【東北大式心臓リハビリとは】心筋梗塞の再発を防ぎ寿命を延ばす「心機能アップ運動」を専門医が解説

美容・ヘルスケア

心筋梗塞になって治療が終わり、運動療法から遠ざかると再発のリスクが高くなります。退院後の回復期・維持期の運動を約6ヵ月間しっかり続けると明らかに再発が予防でき、寿命を延ばせるのです。【解説】上月正博(東北大学大学院医学研究科教授・東北大学病院リハビリテーション部長)

解説者のプロフィール

上月正博(こうづき・まさひろ)
1981年、東北大学医学部卒業。東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻機能医科講座内部障害分野教授。東北大学病院リハビリテーション部長、同障害科学専攻長。日本心臓リハビリテーション学会理事。日本リハビリテーション医学会副理事長。日本腎臓リハビリテーション学会理事長。著書に『腎臓病は運動でよくなる!』(マキノ出版)、共著に『イラストでわかる 患者さんのための心臓リハビリ入門(第2版)』(中外医学社)など多数。

木を切る作業で狭心症のきこりの症状が改善した

心筋梗塞は死に直結する怖い病気。そう思っている人も多いでしょうが、近年の心筋梗塞の救命率は95%以上。万が一でも、適切な処置をすればほとんどの人は助かります。

しかし、治療を受けたから安心、というわけにはいきません。米国で2011年に行われた調査では、心筋梗塞で入院した患者の37.5%は、再発患者でした。

その翌年に日本で行われた調査でも、ほぼ同様の結果が出ています。心筋梗塞の治療を受けて助かっても、高い確率で再発する可能性があるのです。

心筋梗塞や狭心症、心不全といった心臓の病気は、長い間、安静が第一とされてきました。動くと心臓に負担がかかると思われていたからです。

ところが、米国で興味深い事実がありました。狭心症を患ったきこりが、のこぎりで木を切る作業をしていたら、胸の痛みなどの狭心症の症状がなくなったというのです。

こうしたことがきっかけとなり、心筋梗塞や狭心症の予後は、安静ではなく、適度な運動を行ったほうがよいという考え方が出てきました。

1999年に発表されたドイツの論文では、心不全についても、安静より運動がよいことがわかってきました。

慢性心不全の患者を、週に2〜3回の運動を行う群と、行わない群とに分け、その後の生存率を調べました。すると、運動を行わない群は、生存率が年年下がって、3年後には4割以下になりました。一方、運動を行った群は3年後も8割が生存し、5年にわたってそれが維持できたのです。

この論文から、心臓リハビリテーション(心臓病患者の生活指導、食事指導、服薬指導、運動指導など)による運動療法の本格的な研究が始まったのです。

では、実際に運動療法を行うと、どれくらい寿命を延ばせるのでしょうか。

それを調べた米国・ミネソタ州の研究があります。心筋梗塞の回復期(発症の6ヵ月後)に運動療法を行うことによって、患者の寿命がどの程度延びるのか、同じ年齢層の一般住民と比較しています。

■心臓リハビリ(運動療法)の効果1(心筋梗塞後の外来患者)

外来で運動療法を行わなかった

外来で運動療法を行った

上のAのグラフを見てください。これは運動療法を行わなかった患者群(平均年齢74歳・812人)の生存率を表すグラフです。一般住民と比べ年々生存率が下がり、6年後には約50%の人が死亡しています。

Bは、半年間しっかり運動療法を行った患者群(平均年齢61歳・1000人)の生存率を表すグラフです。こちらは一般住民と全く同じように長生きできています。さらに、再発率も28%減らせています。

このように、運動療法を行うと、再発が防げて寿命が大幅に延びることがわかります。

■心臓リハビリ(運動療法)の効果2
(心筋梗塞患者の重症度別)

上の棒グラフを見てください。これは心筋梗塞の重症度別に、運動療法の効果を調べた研究です。患者を最も重い1から、比較的軽い4まで四つの群に分け、半年間、運動療法を行ってもらったところ、どの群も3年後の死亡率が大幅(45〜83%)に低下しました。

大きな梗塞を起こして心臓の機能が落ちても、退院後に運動療法を行うと、予後が長期的によくなるのです。

こうした結果を受けて米国では、回復期の心筋梗塞の治療に積極的に運動療法を取り入れています。確実に効果のある方法ということで、運動療法は薬物療法や手術と同じように、寿命を延ばす医療の一つだと認められているのです。

呼吸筋の機能や血管の拡張反応が改善

心筋梗塞になって治療が終わると、病院で急性期の心臓リハビリを行います。しかし退院後、患者さんは、運動療法から遠ざかります。すると、いくら服薬や食事指導を守っても、再発のリスクが高くなります。

それを防ぐために、特に重要なのが、退院後の回復期・維持期の運動です。約6ヵ月間、運動をしっかり続けると、明らかに再発が予防でき、寿命を延ばせるのです。

しかし、心臓病の患者さんが一人で運動を続けるのは難しく、危険を伴うことがあります。

そこで私たちは、退院後の患者さんを対象に、心臓病や運動療法に造詣の深い心臓リハビリテーション指導士のもとで、心臓リハビリを行っています。

心臓リハビリでは、最初に運動負荷試験を行い、患者さんの体力や心臓の状態に応じた運動指導を行います。

運動は、ウォーキングや自転車こぎ、エアロビクスなどの「有酸素運動」と軽い強度の筋力トレーニングなどが中心です。それと同時に、患者さん自身でも運動を行ってもらいます。そうすることで、再発防止はより強固になります。

心臓リハビリの運動を行うと、筋肉量が増え、呼吸筋の機能や血管の拡張反応などが改善します。そのため、酸素の取り込み量が多くなったり、末梢血流がよくなったりします。その結果、心臓への負担が減り、心臓の機能も少しずつ改善するのです。

患者さん自身で行う運動としては、ウォーキング、自転車こぎ(エルゴメータ)、踏み台昇降などをお勧めしています。

全身を使ったきれいなフォームで行うと効果的です(下の図参照)。運動の強度は、軽く汗ばみ、息切れせずに会話できる「ニコニコ歩き」くらいです。

❶心臓リハビリ[有酸素運動]

■ウォーキングのやり方

最初は10分から始め、徐々に時間を延ばします。最終的には、1日30〜60分、週に3〜5回を目標にしましょう。

筋トレは、もも上げやつま先立ち、足上げなど(下の図参照)です。これら軽い強度の運動は、筋肉や骨の強化に役立ち、足腰を丈夫にします。

❷心臓リハビリ[筋力トレーニング]

■もも上げのやり方

お尻や太ももの筋肉を鍛える
足を肩幅に開いて背すじを伸ばして立ち、両手は腰に添える。
3〜5秒かけてひざが90度になるまで上げ、1秒静止する。
3〜5秒かけて元の位置に戻す。これを5〜10回くり返す。
右足も同様に行う。

■足上げのやり方

太ももの筋肉を鍛える
イスに座り両足のかかとを軽く上げる。
3〜5秒かけて左足を前に伸ばし、足先を上に向け1秒静止する。
3〜5秒かけて元の位置に戻す。これを5〜10回くり返す。
右足も同様に行う。

■つま先立ちのやり方

ふくらはぎの筋肉を鍛え、体のバランスを強化
イスの後方に立って背もたれに手をかけ、両足を肩幅に開く。
3〜5秒かけてなるべく高くつま先立ちを行い、1秒静止する。
3〜5秒かけて元の位置に戻す。これを5〜10回くり返す。

■上体起こしのやり方

腹筋を鍛える
あおむけになり、軽くひざを曲げ、両手を胸の前で合わせる。
ヘソをのぞき込むような感じでゆっくり肩を上げ、2〜3秒静止する。
ゆっくり元の位置に戻す。これを5〜10回くり返す。
※上体を起こし過ぎないようにする。

運動する際の注意

息を止めず、自然な呼吸で行いましょう。無理をせず、できる範囲から始めます。**脈拍数でチェックする場合は、安静時の脈拍数(1分間)に20〜30拍プラスした脈拍数で行います。

必ず体調を見ながら運動してください。

当日の体調はもちろん、翌日に疲れやむくみがあったり、1週間以内に体重が2kg以上増えていたりしたら、心不全が悪化している可能性があるので注意してください。

大動脈解離(大動脈の血管壁が裂ける病気)を起こしたことのある人は、最大血圧が150mmHg以上になると、再発の危険があるので要注意。

不整脈のある人は、運動後に不整脈が減るようなら大丈夫ですが、増えるようなら運動は禁物です。

残念ながら心房細動の場合、運動がよいというエビデンス(科学的な根拠)はありません。それ以外の心臓病なら、基本的には運動をお勧めします。その場合、心臓リハビリテーション指導士のいる施設(日本心臓リハビリテーション学会のホームページ参照)で受けると安心・安全です。

この記事は『壮快』2019年12月号に掲載されています。

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