2020年は、新型コロナウイルスによって私たちの生活や行動が大きく変わりました。そんな中、販売が伸びた空気清浄機ですが、皆さん気になるのは「空気清浄機はウイルス対策に効果があるのか?」という点だと思います。ただ、その前に空気清浄機に対する誤解も多いので、そのあたりを含めてウイルス対策に効果が見込める機種と機能を紹介したいと思います。
空気清浄機って効果があるの?
空気清浄機がどんな製品か、皆さんご存じですよね。たいてい四角い箱のような形をしていて、部屋の空気をきれいにしてくれます。
でも、一歩踏み込んで、その仕組みとか、期待できる効果とか、付加機能の話になると、人それぞれ理解度の差が大きくて、かなりの確率で誤解されている機能もあります。
プラズマクラスターやナノイーXは空気清浄機能とは別モノ。
たとえば、シャープのプラズマクラスター。「プラズマクラスターとHEPAフィルターって、どっちが高性能なの?」なんて質問されることがあります。「プラズマクラスターは空気清浄機能とは別モノなんですよ」と答えると、「え、そうなの?」といって説明を聞いてくれる方もいますが、なかには「そんなわけないだろ!」と怒り出すような方もいます。
また、機能に対する期待感や信頼感も人それぞれ。「ペットがいるから空気清浄機は必需品」「花粉の季節は空気清浄機がないと耐えられない」という人がいる一方で、「空気清浄機なんて気休め、必要ない」という人もいます。
臭いの感じ方やアレルギー症状は個人差が大きいので、こうした違いが出るのは仕方ないことだと思います。でも、「効果がない」と断定するのはどうかと思います。
HEPAフィルターって何?
風が強い日に砂ぼこりが舞い上がれば、誰でも分かるし、ほこりを吸いたくないと思うでしょう。実は、ほこり以外にも空気中にはさまざまな物質が漂っていて、その中には人の健康に悪影響を及ぼすものがあります。
たとえば、花粉やカビの胞子、PM2.5と呼ばれる小さな粒子、さまざまな菌やウイルスなど。さらに臭いも、人に臭いを感じさせる微粒子が空中に漂っているのが原因です。殺虫剤や防臭スプレーなども化学物資を含んでいて、使うたびに室内に放出されます。
空気清浄機の基本機能は、空気中の微粒子を集めること。
こうした空気中に漂う物質を集めて室内の空気をきれいにするのが、空気清浄機です。その方法は主に2種類で、まずフィルターで捉える方式。もうひとつは静電気で捉える方式です。ただし現在、家庭用の空気清浄機はほとんどがフィルター式です。
フィルターには規格があって、たとえば家庭用と業務用ではレベルが異なります。現在、多くの家庭用空気清浄機がHEPAフィルターと呼ばれるものを採用しています。このフィルターは、PM0.3(0.3マイクロメートル)の微粒子を99.97%以上捉えることができます。
イオンで空気を浄化って、どういうこと?
シャープのプラズマクラスター、パナソニックのナノイーX
では、シャープのプラズマクラスターやパナソニックのナノイーXは、どういった機能なのでしょう。これは、どちらも空気中にプラスイオンやマイナスイオンを放出して、そのイオンが花粉や胞子などを分解する、臭いの微粒子を包んで人が感じなくする、といったものです。
空気清浄機の基本機能は、本体に空気を吸い込んでフィルターでろ過すること。プラズマクラスターやナノイーXは付加機能です。
ちなみに、シャープは空気清浄機以外でもプラズマクラスターを搭載した製品をたくさん出しています。たとえば、エアコン、扇風機、冷蔵庫などがあります。
パナソニックのジアイーノ、ダイキンのストリーマ
次に、パナソニックのジアイーノですが、これは次亜塩素酸を使って菌やウイルスを減らす機能です。本体の中でも次亜塩素酸で除菌するし、空気中にも飛ばすのでドアノブなどに付着したウイルスにも効果があるとされています。
ただし現状、ジアイーノに対応した製品はフィルターで空気をろ過する機能がありません。そのため、空気清浄機ではなく空間除菌脱臭機と呼ばれています。
ダイキンのストリーマはまた違って、プラズマ放電で発生させた電子と空気中の酸素や窒素が一緒になって菌や微粒子、臭いの元を分解します。また、アクティブプラズマイオンといって、空中にイオンを放出して胞子や菌を無害化する機能も併用されています。
新型コロナウイルスに効果があるの?
一定の効果は期待できますが、万全とはいえない、といったところでしょう。どの機能も、メーカーはウイルスにも効果があるとしています。ただし、完全になくすわけではなく、あくまでも減らす効果が見込めるということです。また、どのウイルスに効果があるかは言っていません。
しかも、空中にイオンを放出しても、ほんとうに大量に出さないと効果を得にくいですし、空中でイオンの状態でいられる時間が短いので放出し続ける必要があります。
過剰な期待をしないこと
2020年9月、プラズマクラスターは新型コロナウイルスを減少させる効果があるという実験結果が報告されました。しかし、これは約3リットルの小さな空間に通常の数百倍の濃度でイオンを発生させた結果です。そして、シャープ自ら過剰な期待をしないように呼びかけました。
また、新型コロナウイルスは空気中に漂うマイクロ飛沫でも感染しますが、接触感染の率が高いとされています。たとえば、感染者が触ったドアノブに触れる、同じ食器や物を使うといったケース。なので、空気がきれいになっても別のルートで感染するリスクが常にあります。
やはり、マスクと手洗い、3蜜を避けるといった基本を守りつつ、プラス要素として空気清浄機を使うのが適当かと思います。
空気清浄機の選び方
以下の機種紹介を見ていただくと、多くが加湿空気清浄機となっています。現在は、加湿機能が付いた空気清浄機が多いのですが、加湿機能がない機種もあります。
また、機種によって対応する部屋の広さが異なります。実際に使う部屋より広い部屋に対応した機種を選ぶことが推奨されています。
ウイルス対策におすすめの空気清浄機【その(1)】
シャープ
プラズマクラスターNEXT搭載 加湿空気清浄機
KI-NP100
プラズマクラスターと加湿機能を搭載した空気清浄機です。プラズマクラスターには現在、3つのレベルがあって、この機種は最も性能が高いプラズマクラスターNEXTを搭載しています。プラズマクラスターNEXTは、従来のプラズマクラスター25000の2倍のイオンを放出する能力があります。
放出するイオンの濃度が高いほど対ウイルス効果が期待できるので、新型コロナウイルス対策のために空気清浄機の購入を考えている人は、できるだけ上位のプラズマクラスター機能を搭載した機種を選ぶといいでしょう。
なお、この機種のおすすめ畳数は23畳までとなっています(空気清浄機の場合)が、もっと狭い部屋で使うなら下位モデルもあります。ただし、プラズマクラスターがNEXTではなく25000になります。
空気清浄機
KI-NP100-W
ウイルス対策におすすめの空気清浄機【その(2)】
パナソニック
ナノイーX搭載 加湿空気清浄機
F-VXT70
パナソニックのナノイーX(エックス)は、シャープのプラズマクラスターと似た機能です。やはり空気中にイオンを放出して、空気中に漂う花粉やアレルギー原因物質を抑制します。抑制するというのは、人への影響を減らす、といった感じです。
もちろん、ナノイーXとプラズマクラスターには違いがあって、両メーカーは自社機能をアピールしています。しかし、極端な性能差があるようには思えません。
ちなみに、以前はナノイーでした。現在のナノイーXは、ナノイーの進化型で大幅に効果が上がっています。ウイルス対策を考えて選ぶなら、より高い効果を期待できる高濃度のナノイーXを搭載した機種がいいでしょう。
このF-VXT70は、対応する畳数が31畳までとなっています。さらに広い部屋で使いたい場合は上位モデルのF-VX90があります。逆に、もっと狭い部屋で使う場合は下位モデルもあります。
加湿空気清浄機
F-VXT70
ウイルス対策におすすめの空間除菌脱臭機【その(3)】
パナソニック
次亜塩素酸 空間除菌脱臭機 ジアイーノ
F-MV4100
前述のように、この製品は空気清浄機ではありません。空気中に漂う花粉や微粒子をフィルターでろ過する機能は付いていません。あくまでも、次亜塩素酸によって空気中の菌やウイルス、臭いを抑制する、つまり減らす機器です。
ただし今回、この記事はウイルス対策に効果を見込める機器を紹介するのが趣旨なので、他の空気清浄機と同列で紹介しています。
次亜塩素酸は、掃除が好きな人は知っていると思いますが、知らない人も多いでしょう。ようは、漂白剤の一種で殺菌効果がある物質だと思ってください。
濃度が高いと塩素系の臭いがしますが、ジアイーノは環境基準より低い濃度で次亜塩素酸を放出しているので安全性に問題はないとされています。メーカーで独自に評価試験も行っています。
さて、2020年の初夏、いち早く売り切れたのがジアイーノでした。ネットでウイルス対策に効果があるという説が広まったためと思われます。実際、パナソニックはドアノブなどに付着した菌やウイルスを減らす効果があるとしています。ただし同時に、新型コロナウイルスに対する効果は検証していないと自社サイトで公表しています。
夏ごろは入手が困難だったジアイーノですが、秋には追加生産の体制が整って販売が再開されました。菌やウイルスが気になる人は、予防方法のひとつとして使ってみるといいかと思います。消臭効果もあるので、ペットがいる家や在宅介護している家でも使用例が多いようです。
ジアイーノ
F-MV4100
ウイルス対策におすすめの空気清浄機【その(4)】
ダイキン
加湿ストリーマ空気清浄機
MCK70X-T
エアコン大手、ダイキン工業の空気清浄機も信頼性が高くて人気があります。この機種は、加湿機能とストリーマ機能を持った空気清浄機ですが、さらに上位には除湿機能まで搭載した機種があります。
ダイキンの除菌、抗ウイルス機能は2種類あります。まず、プラズマクラスターやナノイーXと同じように空中にイオンを放出するアクティブプラズマイオン。見込める効果も、同じように思っていいでしょう。
もうひとつは、本体の中でプラズマ放電して電子を発生させ、その電子と空気中の酸素や窒素が一緒になって菌や微粒子、臭いの元を分解するストリーマ機能です。こちらはダイキン独自の機能で、製品特性として強くアピールされています。
どのメーカーのどの機能も、一定の効果は期待できますが、菌やウイルスを完全に取り除くことはできません。それなら、異なる方法で二重に抑制する方が高い効果を得られるかもしれません。
加湿ストリーマ空気清浄機
MCK70X
ウイルス対策におすすめの空気清浄機【その(5)】
ダイソン
Pure humidify+cool 加湿空気清浄機
PH01WS
今も、ダイソンの空気清浄機を羽のない扇風機だと思っている人がいますが、現行機種はすべて空気清浄機がメイン機能となっています。そして、最もシンプルな機種が「空気清浄機+扇風機」、いわゆる「ホット・アンド・クール」が「空気清浄機+ヒーター+扇風機」、そしてここで紹介している機種が「空気清浄機+加湿器+扇風機」という組み合わせです。
他社の空気清浄機が加湿機能付きだったので、それに合わせて加湿機能がある機種を選びました。しかし売れ筋は、ヒーター機能が付いた「PH04WS N/IB N」となっています。
さて、これまで紹介した他社の機種は、空気清浄機とは別に空気イオンや次亜塩素酸を空気中に放出して花粉や微粒子、菌やウイルス、臭いなどを抑制する(減らす、無害化する)方式でした。しかし、ダイソンの空気清浄機には空気イオン等を放出する機能が付いていません。唯一、フィルターだけでウイルスサイズの超微粒子まで捉える方式となっています。
前述のように、一般のHEPAフィルターはPM0.3(0.3マイクロメートル)の微粒子を99.97%除去する性能があります。ところが、ウイルスの大きさはPM0.1(0.1マイクロメートル)。つまり、一般的なHEPAフィルターはウイルスを通過させてしまいます。
しかし、ダイソンのグラスHEPAフィルターは、PM0.1レベルの微細な粒子を99.95%除去する能力があります。しかも、一般的な空気清浄機は、吸い込んだ空気の一部をフィルターを通さないで室内に戻しています。しかしダイソンの製品は、吸い込んだ空気を100%ろ過して排出します。
花粉やカビの胞子、PM2.5などはウイルスより粒子が大きいので問題なくろ過されます。また、臭いや化学物質は活性炭フィルターで吸収します。
「空気イオン方式は、効果がよく分からない」という人は、フィルターで物理的にウイルスサイズの微粒子まで捉えるダイソンの空気清浄機を試してみてはいかがでしょうか。
空気清浄機
PH01WS
まとめ
新型コロナウイルスの最もやっかいな点は、あまりにも小さくて目に見えないことだと思います。空気清浄機は、確かに空中に漂う目に見えない小さな有害物質を減らす効果があります。
とはいえ、ウイルスのサイズは花粉の100分の1くらい。本当に微細なものです。このサイズを捉えることができるフィルターは少なくて、そのために空気イオンなどで分解する方式が併用されているともいわれます。
ウイルス対策を期待して空気清浄機を買うなら、できるだけ高性能なものを選ぶといいでしょう。
解説/高山とほ(プロダクトライター)
約5年に渡って家電量販店の店頭に立ち、いろいろなお客様に対応した経験から「それぞれのお客様にとって最適な製品を選ぶポイントを的確に伝える」ことをモットーにしているモノ派のライター。学生時代に工業デザインを学び、日本製家電の黄金期に郷愁を感じる世代。アウトドアを好み、道具にはこだわるほう。