【パーキンソン病の介護】症状と特徴の理解がポイント 寝返り、起き上がり、立ち上がり、歩行の介助

暮らし・生活・ペット

パーキンソン病の人は、さっきまで階段を上っていたのに、ベッドに横になったとたん「寝返りを打たせてほしい」と言うことがあります。病気の特徴について知らないと、「甘えている」と誤解してイライラしてしまうことがありますが、そうではありません。「体をひねる」動作が難しいのです。【解説】三好春樹(生活とリハビリ研究所代表)

執筆者のプロフィール

三好春樹(みよし・はるき)

1950年生まれ。生活とリハビリ研究所代表。1974年から特別養護老人ホームに生活相談員として勤務したのち、九州リハビリテーション大学で学ぶ。理学療法士(PT)として高齢者介護の現場でリハビリテーションに従事。1985年から「生活リハビリ講座」を開催、全国で年間150回以上の講座と実技指導を行い、人間性を重視した介護の在り方を伝えている。『関係障害論』(雲母書房)、『生活障害論』(雲母書房)、『ウンコ・シッコの介護学』(雲母書房)、『介護のススメ!希望と創造の老人ケア入門』(ちくまプリマー新書)など著書多数。
▼三好春樹(Wikipedia)
▼生活とリハビリ研究所(公式サイト)
▼@haruki344(Facebook)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

本稿は『イラスト図解 いちばんわかりやすい介護術』(永岡書店)から一部を抜粋して掲載しています。

イラスト/ひらのんさ

パーキンソン病の人の介護術

人は「直線的な動き」ではなく、「曲線的な動き」をすることが自然であるとお伝えしてきました。しかし、例外もあります──パーキンソン病の人の場合です。

パーキンソン病
勘違いしてませんか?

パーキンソン病の人は「曲線的な動き」が難しい

パーキンソン病の人は、さっきまで階段を上っていたのにベッドに横になったとたん「寝返りを打たせてほしい」と言うことがあります。病気の特徴について知らないと、甘えていると誤解してしまうことがありますが、そうではありません。体をひねる動作が難しいのです。

そのため、パーキンソン病の人にとっては、ここまで紹介してきた生理学的直線ではなく、むしろ直線的な動きのほうが動きやすいのです。

パーキンソン病の症状

(1)筋肉がこわばる(固縮)

全身の筋肉がこわばり、特に関節を曲げる筋肉に強く出ます。そのため、前かがみで両腕を曲げ、内またという特有の姿勢になってしまいます。無表情なのも顔の筋肉がこわばっているからで、決して無感動なのではありませんから誤解しないでください。しゃべりにくくなるのも、口や舌、のどの筋肉がこわばるせいです。

(2)動きが遅くなる

歩こうとしても最初の一歩がなかなか出なかったり、歩き出すと今度は止まれなくなったりします。筋肉がこわばってコントロールが難しい、また、動作がゆっくりになるのは自律神経のバランスが崩れていることが原因です。

(3)手や足のふるえ

片方の手のふるえが最初の症状だというケースが多いです。動いているときにはふるえが止まるので「静止時振戦」と呼ばれますが、症状が進行すると生活にも影響してきます。

パーキンソン病の特徴を知り、誤解せず気持ちよく介助しよう

パーキンソン病の人が誤解されやすい原因を、私は3つにまとめています。

▼(1)機能障害の特異性

「階段は上れるのに、寝返りができない」のは、筋肉がこわばって体をひねるという動作が苦手なためです。また、歩くときに手が振れないことや、歩幅が小さいのも機能障害が原因といえます。

▼(2)機能の変動性

同じ動作が、さっきはできたのに今はできないというように変わってしまいます。1日のなかでも気温の変化でできなくなるし、梅雨には動けなくなることもあります。心理的に緊張すると筋肉がこわばって動けなくなることもあります。

▼(3)身体機能低下過程の特殊性

自力で歩いていたかと思うと、突然車イス全介助になることがあります。杖や歩行器、車イスの自力駆動が困難なためで、サボっているのではありません。

自立法パーキンソン病の人の寝返り

寝返りは体をひねるため苦手な動きですが、「寝返り動作の3要素」を使えば一人でできるはずです。手足と頭を上げておいて、反動を使ってバタンと横向きになります。

(1)ひざ、手、頭、肩を上げる

「寝返り動作の3要素」を今こそ使いましょう((7)「介助の基本 寝返り」参照)。パーキンソン病は筋肉のマヒはないので、全て一人でできるはずです。

(2)反対方向に体を倒す

寝返りたい側の反対方向に体を倒します。ひざ、手、頭、肩が上がって重心が高くなっているので軽く倒すことができます。

(3)反動をつけて横を向く

反動をつけて寝返りたい側に、ひざ、手、頭、肩を振ってください。スムーズに寝返りができます。しかも床につく体の面積が広くなり、安定した横向き姿勢になれます。

自立法パーキンソン病の人の起き上がり

体をひねり、横向きになって起き上がるのが自然な動きですが、パーキンソン病の人には難しいです。両脚を振り下ろす反動を使って、あえて直線的な動きで起き上がります。

(1)両脚を上げる

反動を使って起き上がるために両脚を上げます。

(2)両脚を振り下ろす

上げた両脚を振り下ろし、反動で上半身を起こします。体が硬いことがプラスに作用して起き上がりを助けてくれます。

(3)起き上がり、前傾姿勢をとる

上体を完全に起こし、前かがみ姿勢になってバランスをとります。パーキンソン病の人は、この前傾姿勢をとるのは得意です。

自立法パーキンソン病の人の立ち上がり

座った姿勢から体をひねって四つばいになるのが普通のやり方ですが、パーキンソン病の人は、体をひねるのが苦手です。でもこの方法なら一人で立ち上がれます。

(1)20cmぐらいの高さのベッドに寝る

ベッドと床の落差を利用して、四つばいの姿勢になり、台に手をついて立ち上がる方法です。

(2)寝返りを打ってベッドから下りる

寝返りの要領で、ひざ、手、頭、肩を上げて体を反対側に倒し、反動をつけて横を向き、ベッドから転がるように下りて床に手をつきます。

(3)四つばいの姿勢から立ち上がる

安定のいい台を用意しておき、そこに手をついて立ち上がります。パーキンソン病の人の中には、立てば自力で歩けるという人がたくさんいます。

一部介助パーキンソン病の人の歩行の介助

パーキンソン病の人は、体のバランスがとりにくかったり、歩行に障がいが出たりします。両手をつかんで前に引っ張ると転倒の危険がありますので注意しましょう。

ポイント(1)介助者の位置

パーキンソン病の人の場合、マヒはありませんが、左右どちらかに倒れやすいはずです。介助者は倒れやすい側に位置してください。これで安心して歩けます。

ポイント(2)手を軽く支える

パーキンソン病の人は両手でうまくバランスをとって歩くので、手を強く握らないでください。「奥さま、お手をどうぞ」と優しくナビゲートするイメージで軽く支え、手が自由に動かせるようにしましょう。介助者はもう一方の手を体の後ろに回してベルトを持ちます。これも転びそうになったときのための支えですので、軽くつかむ程度です。

パーキンソン病の人は、歩き始めの一歩がなかなか出ないことがあります。介助者の足を前に出して、「これを乗り越えてください」と伝えると、一歩目がスムーズに出てくることがあります。段差を越えるという意識的動作は得意なんです。

なお、本稿は『イラスト図解 いちばんわかりやすい介護術』(永岡書店)から一部を抜粋して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。

イラスト図解 いちばんわかりやすい介護術
¥1,650
2020-12-15 9:42

※(17)「安全で快適な車イスの選び方」はこちら

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