HSPにはさまざまなタイプがありますが、共通しているのは刺激に過敏に反応するという点です。その対象が、大多数の人の感知可能な範囲を越えているため、必要以上にエネルギーの消費が多く、疲れやすい状態となっています。本稿は『敏感すぎて生きづらい人の 明日からラクになれる本』(永岡書店)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。
まずはHSPについて知ろう!
HSPにはさまざまなタイプがありますが、共通しているのは刺激に過敏に反応するという点です。変化したものや目新しいもの、微妙な感情、場の雰囲気、身体の感覚などささいなことに敏感な人がいます。
こうした背景には、生まれ持った神経の性質があるからだと考えられています。
また、HSPは、自分の状況を見て過去に似た記憶がないかを確かめる「用心システム」と、新しい経験を求めて挑戦したくなる「冒険システム」という2つの異なる神経システムがあり、その組み合わせとバランスの違いによって、4つのタイプに分かれます。
神経機能やホルモン分泌、免疫応答がその機能を最大に発揮するためには、最適な刺激が必要であり、刺激が多すぎても少なすぎても不十分であるという法則があります。
しかし、慢性的な神経の高ぶりや子ども時代のトラウマがあると、HSPは不安になりやすく、気分がふさぎやすく、強迫的になりやすくなります。
このような状態がさらに進むと、ものごとを回避したり、感情や感覚が麻痺したり、フラッシュバックが起きたり、決められなくなったり、マイナス思考になったりします。
こうした場合は、いち早くHSPの特徴に気づき、安心・安全の場に身を置き、十分に心と体を休める必要があります。
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多くのHSPには芸術的な面があり、微妙な表現を楽しんだり、芸術を深く愛したりします。ささいな違いに気づき、こだわりが強いために心配性で、完璧主義で自分に厳しいという特徴もあります。
そのほか、HSPは共感性に優れ、創造性豊かですが、空想的で現実をよく見ていないということも多いです。他人の苦しみを察知し、どう癒すかを感じとる力があるので、奉仕する仕事に向いてはいますが、ストレスを受けすぎて疲れ果ててしまいやすい傾向もあります。
HSPには魂を意識するようなスピリチュアルなところがあり、言葉にはできない心の豊かさを持ち、思いやりにあふれています。心理学者ユングの性格分類でいうと内向直感型が多く、現実的なものよりも、芸術的なものやスピリチュアル的なものを好みます。
自分の内なる声に耳を傾け、人生の意味や本質を見つけていきますが、良心的なHSPであっても抑圧され否定された心の闇や陰が存在し、まれにそれが表に出てくることもあります。
生きづらさはどこからくるの?
感受性が豊かで、内面的な世界を大切にするHSP気質は生まれつきのものですが、性格や人格は母親の胎内にいる時から作られます。
けれども、敏感で臆病で引っこみ思案な性質のために、家庭、学校、成長してからは社会、地域からその豊かな個性を認められず、HSPにとっては自分らしく育つのが難しい環境があります。
一般的に敏感さと恥ずかしがりや臆病は混同されることが多く、本当は敏感な神経システムを持っているだけなのに、内気で社会性に乏しいと思われてしまいます。
社会性や愛着形成に重要な役割を果たすオキシトシンを分泌する神経システムがありますが、この神経の発現が遺伝的に強いネズミと弱いネズミの系統が知られており、それは生まれ持っての違いではありますが、育つ環境によってその発現の程度が調整され、しかもその調整は世代を越えて遺伝することがわかっています。
おそらくHSPに関係する遺伝子は多様であり、敏感さの表れ方は環境に左右され、敏感さの種類や程度も親とは違って当然です。
現実の混沌とした世界にあって、人間の見方や考え方、感じ方、受け取り方の違いのために1人ひとり違った世界を持つといわれています。ストレスも同じで、同じ状況があってもそこにいる人の感受性次第で、幸せにも不幸にもなってきます。
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人間の脳や心、体は、意識して動かすこともできますが、ほとんどは無意識で動いており、習慣化された脳や心のパターン(癖)として自動化されています。
外界に意識を向けて自分に必要なものを取り入れたり、脳や心にある記憶や感情を無意識に取り出したり、意識下のパターンに従って、自分のセルフイメージに沿うものを選び出すというしくみがあります。人の行動や反応は、人との関連で作り上げられたセルフイメージに左右されています。
人は生まれた時、すでに与えられた資質を持っていますが、成長するにしたがっていくつもの思い込みや心のパターンを作り上げ、それが自分らしさや本来の自分だとイメージしています。
それが生きづらさにつながってしまうなら、そのパターンやイメージを変えていくことが必要ではないでしょうか。
HSPは何に対して敏感なの?
人の脳の働きには、外界からの情報を感覚受容器が受信して、脳内で処理され、認識されて身体反応として表出される経路と、すでに脳内にある情報が処理され、認識されて表出される経路があることが知られています。
脳内の処理経路にも大脳皮質を介して意識にのぼる、「正確ですが遅い」ものと、大脳辺縁系を介して意識にはのぼらず「大雑把ですが速い」ものとがあります。
また、人間の脳には他人のしていることを、見ているだけでまるで自分がしているように反応して活動するミラーニューロンシステムがあります。このシステムにより、自分が体を動かさなくても動かしたと感じるような効果を持つことができます。
人間は、思考や感情が自分で認識され表出される前に、すでに脳内での神経活動や内臓、筋肉の反応があるとされています。
さらに驚かされるのは、何も意識的な活動をしていない安静状態の脳の活動エネルギーは、意識的な反応に費やされる場合の約20倍にも達するといわれています。
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五感の中でも触覚は特別な感覚です。例えば、「触る」と「触られる」の違いや、皮膚から少し離れた場所でも脳が自他の境界として認識することや、体の外側ばかりでなく、体の内部の”管”の表面も皮膚と考えることができること、他人の感情を皮膚感覚として感じられることなどがあり、触覚は「命の感覚」などといわれています。
量子力学の理論によると、人間の感覚では捉えられない極微の世界では、エネルギー情報は物質としてもエネルギーとしても相互変換しながら存在可能であり、物質化していないエネルギーに満ちていることが知られるようになりました。
そうであれば想念や感情、言葉などの目に見えないものにもエネルギーがあり、人間の脳や体の受容器で感知され、大脳皮質で意識化されたり、大脳辺縁系を介して無意識の反応を身体にもたらすと考えてよいかもしれません。
要するに、人間の脳や身体には五感や、五感では捉えられないエネルギー、さらに体の内側から生まれる刺激にも反応するしくみが存在し、その感受性が人ひとり違っているということではないでしょうか。
HSPにおいては大多数の人が使っていない受信チャンネルが開かれていたり、多くの人が使っているチャンネルの増幅機能が大きいと考えられます。
HSPに共通する特徴
HSPに共通する特徴は、感覚処理過敏症であり、神経の高ぶりやすさといえます。その表れ方はさまざまであり、どのような感覚にどの程度の反応を示すかは人それぞれで、その感受性の調整の仕方も異なります。
「刺激に敏感すぎる」
大多数の人の感知可能な範囲を越えて、身の周りに存在するさまざまな刺激に対し敏感に反応します。
その対象は、五感や五感を超えたもの、認識できる周波数やそれを超えたもの、体外の刺激や体内の神経活動にも反応を示すため、他人からは何もしていないように見えても本人はたくさんの神経活動をしていて、必要以上にエネルギーの消費が多く、疲れやすい状態となっています。
「心の境界線がもろい」
自分と他人を区別する境界線(バウンダリ)にはさまざまなものがありますが、多くのHSPの一番の悩みの種は、自分の境界線がもろいことです。
境界線のバリアーが弱いため予期せぬほどたくさんの人に嫌な思いをさせられたり、人間関係の泥沼に引きずりこまれたりしますので、必要以上の刺激をシャットアウトするためには境界線を強くする努力が必要です。
多くの人は成長の過程で自分独自の境界線を手に入れ自分を守りますが、HSPの場合はそれがとても弱く、侵入されたり壊されたりしやすいのです。そのため、境界線を越えて、他人のネガティブな感情やエネルギーに影響を受けてしまうのです。
「疲れやすい」
いつも周りに気を遣いすぎて、自分で気がつかないうちにヘトヘトに疲れてしまうのもHSPの特徴です。光や音であふれている街中だけでなく、慣れているはずの職場や学校でも神経が張りつめていて疲れきってしまいます。
寒さの中で身を震わせている時、かなりのエネルギーを消費して疲労しますが、それと似たように、不安と緊張で身動きできず、たくさんの思いが頭をかけめぐって周囲に気を遣っている時などは、本当に疲れてしまうものです。
楽しく遊んだあとでさえ、神経の興奮と疲労のために体調不良を起こしてしまうことがあります。
「人の影響を受けやすい」
HSPは右脳的な能力に優れており、感情や感覚、イメージ、直感などが協働して活性化する共感性が強すぎたり、相手の表情や声のトーン、仕草などに無意識に反応して相手と同調してしまう同調性が過剰だったりします。
急に生じた感情や感覚が、実は周囲の人のものだったりするのです。しかし、この生まれつきの敏感さのおかげで、相手の悩みを聞きださなくても内面や心情を察し、そっと人の心に寄り添うこともできるのです。
「自責や自己否定が強い」
HSPは未来に新しい刺激を求める「冒険システム」よりも、過去を振り返って刺激を避ける「用心システム」の働きが強いために、自分を脅かす強いストレスが生じた時に、ストレス反応を完遂できず、怒り・悲しみ・恐れの感情が残りやすく、否定的感情がたまっていきます。
自分を責める心があると他人から自分への攻撃を引き寄せ、内心にたまった怒りが他者への攻撃となっていきます。こうした理由から人との関わりは苦手で、生きづらさを招いてしまうことがあります。
「予感や直感が強い」
HSPの性格としては内向・直感型が多く、誰に教えられたわけでもないのに、未来の予知や物事の本質、周囲の雰囲気がわかってしまうことがあります。
サイキックな感性や能力を持ち、スピリチュアルな体験を持つ人も少なくありません。地に足をつけることを学ばないと、かえって慢性的な神経の高ぶり状態になってしまうかもしれません。
意思決定をするとき、非HSPは現実から判断材料をそろえてよく吟味した上で結論を出しますが、HSPは直感的にたくさんの情報を得られるので考える時間を待たず、すぐに結論を出すこともあります。
■イラスト/森下えみこ
■本稿は『敏感すぎて生きづらい人の 明日からラクになれる本』(永岡書店)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
HSPに関する知識や理解は、心の専門家たちにおいてさえ、まだまだ不十分であり、敏感すぎる自分にどう対処してよいかわからずに困っている人たちがたくさんいます。本書は、HSPの性質からもたらされる日常生活の生きづらさについて、具体的説明や対策などについて、脳科学的知識を入れてなるべくわかりやすく解説しています。
著者のプロフィール
長沼睦雄(ながぬま・むつお)
十勝むつみのクリニック院長。日本では数少ないHSPの臨床医。平成12年よりHSPに注目し研究。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。道立子ども総合医療・療育センターにて14年間小児精神科医として勤務。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行っていた。平成28年9月に開業し、HSP診療を中心に診療し、脳と心(魂)と体の統合的医療を目指している。
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