糖尿病の合併症【足の壊疽】を予防 足の動脈硬化「足梗塞」の進行を抑えるフットケア方法とは

美容・ヘルスケア

糖尿病は血管病ともいわれ、合併症の多くは末梢血管が動脈硬化でボロボロになってしまうことから発症します。その一つが糖尿病性壊疽です。【解説】小林修三(湘南鎌倉総合病院院長代行・腎臓病総合医療センター長、日本フットケア・足病医学会理事長)

解説者のプロフィール

小林修三(こばやし・しゅうぞう)

湘南鎌倉総合病院院長代行・腎臓病総合医療センター長、日本フットケア・足病医学会理事長。1955年、大阪市生まれ。80年、浜松医科大学卒業。NTT伊豆逓信病院内科部長、防衛医科大学第二内科講師、湘南鎌倉総合病院副院長などを経て、2017年より現職。19年、日本フットケア学会と日本下肢救済・足病学会を合併し、日本フットケア・足病医学会を新設。足病変の予防・早期発見、悪化防止を目指す取り組みをいっそう強化している。共著に『透析・糖尿病患者必読!フットケアで寿命を延ばす』(PHPエディターズグループ)など。

糖尿病性壊疽の主原因は足の動脈硬化!

皆さんは、「足梗塞」という病気をご存じでしょうか。脳梗塞や心筋梗塞なら知っているけど……とおっしゃる人がほとんどかもしれません。

梗塞とは、主に動脈硬化によって血管が詰まり、血流が止まるために、周囲の組織が死滅してしまうことです。血管は全身をくまなく巡っており、多少の差はあれ動脈硬化もいっしょに進行。梗塞も脳や心臓だけでなく、体の各所に起こる可能性があるのです。

足梗塞は、それが足にできる病変で、正式には下肢末梢動脈疾患(PAD)と呼ばれます。脳や心臓ならともかく、足にできる梗塞くらい、と思うかもしれませんが、決してあなどることはできません。

よくガンについて、「5年生存率」が語られますが、重症の足梗塞の人は、大腸ガンの人よりも5年生存率が悪いのです。

足を巡っている動脈のどこかが詰まると、その先の組織は死滅して傷ができます。これがいわゆる「壊疽(えそ)」です。

壊疽が進行すると、最終的には足を切断せざるをえなくなります。それだけではありません。切断しても、命の危険はついて回ります。

足の切断手術後の生存率
出典:『診断と治療』2012年4月号

ある研究では、切断手術を受けた人(透析患者は含まない)の1年生存率は75.4%、5年生存率は42.2%でした。このように生存率が低下するのは、感染症や脳・心血管障害などが併発しやすくなるためです。

足梗塞になりやすいのは、まず喫煙者と、糖尿病、高血圧、慢性腎不全、脂質異常症(高脂血症)などの病気を持つ人です。いずれも血管を傷め、動脈硬化を進行させる危険因子なのです。

なかでも、糖尿病は、足梗塞のリスクを跳ね上げます。

糖尿病は血管病ともいわれ、合併症の多くは末梢血管が動脈硬化でボロボロになってしまうことから発症します。その一つが糖尿病性壊疽です。

糖尿病性壊疽は、末梢神経障害だけではなく、足の動脈硬化がいちばんの原因であることがわかってきました。つまり、足梗塞そのものなのです。

糖尿病の人は、細菌などに対する抵抗力が弱いので、水虫や湿疹などの足の皮膚病にかかりやすくなります。また、神経障害で知覚も低下するため、小さな切り傷ができても、気がつかないまま悪化させがちです。

そうしたことが、壊疽への発症に拍車をかけてしまいます。

透析患者の4割以上が糖尿病性腎症が原因

さらに、壊疽と並ぶ糖尿病の三大合併症の一つに糖尿病性腎症(糖尿病性腎糸球体硬化症)があります。

腎臓では、糸球体が汚れた血液をろ過してきれいにするという大切な働きをしています。糸球体は無数の微小血管からなっており、これらの血管が動脈硬化を起こすと、ろ過機能が低下。体内に有害な老廃物がたまることで、体は衰弱していきます。これが糖尿病性腎症です。

腎症が進行すると、衰えたろ過機能を補うために人工透析を受けることになります。現在、透析治療を受けている人の4割以上が、糖尿病性腎症が原因といわれています。

この透析患者さんは、足梗塞になるリスクがきわめて高く、私たちの病院の調査では、37.2%に足梗塞が見られました。

主な理由は、血管の石灰化にあります。透析をしても排出しきれないリンが、血液中でカルシウムと結びつき、血管に付着して石灰化。そのため、もともとかたかった足の動脈が、さらにコチコチになり、足梗塞を進行させてしまうのです。

先に、足の切断手術を受けた人の生存率を述べましたが、透析患者で足の切断手術を受けた人は、1年生存率が51.9%、5年生存率が14.4%です(前項のグラフ参照)。透析を受けている人は、極端に生存率が下がるので、足梗塞には特に気をつけてください。

なお、足梗塞は重症度によって4段階に分類されます(フォンテイン分類)。

足梗塞の重症度分類(フォンテイン分類)
分類 症状
I度 無症状
ときどき、足先がしびれる、足が冷たく感じる。
II度 間欠性跛行
一定の距離を歩くと筋肉が痛み・ひきつりを感じて歩けなくなる。休息すると回復し、再び歩くことができる。これをくり返す。[200m以上で出現(IIa)、200m未満で出現(IIb)]
III度 安静時疼痛
じっとしていても痛みが出る。夜間などに足が強く痛む。
IV度 足の潰瘍、壊死
見た目にも明らかに異常が現れる。
※出典『フットケアと足病変治療ガイドブック』をもとに作成

I度は、動脈の閉塞はあるものの、ほとんど症状が出ない段階。ときどき、足先がしびれたり、冷たく感じたりすることがあります。

II度は、少し歩くと足に痛みが出て歩けなくなり、少し休むと回復。再び歩き出すと、また痛むということをくり返すようになります。こうした状態を「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」と呼びます。

III度になると、じっとしていても足に痛みが出てきます。

IV度は、足に潰瘍ができたり、変色したり、見た目にも異常がわかるような段階です。

III~IV度になると重症下肢虚血と呼ばれ、下肢切断の可能性が高くなります。

足梗塞は必ずしもI度から順に高くなっていくとはかぎらず、ある日突然、壊疽になっていたというケースもあります

特に糖尿病の人は、急激に進行することがあるので注意が必要です。

こうした足梗塞から身を守るためには、日ごろからもっと足をよく見て、異常がないか確認することが大事。そして、日ごろからフットケアを心がけることです。

フットケアの実践が足梗塞の進行を抑え、壊疽や切断のリスクを減少させるという、臨床研究によるしっかりしたエビデンス(科学的根拠)もあります。

私どもの病院では2012年度より、人工透析を受けている患者さん全員を対象に、独自に定めたフットケア・プログラムを実践していただいています。

その結果、フットケア・プログラム導入後は、足梗塞による足潰瘍の発生件数も、足潰瘍から切断に至る件数も、年を追うごとに減少しており、その有効性が実証されています。

次項では、フットケアの具体的な方法について紹介します。糖尿病や慢性腎臓病、透析患者さんはもちろん、高血圧などで動脈硬化が気になってきた人は、ぜひ実践してください。

寝たきりや介護の不安をなくし、元気で長生きを実現させるためにも、お勧めします。

できものや変質がないか足をじっくり見よう!

足梗塞など、足病に対する意識や警戒心が日本で低いのは、足に関する専門医がいないことが大きな理由と思われます。

欧米には、歯を専門に診る歯科医師のように、足を専門に診る足病医が数多くおります。ですから、足の健康に対する市民の意識も高いわけです。

ところが、日本には足病医はもちろん、足病という概念すらほとんどありません。

2009年、日本フットケア・足病医学会認定によるフットケア指導士資格制度が誕生。フットケア指導士は、フットケアの専門知識と技術を身につけた医療・福祉識者で、現在、その人数も全国に1500人を超えました。

ようやく足病対策の一歩が踏み出されましたが、臨床現場への反映や実効性となると、まだ多くの時間を要しそうです。

それだけに、自分の体は自分で守るという意味でも、糖尿病や透析の患者さんは、自らフットケアに積極的に取り組むことが非常に大切です

●足の自己チェック

フットケアで、まず行ってほしいのは、足の自己チェックです。これまで、自分の足を見ることは滅多になかったでしょうが、今後は入浴時や入浴後などにじっくり見る習慣をつけてほしいと思います。

チェックしたいのは、特に足の裏。直接見づらい場合は、鏡に足の裏を映して見ます。

タコウオノメ水虫、巻き爪など爪の変形外反母趾角質など、皮膚にできものや変質はありませんか。足の裏にこうした異常があると、痛みや違和感があるところをかばって歩くようになります。

すると、必要以上に負担がかかっている場所がうっ血して炎症が起こりやすくなります。これが壊疽(皮膚や皮下組織が死滅して変色している状態)の始まりになるのです。

血流の状態を見るには、皮膚の色温度もチェックします。黒ずんだり、青く変色したりした部分はないか、冷たくなっていないか。これらも血流が悪くなっている病変の一つです。

も見ましょう。足の甲の真ん中(靴のひもを結ぶ辺り)にある足背動脈に、手の人差し指、中指、薬指をそろえて触れます。拍動がわからない場合は、黄信号です。

血流の状態をチェックするには、「下肢挙上―下垂テスト」や「圧迫検査」など、自宅でできる簡易な方法もあります(下記参照)。

前者は、足を上げて白くなった皮膚が、下ろしたあとに1~2分待っても元の色に戻らなければ虚血が考えられます。血流がよければ、10秒前後で元に戻ります。

後者は、足の甲を指で押すと、押された皮膚の下は血管から血液が押し出されるので、白くなります。指を離したとき、すぐに元の肌色に戻らなければ要注意です。

足の自己チェック

❶足をよく見る

皮膚にできものや変質がないか
タコ、ウオノメ、水虫、巻き爪などの爪の変形、外反母趾、角質など。
皮膚の色を見る
黒ずんだり、青く変色したりしていないか。
皮膚の温度を確認する
触ってみて冷たくないか。

❷足の脈を見る

足の甲の真ん中(靴ひもを結ぶ辺り)に手の人差し指、中指、薬指をそろえて当てる。拍動があるかどうか確認。

❸足の血流状態を確認する

【下肢挙上─下垂テスト】

(1)ベッドであおむけになり、両足を上げて、足首を20〜30回回す。
(2)すぐに体を起こして座り、足を床につけ、足の甲の色の変化を見る。足を下ろして1〜2分待っても元の色に戻らなければ、虚血の疑いあり。

【圧迫検査】

(1)足の甲を手の指でグーっと押す。
(2)指を離してすぐに元の肌色に戻らなければ、虚血の疑いあり。

上のいずれかに異常があった場合は、フットケア指導士のいる医療機関などを受診する。

自己チェックで気になるような点があれば、早めに医療機関を受診するようにします。

その際は、できるだけフットケア指導士がいる病院を受診されることをお勧めします。わからない場合は、日本フットケア・足病医学会のホームページで検索してください。

●全国のフットケア指導士がいる医療機関
「日本フットケア・足病医学会」または「(旧)日本フットケア学会」のホームページで「フットケア指導士一覧」をご覧ください。

学会のホームページは下記のとおりです。
・日本フットケア・足病医学会 http://jfcpm.org
・日本フットケア学会 http://www.jsfootcare.org/

フットケア指導士のいる医療機関が近くになければ、まず血管外科、皮膚科、整形外科、形成外科に相談しましょう。

靴をはく前に小石が入っていないか要確認

医療機関にかかるとともに、自分でできるケアを行うことも大切です。重症化を防ぐ意味でも、するとしないのとでは、その差は歴然。足の切断の分かれ道になることもあるほどです。

まずは、食事運動です。

●食事

糖尿病の人は、食事の面では血糖値を調節する食事を心がける以外に、リンの摂取を抑えてください。血液中のリン濃度が上がると、カルシウムと結合して、血管の石灰化が進み、動脈硬化に拍車がかかるからです。

リンには、有機リン無機リンの2種類があります。魚介類や肉類、卵、乳製品、豆類に含まれるのが有機リンで、レトルト食品や冷凍食品、缶詰などの加工食品に含まれるのが無機リンです。

この2種類のリンの大きな違いは、体内吸収率です。

動物性食品に含まれる有機リンは4~6割、豆類などの植物性食品なら2~4割しか吸収されませんが、無機リンは9割以上も吸収されます

ですから、栄養の問題も含めて、加工食品をできるだけ控えて、無機リンを減らすようにしてください。

●運動

運動は、血流をよくするだけでなく、血管の改善、さらには糖尿病や高血圧、脂質異常症などの改善にも結びつくので、足梗塞や、その重症化の予防には大いに役立ちます。

透析患者さんでも、定期的な運動習慣がある人は、ない人に比べて長生きするという研究結果が多数報告されています。

運動は歩くのがいちばん。買い物に行ったり、台所や庭まで歩いたり、とにかく足を使って体を動かしましょう。1日30分以上を週3回以上が目安です。

●足のケア

足は常に清潔に保つように心がけましょう。足のすみずみまで丁寧に洗ったら、すぐにタオルでふき水けを取ります。足が乾燥ぎみでしたら、保湿クリームを塗って保湿し、細菌がはびこらないようにします。

お風呂上がりや就寝前にはマッサージで足の疲労を取り、血行の回復を図ります。足をさする、足首を回す、ふくらはぎや太ももをゆっくり押しもみすることで、足先まで血流がよみがえってきます。

自分でできる足のケア

❶足を清潔に保つ

(1)足をきれいに洗う
石けんを泡立て、泡で包み込むように、指と指の間など、足のすみずみまで丁寧に優しく洗う。皮膚を傷つけないように、道具は使わず手や指で洗う。あるいは、やわらかい綿のタオルを使う。
(2)保湿クリームを塗る
タオルで水けをふき取ったら、速やかに保湿クリームを塗る。
(3)家の中でも靴下をはく
裸足で歩くと傷ができやすいので、締めつけのない、吸湿性・通気性のいい靴下をはく。5本指の靴下がお勧め。

❷足の血流をよくする

【足をさする】
手指をそろえて、足全体を1〜2分まんべんなく優しくさする。

【足首を回す】

(1)イスに座り、左足首を右ひざの上に乗せる。
(2)左足首を左手で押さえ、右手の指で足先をつかむ。
(3)足首を時計回りに大きくゆっくり10回回し、反時計回りにも同様に10回回す。
(4)右の足首も同様に回す。

【ふくらはぎ、太ももをもむ】

(1)イスに浅く座り、両手の3本の指(人差し指、中指、薬指)をそろえて左のふくらはぎの左右中央に当て、親指はすね側にそえる。
(2)両手の3本指の腹で足首の少し上を数回押しもみしたら、少しずつ上にずらしながらひざ裏まで同様にもんでいく。
(3)さらに、ひざ裏から太もものお尻の手前まで押しもみする。
(4)右足も同様に押しもみする。

●靴の注意

最後に、靴の選び方も大切です。合わない靴をはくと、摩擦やスレで傷ができたり、足の変形につながったりして、歩行時の足底圧が不均衡になります。すると、虚血が進みやすくなるのです。

選ぶポイントは、
土踏まずとかかとがしっかり支えられる
甲が圧迫されない
つま先部分は指が自由に動かせる
足の蹴り返し部分は曲がるが、ほかの部分は曲がらない」などです。

足は午後のほうがむくむので、足の大きさが最大になる夕方に買いに行くのが理想です。

また、靴の中にクギの頭が出ていたり、小石が入っていたりすると、足に傷ができやすくなります。靴をはく前に、よく点検するようにしてください。

この記事は『壮快』2019年10月号に掲載されています。

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