【咳が長引く時】まずは何科に行けばいい?咳喘息は治る?

美容・ヘルスケア

咳が止まらない、咳が治らない、咳が長引く…中高齢者を中心に多い症状として挙げられる咳。風邪が治った後も、咳だけがなかなか治らない場合は、何科を受診したらいいのか。CTやMRIでの検査は必要か、いい医師の見分け方等を「長引く咳」の治療法に詳しい専門医に聞いた。

解説者のプロフィール

杉原徳彦(すぎはら・なるひこ)

医療法人社団仁友会仁友クリニック院長。医学博士。専門は呼吸器内科。日本内科学会認定医、日本アレルギー学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、全日本スキー連盟アンチドーピング委員。著書に『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)などがある。
▼研究論文・専門分野(NII学術情報ナビゲータ)

まずは、何科に行けばいいか?

長引く咳の場合、まず受診してほしいのが、「呼吸器内科」です。

呼吸器内科は、空気の通り道である気道のうち、下気道(声帯から下の気管支や肺など)を専門としています。
そこで、その長引く咳の原因を探ってもらい、かつ下気道に原因があった場合には、治療を進めてもらいます。

ただ、長引く咳の原因は、下気道だけでなく、上気道に属する「鼻」の疾患にあるケースが少なくありません。
その場合、その治療の専門は「耳鼻科」になりますが、最近は、日本の呼吸器内科の世界でも、下気道と上気道とに分けずに、気道を1本の「道」として見て治療していく、という考え方が浸透してきています。

上気道と下気道の違い。

なので、呼吸器内科でも、とくにぜんそく、さらにはアレルギーを専門にしている医療機関を受診すると、上気道と下気道を診てくれる可能性が高いでしょう。

一方、もし受診した呼吸器内科での治療が下気道中心で、それでもあまり効果を感じない場合、耳鼻咽喉科も受診してみるといいでしょう。

ただ、鼻腔にファイバーを通すファイバー検査や、レントゲン撮影だけでは、なかなか副鼻腔炎は見つかりません。
やはり、CTやMRIで検査してくれる医療機関を選んだほうがいいでしょう。

また、長引く咳を解消していくには、副鼻腔炎がどんなに軽度であっても治療をすることが欠かせません。なので、たとえ軽度であっても、きちんと治療してくれる医療機関を選ぶようにしましょう。

いい医者はどうやって見つけるか?

ただ、一般の人が「いい医師」を見つけ出すのは簡単ではありません。
昨今は口コミサイトなどもありますが、どこまで信用できるかわかりませんね。

そこで、医師の立場から、「いい医師」を見つけるポイントをお伝えするならば、待合室の混み具合をチェックしてみることです。
混んでいれば、「いい医師」がいる確率が高くなります。

というのは、混んでいるということは、医師が1人ひとりの患者の処置をていねいに行っている場合が多いからです。
もちろん、そのぶん待ち時間は長くなります。「いい医師」を見つけようと思ったら、ある程度「待つ」のは覚悟したほうがいいというのが、私の考えです。

長引く「つらい咳」は完治する?

「治療によって、この長引く咳は、完治するのでしょうか?」という質問を、患者さんからしばしば受けます。
みなさんにとっても、もっとも気になることでしょう。

咳がおさまるには、結局のところ、その原因となっている病気が完治することが肝心です。鼻や気管支などに炎症が多少でも残ってしまえば、再発の可能性が高くなるからです。

まず、咳喘息や気管支喘息は、基本的には治る病気です。

つまり、治療をすることで、気道の炎症を鎮め、咳や痰、息苦しさや喘鳴などの症状が出ない状態に戻すことはできます。
ただし、それは、「できるだけ早く治療をスタートすれば」です。

咳喘息も気管支喘息も、治療が早ければ早いほど完治する確率が高くなります。

逆に、そのまま放置する時間が長ければ長いほど、治りにくくなります。
場合によっては「年」単位の治療を覚悟する必要があります。

とくに、注意が必要なのが、気管支の炎症を長い間放っておいたことによって、気道が「リモデリング」という状態になった場合です。

リモデリングとは、炎症がくり返されることで、気管支の壁が次第に厚くなり、そのぶん、気道が狭くなった状態で固まることです。
こうなると、ぜんそくの症状がますます出やすくなり、その結果、さらにリモデリングを進行させる、という悪循環に陥ります。

なので、気管支ぜんそくを治すには、リモデリングが起きる前に治療をスタートさせることが重要なのです。

また、慢性副鼻腔炎においても、完治するのが厳しい患者さんもおられます。
治療を続けても、副鼻腔にくすぶる細菌を完全に取りきるのは難しいからです。
また、炎症をくり返すことで、副鼻腔内部が気管支ぜんそくのリモデリングのような状態になることもあります。

ですが、時間をかけて治療をすることで、状態をよくしていくことはできます。
私の感覚では、これも年単位です。
副鼻腔炎の治療はそれくらい長丁場になるのです。

それでも、治療を始めると、鼻づまりや鼻水、後鼻漏、さらには長引く咳といった副鼻腔炎の症状そのものは、意外と短期間でよくなります。治療を続けるうちに、そうした症状が再発しにくくなるのです。

「アレルギー性鼻炎」はアレルゲン次第で一生ものに

一方、アレルギー性鼻炎の場合は、アレルギーの原因物質によって、治りやすいものと、治りにくいものとがあります。
その人にとってのアレルギーの原因物質が、身のまわりにあればあるほど、アレルギー反応が起こるリスクは高くなります。

たとえば、季節性のアレルギー性鼻炎の1つに花粉症があります。

この場合、アレルゲンとなる花粉が飛散するシーズンが終われば、花粉症の症状は治まります。
そうした花粉が飛散しない地域に住めば、アレルギー反応とは無縁でいられます。
また、アレルギー体質を改善し、アレルギー性鼻炎を根本的に治していく治療(減感作療法)によっても、花粉症の場合、完治率が高いといわれています(減感作療法の完治率は、7割というデータもあります)。

ところが、通年性のアレルギー性鼻炎でもっとも多い、ダニやホコリなどのハウスダストがアレルゲンの場合、治しきるのは難しく、一生もののアレルギー性鼻炎となる方もいます。
身のまわりからハウスダストがゼロになることはないため、つねにアレルゲンにさらされざるを得ないからです。

ハウスダストに対するアレルギー体質を改善するための治療を行った場合でも、花粉症ほど完治率が期待できないのが現状です。

さらに、ハウスダストによるアレルギー性鼻炎の場合、その症状が穏やかなため、自覚していないケースも多々あります。海外の研究でも、症状がなくても鼻粘膜に多くの炎症細胞があることが確認されています。

そのため、アレルギー性鼻炎と診断されても、本人が治療に積極的になりにくいことが多いのです。
ぜんそくと同じく、治療のスタートが遅くなればなるほど、治りも遅くなりがちです。

いずれの疾患にしても、咳の症状が気になったときには、できるだけ速やかに医療機関を受診することをおすすめします。

次回は、それぞれの疾患について、現在行われている主な治療方法について見ていくことにしましょう。

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◆杉原徳彦(すぎはら・なるひこ)
1967年8月13日生まれ。杉原家は江戸時代から続く医師の家系で、17代目の医師になるものとして生を受けるが、レールの敷かれた人生に反発し、高校時代は文系を選択。部活のスキーの大会で肩関節を脱臼し手術を受けたことで、医師の仕事のすばらしさに目覚め医師を志す。94年、杏林大学医学部を卒業。2001年、同大学院修了。東京都立府中病院(現・東京都立多摩総合医療センター)呼吸器科勤務を経て現職。自らも喘息を患った経験があり、教科書通りの医療では良くならない患者がいることに疑問をもち、上気道と下気道の炎症に着目した独自の視点で喘息診療を行っている。仁友クリニックを設立し、喘息治療で功績を残した杉原仁彦は祖父にあたる。

※この記事は書籍『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

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