高野豆腐についてはコレステロールや中性脂肪など、脂質代謝の改善効果について多くの研究例がありました。これは「レジスタントプロテイン」の作用と考えられています。私が携わった実験は、糖質代謝にも関与していることを示唆しています。【解説】前本勝利(輝山会記念病院副院長・医局長・救急センター長)
解説者のプロフィール
前本勝利(まえもと・かつとし)
輝山会記念病院副院長・医局長・救急センター長。医師。日本人間ドック学会認定医。長野県飯田市にある輝山会記念病院において、副院長・医局長・救急センター長を務める。旭松食品と共同で、高野豆腐の健康効果について研究を進めている。
腸内で脂質や胆汁酸を吸着し体外へ排出
豆腐を凍らせ、乾燥させて作る高野豆腐は、大豆の栄養が凝縮された食品です。さらに最近では、高野豆腐にさまざまな健康効果があることが、実験や研究でわかってきました。
その一つが、糖尿病の予防・改善効果です。
私は、旭松食品研究所との共同研究を行い、ヘモグロビンA1cが高めのかた7人に、高野豆腐の含め煮を1日1枚(16.5g)、12週間続けて摂取してもらいました。
摂取前、4週間後、8週間後、12週間後に、ヘモグロビンA1cを調べたところ、摂取前と比較して、12週間後の値は有意に低下したのです(下の図を参照)。この結果は論文にまとめ、『薬理と治療』(2016年44巻9号)に掲載されました。
これまでも、高野豆腐の機能性については、コレステロールや中性脂肪など、脂質代謝の改善効果について多くの研究例がありました。
これは、高野豆腐に含まれる「レジスタントプロテイン」の作用と考えられています。レジスタントプロテインとは、体内の消化酵素で分解されにくいたんぱく質のことです。
レジスタントプロテインは、食物繊維と同じような働きをして、腸内で脂質や胆汁酸を吸着し、便といっしょに体外へと排出します。
有用なたんぱく質が大豆製品のなかでも抜群
私が携わった前述のヒト実験は、高野豆腐のレジスタントプロテインが、脂質代謝に加え、糖質代謝(糖尿病)にも関与していることを示唆しています。
そもそもこの実験は、2007年、『コレスチラミンという高コレステロール症の治療薬がヘモグロビンA1cも下げる』という論文が発表されたことがヒントになりました。
コレスチラミンは、腸内で胆汁酸を吸着し、体外へ排出することで、高コレステロール症を改善する薬です。この論文がきっかけで、「似たような作用を持つレジスタントプロテインも、血糖値を下げるのではないか?」と期待して実験が行われ、予想どおりの結果を得たのです。
なお、この実験で被験者に食べてもらったのは、高野豆腐の含め煮です。当然、砂糖やみりんといった糖質も含まれています。それでも血糖値が低下したのですから、レジスタントプロテインの働きがそれだけ大きかったと考えられます。
高野豆腐にレジスタントプロテインが多く含まれるのは、その製造工程に理由があります。
豆腐の原料である大豆は「畑の肉」といわれるように、良質なたんぱく質が豊富です。高野豆腐は、まず豆腐に強い圧をかけます。その圧によって、たんぱく質の分子が互いに強く結びつき、レジスタントプロテインが形成されるのです。
さらに次の工程で、ゆっくり時間をかけて豆腐を凍らせます。時間をかけてできた大きな氷の結晶によってたんぱく質が押され、ここでまたレジスタントプロテインが形成されます。
その後、高野豆腐は、零下の環境で3週間熟成します。この間に、氷の結晶はさらに大きく成長し、たんぱく質を強く押し、レジスタントプロテインがますます増加するのです。
このような製造工程を経るため、高野豆腐のレジスタントプロテインは、大豆製品のなかでも群を抜いています。
高野豆腐は含め煮のイメージが強いのですが、基本的には豆腐と同様に使ってかまいません。みそ汁の具をはじめ、麻婆豆腐や肉豆腐、揚げだし豆腐にしても美味です。
また、水で戻す前の高野豆腐を、おろし金やフードプロセッサーで粉末にして、小麦粉やパン粉、ひき肉のかわりに使うのもいいでしょう。