肝臓へのダメージは、個人差はあれ、純粋なアルコールの摂取量で決まります。酒量の許容範囲は個人差も大きく、結局はお酒の楽しみと引き替えに、「どこまでのリスクを許容するか」という問題になります。【解説】浅部伸一(自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科元准教授)
解説者のプロフィール
浅部伸一(あさべ・しんいち)
自治医科大学付属さいたま医療センター消化器内科元准教授。1990年東京大学医学部卒業。東京大学附属病院、虎の門病院消化器科勤務を経て、国立がんセンター研究所で肝炎ウイルス研究を主に行う。その後、アメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所に肝炎免疫研究のため留学。2010年より自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科に勤務。専門は肝臓病学。ウイルス学。現在はアッヴィ合同会社所属。酒好きの肝臓専門医として、体に負担が少ない飲酒法などを教える。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
アルコール度数9%は危険?
近年、手軽に飲める缶チューハイが人気です。中でも最近、販売数が伸びているのが、「ストロング系」と呼ばれるアルコール度数9%の商品です。
「同じ値段でアルコール度数が高いなら、そちらのほうが得」というお得感があるため、ストロング系はよく売れ、それに応えるように、各社ともストロング系の展開に力を入れているようです。
しかし、ストロング系は本当に「得」でしょうか。
アルコールの量だけ見れば得でしょうが、「長くお酒を楽しめる人生」を目指すには、損だと私は思います。肝臓の専門医として、そして、お酒愛好家の一人の人間として、そう思っています。
肝臓へのダメージは、個人差はあれ、純粋なアルコールの摂取量で決まります。
厚生労働省が適度としている純アルコール量は、1日平均20gです。ただし、最近の研究では、「肝臓と体のためのベストは0。つまりお酒を飲まないことが健康には最もよい」という結果が出ています。
酒量の許容範囲は個人差も大きく、結局はお酒の楽しみと引き替えに、「どこまでのリスクを許容するか」という問題になります。
それを考える際に、重要なのが、「アルコールの量としてどのくらいとっているのか」を意識することです。
よく飲む銘柄のアルコール量を調べよう
お酒は、種類によってアルコールの度数(含有する割合)が違いますが、次の式を用いれば、1本当たりのアルコール量を計算できます。
【 アルコール度数 ÷ 100 × 内容量(ml) × 0.8 】
例(1)ストロング系(350ml)
9% ÷ 100 × 350(ml)×0.8 = アルコール量25.2g
例(2)ビールロング缶(500ml)
5% ÷ 100 × 500(ml)×0.8 = アルコール量20g
この計算式を使うと、例えばビールのロング缶1本(500㎖・度数5%の場合)の純アルコール量は20g、日本酒1合(度数15%の場合)は21.6gです。
ストロング系では、350ml缶で25.2gとなり、1本で厚生労働省の提唱する適量をはるかに超えます。
20gはおおまかな目安ですが、アルコールをとるほど肝臓と体にダメージが加わることを考えると、「いかに摂取するアルコール量を少なくしてお酒を楽しむか」が重要になります。
肝臓のために「強いお酒は一切飲むな」と言いたいわけではありません。強いお酒を飲む日、飲みたい日もあるでしょう。病気などで飲酒を禁じられている人以外は、それを楽しむ日があっても、もちろんいいと思います。
しかし、「得だから」「飲みやすいから」「手軽だから」という理由で、毎日のように惰性でストロング系を飲むことは、決してお勧めできません。「惰性で飲む」のでなく、「楽しんで飲む」ことを考えていただきたいのです。
アルコール摂取量は少しの工夫で減らせる
例えば、いつも飲むものより少しだけ価格の高いウイスキーを使えば、1対9くらいの水を多めにしたハイボールの割り方でも、おいしく楽しめます。
日本酒でも、好みに合う良質なものを、チビチビと楽しむのは、とてもよい方法です。
こうした飲み方を基本にしながら、たまに強いお酒を飲む日やつきあいで多めに飲む日もあるというのが、お酒の楽しみと肝臓へのダメージをてんびんにかけたときの、最も実際的なやり方でしょう。
飲み会のときにも注意が必要です。飲み放題のときは、「飲まないと損」という気持ちも手伝って、確実に飲み過ぎになります。
その対策として、1杯お酒を飲んだら、1杯ノンアルコールの飲料を挟むとよいでしょう。ウーロン茶や緑茶など、甘くない飲みものをお勧めします。
はた目にはウーロンハイや緑茶ハイを飲んでいるように見えて、目立たないのもメリットです。
1日の純アルコール量20gというのは、あくまでも目安で、実際には自分の体が許容できる範囲をモニタリングしながら飲むことが大切です。
下の検査数値を見ながら、正常値を超えない範囲で飲むようにしましょう。特に、γ‐GPTは、お酒を飲む人にとっては飲酒量(アルコールの摂取量)を反映しやすい検査値です。
高かったら即、いけないというわけではありませんが、検査のたびに上がって行くような場合は、全体的な飲酒量を見直す必要があるでしょう。
検査項目 | 正常値 | 意味 |
---|---|---|
AST (GOT) | 30IU/L以下 | どちらも肝臓に多く存在する酵素で、肝細胞が壊れると血中に漏れ出して増加する。そのため、血液中の量が肝機能値の指標になる。 |
ALT (GPT) | ||
総ビリルビン | 0.3~1.2mg/dl | 古くなった赤血球が破壊されるとき、その中のヘモグロビンが代謝されてできる黄色い色素。肝炎、肝硬変、肝がんなどで上昇する。 |
直接ビリルビン | 0.4mg/dl以下 | |
γ-GPT | 男性70IU/L以下 女性30IU/L以下 |
肝臓や胆管の細胞に存在する酵素で、それらの細胞が壊れると血中に出てくる。アルコール性肝障害のほか、胆管の病気で上がる。 |
検査値以外に、翌朝の体調に気を配ることも、酒量のチェックとして役立ちます。
二日酔いになるのは明らかに飲み過ぎですが、そこまでいかなくても、朝、起き抜けの体がだるい、頭が重いなど、酒が残っている感じがするなら、肝臓での解毒が追いついていない証拠です。
少なくとも日常的なアルコール摂取量は、そういった症状が出ない範囲にとどめましょう。
お酒を長く楽しみたいなら、肝臓を酷使するような飲み方はやめたいものです。ここに挙げたような工夫をして、健康を保ちつつ、ぜひ長い年月、お酒を楽しんでいただきたいと思います。
■この記事は『安心』2020年9月号に掲載されています。