日本聴覚医学会は2018年10月、耳鳴りの治療指針案をまとめました。耳鳴りの多くは薬剤治療の効果がなく、まずカウンセリングを丁寧に行い、耳鳴りとうまくつきあえるように支援することが強調されています。ですから今後は「治りません」と一蹴されるケースは減るでしょう。【解説】杉浦彩子(豊田浄水こころのクリニック副院長・国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科非常勤医師)

解説者のプロフィール

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杉浦彩子(すぎうら・さいこ)

豊田浄水こころのクリニック副院長・国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科非常勤医師。1998年、名古屋大学医学部卒。医学博士。2006年より国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科および疫学研究部にて、高齢者の聴覚を専門として臨床・研究に従事。17年より現職。耳科診療に精神医学的な加療も行う心療耳科外来を開設。

最初が最もつらくてそれ以上は悪化しない

耳鳴りに悩んで病院に行ったのに、「老化現象だから治らない」といわれ、絶望したかたは多いのではないでしょうか。

日本聴覚医学会は2018年10月、耳鳴りの治療指針案をまとめました。耳鳴りの多くは、薬剤治療の効果がなく、まずカウンセリングを丁寧に行い、耳鳴りとうまくつきあえるように支援することが強調されています。

この治療指針は、全国の耳鼻咽喉科医が目を通します。ですから今後は、「治りません」と一蹴されるケースは減るでしょう。

病状を丁寧に聞き、耳鳴りの機序をわかりやすく説明し、対処法を提案して、患者さんが安心して治療に臨める、そんな診療が進むと思います。

私自身、初診の患者さんには、「なぜ耳鳴りが起こるのか」「どう対処すればいいか」を説明したあと、「最初の1〜2年が最もつらく、それ以上は悪化しません。9割以上のかたは、気にならない程度まで改善します」とお話しします。「一生このままなのか」という不安を払拭するだけで、耳鳴りが軽減することも少なくありません。

そもそも、耳鳴りはどうして起こるのでしょうか。

耳鳴りは、「音を聞くしくみ」と密接に関係します(下の図を参照)。空気の振動が鼓膜を振わせ、中耳で増幅します。振動はさらに内耳の蝸牛で電気信号に変換され、それを脳が音として認識するのです。

《音が聞こえるしくみ》

画像: ❶ 外耳 :音を集めて中耳に伝える。 ❷ 中耳 :音を増幅して振動に変換し、内耳に伝える。 ❸ 内耳 :音の振動を電気信号に変換し、脳へ伝える。 ❹ 脳 :電気信号を受けて、音として認識する。

外耳:音を集めて中耳に伝える。
中耳:音を増幅して振動に変換し、内耳に伝える。
内耳:音の振動を電気信号に変換し、脳へ伝える。
:電気信号を受けて、音として認識する。

このしくみのどこかに問題が生じると、外からの音を脳が認識しづらくなります。いわゆる「難聴」「聞こえの低下」という状態です。

一般に、加齢によって聴力が低下すると、耳鳴りが始まります。それは、「外界の音が聞こえにくくなり、脳の中で鳴っている音が聞こえてしまう」からです。

私たちの脳内では、常に音が鳴っています。音の反響を最大限に抑えた「無響室」に入ると、誰でも「キーン」「シーン」という耳鳴りを感じます。ふだん耳鳴りが気にならないのは、外界の音によってカバーされているからなのです。

耳鳴りで受診する人の約半分に抑うつ傾向あり

つまり耳鳴りの改善とは、「静かな場所で耳鳴りを感じない」ではなく、「耳鳴りが気にならない」状態といえます。

ですから、耳鳴りの対処法はまず「静寂を避ける」ことです。聴力を補う補聴器療法や、外界の音で耳鳴りをカバーする音響療法が奏功するのも、静寂を避けて脳内の音をカバーするためと考えると、わかりやすいでしょう。

私は患者さんに、「いつ、どんな場面で耳鳴りが気になるか」を書き出してもらいます。

多いのは、「夜、布団に入ってから」というケースです。静寂のほかに、暗闇も耳鳴りに関係しています。私たち人間は、「暗闇は危険」と感じる本能があり、視覚が奪われると聴覚が敏感になります。ところが、聴覚が衰えているため、脳内の音が大きく聞こえるのです。

そういう場合は、就寝時に「ラジオやテレビを小さな音でつけておく」「風の音や川のせせらぎを収録したCDを流す」といったことを勧めます。

大切なのは、「意味のない雑音」であることです。抑揚が大きかったり、歌詞がついていたりする音楽や、内容がハッキリ聞き取れる話し声などは、かえって眠れなくなります。

また、日中は、ウォーキングなどの適度な運動をするように勧めます。血流改善と精神的なリフレッシュのためです。

耳鳴り治療において、精神面のケアは非常に重要です。実は、耳鳴りで耳鼻科を受診する患者さんの約半分に、抑うつ(気分の落ち込み)傾向があることがわかっています。

これは、脳の中で、精神的な苦痛を感じる大脳辺縁系が、音を聞き分ける視床や、音を感じる聴覚野とつながってしまい、耳鳴りが発症・悪化するためと考えられています。

強い不安や精神的苦痛があると耳鳴りが発症・悪化し、さらにストレスが強くなり、耳鳴りが増悪するという悪循環に陥ります。重症度にもよりますが、薬剤療法も音響療法も、単独では改善が難しいのが現状です。

ただ、耳鼻咽喉科と精神科が連携を取りながら、薬物療法と音響療法・カウンセリングを同時に行うことで改善する例は比較的多くあります。国立長寿医療研究センターでの症例は、学会に発表しました。

こうしたことからも、冒頭の日本聴覚医学会の「カウンセリング重視」という指針は、今後の耳鳴り治療に大きな変化をもたらすと期待しています。

最後に、よく質問される「耳鳴りによい食べ物」について、お話ししておきましょう。

基本的には、バランスよく適量を食べること。それに加え、私は亜鉛に注目しています。亜鉛は、新しい細胞が作られる際に必須のミネラルです。味覚障害との関連が広く知られていますが、耳鳴りや難聴との関係を示唆する先行研究も複数あります。

亜鉛はレバーなどの内臓や貝などに多く含まれ、ビタミンCといっしょにとると吸収がよくなります。これを意識すれば、自然と栄養バランスが整うというメリットもあるのです。

亜鉛の豊富な食材を使った料理も紹介されています。参考にしてください。

この記事は『壮快』2019年9月号に掲載されています。

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