し、ご飯をムラなく炊き上げる。
調理が得意なのも特徴で、無水調理や低温調理、煮込みや蒸し料理などが、ほったらかしで上手に作れる。栄養価やおいしさで、レベルの高い調理ができると好評だ。
■バーミキュラ
ライスポット ミニ
実売価格例:6万9984円
ライスポット ミニ
RP19A
無水調理鍋+専用ヒーターで炊き上げ
炊飯用に進化させた、無水調理鍋と専用ヒーターによる新タイプの炊飯器。かまどの炎のような立体的な加熱で、米をシャキッと炊き上げる。
内釜の特徴
0.01ミリ以下の精度の高い気密性を保持する、全面鋳物ホーローの無水調理鍋を使用。底面に設けたリブで、米を躍らせる。
コース・ボタン
炊飯コースと炊飯量、炊き上がり時刻を設定して炊飯開始。光っているボタンを押していけば、迷わず操作ができる「スマートタッチキー」を採用している。
炊き上がり
「白米」「1合」が約1時間で炊き上がり。さっぱりと硬めで、カレーなどに合う印象。柔らかくしたい場合は、水加減で調整できる。
シロカの3合炊き炊飯器は、炊飯土鍋「かまどさん」を電気化したもの。多孔質な伊賀の粗土で作った土鍋が、呼吸をするように熱と水分を調整するため、しゃっきりと粒立ったご飯を炊くことができる。火加減の難しい土鍋ご飯が、家で簡単に炊けることで、ファンの多い製品だ。
土鍋は、本体から取り出して、おひつとしても使用可能。時間がたってもパサつくことなく、おいしく食べられる。
なお、いずれも、保温機能がなかったり、鍋が重くて洗いにくかったりといった面もあるが、ほかにはない雰囲気や付加価値が、製品の魅力を生んでいる。
■シロカ
かまどさん電気
実売価格例:8万6184円
かまどさん電気
SR-E111
人気炊飯土鍋「かまどさん」を電気化
累計出荷80万台の人気炊飯土鍋「かまどさん」を電気化した製品。土鍋をすっぽり包む構造で、直火炊きの熱伝達を再現している。
内釜の特徴
400万年前の古琵琶湖層の粗土で作られた伊賀焼土鍋。かまど炊きの温度推移の再現に適した肉厚構造を採用している。
コース・ボタン
操作部はタッチパネル式。ここで米の種類(白米、玄米など)や炊飯量を選べる。操作面が本体の側面についているため、やや見づらさがある。
炊き上がり
「白米」「1合」で約55分。シャキッとして風味豊かな炊き上がりに。土鍋は炊飯後の乾燥に時間がかかるため、1合だけ炊くのは効率がよくない面も。
最後に1.5合炊きだが、その長所は、狭いキッチンでも場所を取らないコンパクトさのほか、内釜も軽く、食器感覚で洗えるなど、扱いが楽なところ。
今回、見た目で最も小さいのがパナソニック。小型ながら、炊飯はもちろん、煮込み調理も可能だ。スイッチ一つの超シンプル設計で、海外旅行や出張に持っていく人もいるという。
コイズミも、炊飯と調理が可能。3時間保温と12時間までの予約炊飯に対応するなど、日常使いに便利な機能を備えている。
神明のpoddiは、加工された「ソフトスチーム米」の炊飯に対応し、0.5合を10分で炊けるスピード炊飯が自慢。もちろん、普通の白米の炊飯も可能だ。
最適な炊飯空間で炊くだけあって、いずれも艶や食感などのレベルが予想以上に高かった。ただし、火力が弱いせいか、ご飯の甘みや風味を引き出すまでには至っていない。とはいえ、おかずと一緒に食べるなら、これで十分という人も少なくないだろう。
■パナソニック
ミニクッカー SR-MC03
実売価格例:4670円
ミニクッカー
SR-MC03
レトロなデザイン。煮込み料理も可能
炊飯はもちろん、簡単な煮込み料理もできるレトロデザイン。調理の様子が見えるガラスぶたは、洗いやすく、手入れが楽。
内釜の特徴
フッ素加工の内釜。軽量なので、食器のように手軽に洗える。内釜を追加購入することも可能。
コース・ボタン
ボタンが一つのみの、割り切った設計。炊飯時に押し込み、終わると自動で切れる。調理での使用時は自動でオフにならないため、自分で押し上げる必要がある。
炊き上がり
事前浸水30分+加熱23分+蒸らし15分で約70分。炊き上がりは、艶があり、モチっとしたかみ心地。食感はいいが、味には物足りなさが。
■コイズミ
ライスクッカーミニ KSC-1513
実売価格例:6450円
ライスクッカーミニ
KSC-1513
コンパクトで、持ち運びにも便利
予約タイマーや保温など、日常使いに便利な機能を備えた小型モデル。マグネットプラグ&取っ手付きで、持ち運びにも便利。
内釜の特徴
コンパクトで軽量な内釜。内側には、水分量の目安を示す「0.5」「1」「1.5」の目盛りが記されている。
コース・ボタン
スイッチは四つ。明かりの点灯で、そのときの状態を知らせる(写真は炊飯中)。表示部では、保温経過時間や、予約時間までのカウントダウンなどを提示。
炊き上がり
事前浸水30分+加熱20分+蒸らし3分で約55分。粒感と艶があり、食感のよい炊き上がりに。味や風味は薄く、甘みは少ない。
■神明
ソフトスチーム米 炊飯器 poddi
実売価格例:4980円
poddi
AK-PD01
「ソフトスチーム米」対応の小型モデル
「ソフトスチーム米」に対応し、ご飯1膳を10分でスピード炊飯可能。小型ながら、玄米やおかゆなど、レパートリーが広い。
内釜の特徴
素材はアルミ合金。内側には、白米用と玄米用、おかゆ用の水位目盛りが記されている。
コース・ボタン
洗米・浸漬が不要で、普通の米よりも早く炊ける加工品「ソフトスチーム米」に対応。ソフトスチーム米/一般米の切り替えは、本体裏にあるスイッチで行う。
炊き上がり
ソフトスチーム米の白米コースで、蒸らし時間を含め約30分。柔らかくもちっとした食感だが、通常のご飯とは風味が少し違う印象だった。
まとめ
■少量炊きコースを持つタイガーと日立がハイレベル
今回の「1合炊飯」では、同じ米を使ったとは思えないほど、炊き上がりに違いが出た。
特に感じたのは、“炊飯空間”をベストにすることの大切さで、5.5合炊きモデルながら、少量の専用コースを持つタイガーと日立のレベルは、明らかに高かった。
一方、空間効率のいい1.5合炊きモデルは、廉価ながら意外に食感がよく、いい意味で期待を裏切られた印象だ。
なお、3合炊き以上の5モデルは、甘みやうまみが強く、おいしさがしっかりと引き出されていた。これほどハイレベルのご飯が、1合炊飯時でも食べられるようになったことは、少量炊きを求めるユーザーにとっては朗報といえるだろう。
※価格は記事作成時のものです。
取材・執筆/諏訪圭伊子(フリーライター)