HSPとは「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」を略したもので、「とても敏感な人」「繊細な人」の意味です。ふとしたことで敏感に反応してしまうため、生きづらさを感じたりすることがあります。HSPは病気ではありません。環境や性格などによる後天的なものではなく、先天的な気質であることがわかってきました。本稿は『敏感すぎて生きづらい人の 明日からラクになれる本』(永岡書店)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。
HSPは病気ではない
エレイン・N・アーロン博士が、自分の生まれもった神経の細やかさや高ぶりやすさは、感覚刺激に対する「過敏性」なのだという考えに25年の歳月をかけて行き着き、「HSP」(非常にセンシティブな人)という概念にまとめあげ、『The Highly Sensitive Person』を出版したのが1996年のことです。
この本はアメリカだけでなく世界各国で大きな反響を呼び、世界的な大ベストセラーになり、その後の日本でもHSPに関する数多くの書籍が発行されて、大きな注目が集まっています。
HSPは、それまでは恥ずかしがり屋、内向的、引っ込み思案、始めるのに時間がかかる、怖がりなどと呼ばれていた性質の背景にある「感覚処理過敏性」(sensory processing sensitivity)に注目して概念化したもので、アーロン博士は心理学的な愛着や気質や性格理論だけではなく、神経科学の最先端の脳理論とユング心理学的なスピリチュアルな解釈をも取り入れ、とても包括的で統合的な視野のなかで敏感さについて議論しています。
その後の研究により、HSPの根底には、「深く処理する」「過剰に刺激を受けやすい」「全体的に感情の反応が強く、特に共感力が高い」「ささいな刺激を察知する」の4つの性質が必ずあり、HSPは多数派が持たない少数派の気質であって、大多数のなかの程度の差ということではなく、少数派のなかにも程度の差があるとアーロン博士は説明しています。
HSPは純粋で感度が高く直感にすぐれていますが、自他を区別し自分を守る境界線(自我)が弱いので、周りの負のエネルギーに狙われたり、エネルギーを吸い取られてしまう傾向があります。
自己の成長のためには、「苦手なものとは物理的な距離を取り」「ネガティブなものを吐き出し」「自分を守るシールドを作り」「こまめに休息を取り」「一人の時間を確保する」ことが必要です。
人は生まれ持った特性や気質だけではなく、親や地域、時代の常識、価値感などを否応なく請け負わされ、それとして生きて行く運命を背負っていますが、一方で、「現実のプラスの面にだけ目を向け」「自分に必要なものだけを切り取り」「自分だけにしかないものを作り出し」「現実に向かって出力する」ことで自らの運命を変えることができるのです。
HSPに関する知識や理解は、心の専門家たちにおいてさえ、まだまだ不十分であり、敏感すぎる自分にどう対処してよいかわからずに困っている人たちがたくさんいます。
本稿は、HSPの性質からもたらされる日常生活の生きづらさについて、具体的説明や対策などについて、脳科学的知識を入れてなるべくわかりやすく解説しています。HSPの理解を深める役にたち、HSPという概念があなたの生きる苦労を癒してくれる心の居場所になることを願っています。
マンガ「気になりすぎて、生きづらい毎日…。」
敏感すぎて生きづらい…
「人の気分や感情にすぐ左右されてしまう」
会話の相手が不機嫌そうなそぶりを見せると、ドキドキしたり、いつの間にか自分までイライラしてきたり……。他の人は特に意識していないのに、相手の感情や緊張に敏感に反応する自分に困ってしまう、そんな悩みはありませんか?
最近、「気にしすぎていつも疲れている」「人の気分に振り回されてしまう」という悩みを抱えている人が増えています。
「私はダメな人間…と、自分を責めてしまう」
仕事などでトラブルが起こると、たとえ自分に非がなくても、「自分のせいかも」と自分を責めてしまいます。何か悪いことをしたかな?と考えすぎたり、いつも相手の顔色をうかがってしまうなど、子どもの頃から自分の自意識過剰に悩み、自分にダメ出しをして生きてきた傾向があります。
「他人にどう思われているかが気になって仕方がない」
敏感すぎる人の中には、「どこにいても何をしていても、人の気持ちを考えてしまう」という人が多くいます。「嫌われるのではないか」「馬鹿にされるのではないか」「変に思われるのではないか」などと気になって仕方がなく、いつも相手に合わせて生きてしまうのです。
HSPは生まれつきの気質?
アメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン博士は自分自身も繊細で、敏感な神経を持っていました。博士は自分の内面や同じ傾向を持つ人たちを観察・研究して、見つけだしたのが「HSP」という概念です。
HSPとは、「Highly Sensitive Person」を略したもので、「とても敏感な人」の意味です。
アーロン博士の研究によって、どの国でも人々の15〜20%程度の割合で、HSPがいることが判明しました。さらに、HSPは環境や性格などによる後天的なものではなく、先天的な気質であることがわかってきたのです。
「性格」や「人格」は育ちながら作られていく考え方や行動のパターンのことで、「気質」は感情や行動、刺激などに反応する生まれ持った心のパターンのこと。
敏感すぎるあなたは、ひょっとしてHSPかも?
HSPはふとしたことで敏感に反応してしまうため、非HSPなら気にしないことが過剰に気になったり、生きづらさを感じたりすることがあります。そして生まれ持った優しさゆえに、トラブルがあると自分のせいと考えて、ストレスを抱えこんでしまうのです。
HSPは社会全体の人の20%ほど存在しますが、残りの80%は非HSPです。「鈍感な、気のきかない人たち」に囲まれて、疲れ果てながら生きている状況なのではないでしょうか。
すぐにびっくりしたり、人混みが超苦手だったりするなら、あなたもHSPかもしれません。ただ、HSPは気質であって、病気ではありません。その気質を知ることで、無理をせず生きていけるようになります。
■イラスト/森下えみこ
■本稿は『敏感すぎて生きづらい人の 明日からラクになれる本』(永岡書店)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
HSPに関する知識や理解は、心の専門家たちにおいてさえ、まだまだ不十分であり、敏感すぎる自分にどう対処してよいかわからずに困っている人たちがたくさんいます。本書は、HSPの性質からもたらされる日常生活の生きづらさについて、具体的説明や対策などについて、脳科学的知識を入れてなるべくわかりやすく解説しています。
著者のプロフィール
長沼睦雄(ながぬま・むつお)
十勝むつみのクリニック院長。日本では数少ないHSPの臨床医。平成12年よりHSPに注目し研究。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。道立子ども総合医療・療育センターにて14年間小児精神科医として勤務。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行っていた。平成28年9月に開業し、HSP診療を中心に診療し、脳と心(魂)と体の統合的医療を目指している。
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